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由衣と祐也  作者: 雪月花
13/17

文化祭の定番?

 家に帰ると、両親が待っていて、今日の劇をベタ褒めしてくれた。お父さんなんて、ビデオに撮っちゃったらしい。

 写真を引き延ばして、額に飾ろうかというのを聞いて、止めてもらうよう懇願した。


 「いやー、由衣、素晴らしかったぞ。綺麗だったぞ~!」


とビールを飲みながらご機嫌なお父さん。この親バカめ。

 お母さんは、


 「この際だから、由衣、ふだんからコンタクトにしなさいね。あなたも年頃なんだから、少しは身をかまってね」


と言われた。あ、そうですか。

 美花ちゃんがコンタクトをとるな、と言ったのも、そういうことなのかな。


 夜、スマホを見たら、美花ちゃんからメッセージが入っていた。


 「明日もコンタクトで来い」


とのこと。命令ですか。そうですか。はいはい。母の命令もあるので、そうしますよ。それから、


 「学校に着いたら、すぐにテニス部部室に直行すること」


だって。なんだろう。


 翌日は、一人で登校した。祐也は喫茶店の準備で早いんだけど、私は9時までに行けばいいからのんびりだ。

 久々に一人で登校したら、なんだか物足りなかった。祐也とぼそぼそっと話しながらの登校は楽しかったんだな、と今更ながら思った。

 昨日は舞台成功を祝う打ち上げで、クラスのみんなで駅前のファミレスで夕飯を食べたので、祐也と帰れなかったし、祐也から連絡もなくて会えなかったし……。


 学校についてすぐテニス部の部室に行くと、みどりちゃんと佳代ちゃん、美花ちゃんが待っていた。


 「どしたの~?」


という私に、美花ちゃんが、


 「コンタクトはよし。しかし、この髪……良かった、呼びつけておいて」

 「ほんとに」

 「まったく」


 佳代ちゃんたちが美花ちゃんのいうことに同意している。

 私はただ後ろで黒ゴムでひとつに結んできたんだけど、お気に召さなかったらしい。


 「はい、そこ座って」


と椅子に座らされて、前髪をあげてとめられて(ポンパドールと言うらしい)、さらにハーフアップにされた。


 「綺麗な髪だから、後ろはおろしておきたいんだけど、由衣のことだから、顔周りが邪魔、とか言ってテキトーにむすんじゃいそうだからね」


 よくご存知で。


 「でも、なんで急に私の髪型まで……?」


という私の問いに、


 「うん、たぶん、いろんな人が由衣のこと見に来ると思うんだよね。だから、ジュリエットのイメージを崩さないようにね」

 「え、でも、あれはほぼ別人……」

 「そうでもないんだよね。この由衣なら」


 メガネとって、髪型いじるだけでそんなに変わるものかと思ったけれど、まぁ、見に来る人なんていないだろうし、と気にしないでおいた。

 しかし、今までの私はよっぽどひどかったのね、と少し落ち込んだ。母親含めてこう何人ものに言われては、認めざるを得ない。




 美花ちゃんは彼氏とまわるというので、私はいつものように、佳代ちゃんとみどりちゃんと連れ立って校内をまわることにした。

 3人で歩いていると、時々、「ジュリエットだ」「本物だ~」(?)というような声が聞こえた。昨日の舞台を見てくれたんだろう。ありがたいとは思うけど、恥ずかしい。

 美花ちゃんが言ってたように、メガネかけないと、わかっちゃうんだなぁ。


 一度なんか、1年生の男の子に、


 「ジュリエットさん、握手してください!」


と寄って来られて、えっと驚いてうろたえている間に、男の子に手を取られて握手させられた。「やった!」と言いながら走り去った嵐のような彼を見ながらボーゼンとした私たちだった。その後、佳代ちゃんとみどりちゃんは爆笑していたけど、私は戸惑うばかり。

 「ま、津田(祐也)くんたちの喫茶店に行こうよ」という佳代ちゃんの言葉で気を取り直して歩き出した。


 喫茶店は、まぁまぁの入りだった。さっきまで混んでいたのだが、体育館で、人気のある男の子たちのバンドの演奏が始まったので、一気に空いたそうだ。


 テーブルに着くと、注文を聞きにくい来てくれた男の子が、


 「お、松木さん、昨日の良かったよ」


と言ったあと、


 「あ、祐也、呼ぼうか」


と言うやいなや、裏の方に、


 「ゆうや~、ジュリエットだぞ~!」


と声をかけたせいで、教室中の人が一斉にこちらを見た。もう、恥ずかしすぎる……。


 祐也が、ひょいと顔をだし、私の顔をを見ると、ちょっとうろたえるような表情のあと、廊下の方を指さした。


 え、廊下に出ろって?

 私も廊下を指さすと、うんうん、と顔を動かす。


 「ちょっと、外に出てくるね、すぐ戻る」


と二人に言い置いて、廊下に出ると、祐也が待っていた。


 「……今日は午前中で係の仕事が終わるんだ」

 「あ、うん」

 「……」


 待っているのに、その後の言葉がない。

 どうしたんだろう、と首を傾げて祐也を見ると、視線を外されてしまった。


 私も「えっと……」と言ったものの、何を言うべきか、わからない。


 「今日は一緒に帰れるってことかな?」


と聞いてみると、


 「あ、あー、うん。帰ろう……」

 「5時頃に来ればいいのかな?」

 「えっと……」

 「決まってないんだったら、メールかなんかで後で……」

 「一緒にまわろう」

 「え?」

 「午後、一緒にまわろう」

 「あ、いつものみんな? 佳世ちゃんとみどりちゃんにも言っとくね」

 「えっ?! いや、いや……オレと二人じゃだめか?」

 「は? あ、ううん、いい。いいよ」


 意外な申し出にびっくりしたけれど、祐也と午後、会う約束をして、また中に入る。

 みどりちゃんに、


 「二人でまわろうって?」


と聞かれて、


 「なんでわかるの?!」


と言ったら、


 「そりゃ、ねぇ」

 「文化祭の定番でしょう」

 「しかも、あのジュリエットの後だし」

 「みんなにアピールしとかなきゃ、ねぇ」


と二人だけでわかる会話をしていた。




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