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由衣と祐也  作者: 雪月花
12/17

ハプニングもあったけど、劇は成功した模様

さぁ文化祭当日。私たちの舞台は文化祭1日目だ。


 私は朝から、クラスの女の子たちにいじられまくっていた。


 「はい、由衣、こっち向いて。うん、もうちょっと上。ほんと、ファンデがのりやすいわぁ~、健康な肌!」

 「おお~っ、毎日コート走り回っているわりにデコルテ白いね! ドレスが映える!」


 みんな高校生のくせに、専門家みたいな用語使っちゃって。美容話大好き美花ちゃんなんか大張り切りだ。ちょっと怖いくらい……。


 「髪、伸びたね」

 「だって、夏休み前に、伸ばせって言ったじゃない」

 「ジュリエットだからねえ。元々ロングだったから良かったよ。しかも、カラーリングもしてないから、見て、この天使の輪っ! なんて健康な子なの! うふふっ」


 いったいどんな化粧や髪型が出来上がるのか、不安になるよ、まったく。

美容班(?)が私をいじりながら、きゃあきゃあ言ってると、衣装班がドレスを持って来た。


 「うっわー! 衣装班、がんばったねぇ、きれい~!」


 ドレスは、胸の下切り替えで、下までふんわり落ちる形。良かった、コルセットするようなやつじゃなくて。胸元も映画のものほど空いてないし。

 それを着て見せると、さらに「きゃあ」で盛り上がる理科室(理科室を楽屋に借りてるんだよ)の少女たち。異様だわ。


 「さ、メイクも出来上がったよ。この美花さんの傑作をご覧あれ」


という声で、みんなが私の方を向く。

 1、2、3、4秒ほどしーんとしたあとで、みんなはまたもや「きゃあ~っ!!」と悲鳴のような声を上げる。どうしたんだ。


 「すっごい、美人!!!!」

 「由衣、惚れそう!」


 は? 鏡を見せてもらって、驚いた。誰だ、コレ。


 「由衣は元もと美人だって前から言ってたでしょ! いつもあまりにもほったらかしで、前髪もただテキトーに切ったような髪だし、色気のないメガネをどーんとかけてるし。でも、さっぱり系の美人なんだよ。肌はキレイだし目なんか涼しげだし。だから、ちょっとお化粧しただけで、映えるの」


 美花先生の講釈にみんな聞き入っている。


 「前髪上げたのも良かったよね。おデコが出ていて初々しい」

 「うん、かわいいよね」


 美花画伯の作品展のようだ。でも、自分でもけっこうきれいかも、とうぬぼれそうになるくらいの出来だったことは確かである。舞台用なので、少し派手だけどね。


 他の女の子の出演者たちもみんな化粧していて、きれいになっていた。


 もうすぐ本番。クラスのみんなが理科室に集合した。

 おお~う、加賀くんはやっぱり王子様だわ。かぼちゃパンツじゃないにしても、あんなキラキラ衣装来て絵になるってどういうこと?


 「松木さん(私のことです)、きれいだなぁ」


 加賀くんは私を見るなりそう言った。なんでこの人は、そういう恥ずかしいことをサラッと言うんだ。しかも、違和感がないって……。

 しかもまわりのみんなも、それに同調して、


 「なんか、見ていてドキドキするよな」

 「おう、別人かと思ったぜ」

 「美人だよなぁ」


 なんて言ってる。(「別人うんぬん」と言ったやつは美花ちゃんに殴られていたけど、それが正しい反応だと思う)


 舞台では、ドレスを踏んで少しよろけたところもあったけど、加賀くんが支えてくれて事なきをえた。私は自分なりにベストを尽くせたと思う。


 実は、みんなには言ってないんだけど、舞台上でびっくりするようなことがあったのだ。

 ジュリエットが仮死状態になった時に、ロミオが死んでいるジュリエットにキスするシーンがあったんだけど、本来は片手を頬に添えて、顔を近づけるだけだったはずなのに、加賀くんが唇の脇に本当にキスしたんだよ。

 もう、びっくりして、仮死状態のはずなのに、飛び起きそうだった。ここで、死体を演じきった私は偉いと思うぞ。


 とまあ、ハプニングはあったけど、なんとか終えたあと、私はもうぼーっとして、なにも考えられなくなっていた。


 「由衣、由衣、良かった! すごく良かった~! 」

 「もう、由衣はサイコーのジュリエットだよ! 」


 劇は成功だったらしく、クラスの女の子たちが泣きながら、私を抱きしめた。

 良かった。ちゃんとできたんだ。まわりがわぁわぁいってたけど、私の頭の中は真っ白で、でも幸せな感じだった。


 みんなに引きずられて、体育館の前で全員で記念写真を撮って、あとは控え室で伸びていた。いや、冗談ではなくて、ほんとに伸びていたんだよ。緊張の糸が切れたというか。


 どのくらいたったかな、休んだあとで、衣装を脱いで、美花ちゃんに化粧も落としてもらった。ついでに髪もハーフアップに結って、毛先も少しカールさせてくれた。


 「由衣、今日は疲れているだろうけど、そのままコンタクトでいようね」


 美花ちゃんがそう言った。

 そう、私は今日のためにコンタクトをしていた。メガネのジュリエットなんていないし、舞台で転んでも、とお母さんが「コンタクトつくりなさい」と私をコンタクト屋さんに引っ張っていったのだ。


 劇が終わったらはずそうと思っていたんだけど、美花ちゃんに止められてしまった。なぜだ?と思ったけど、逆らう元気もなかったので、そのままうなずいた。


 「元気出た? 教室でみんな待ってるよ」


と言われて、みんなを待たせてしまっていたことに初めて気づいて、やっと頭の中がはっきりしてきた。


 「あ、ごめんね。ひっくり返っていて」


と謝る私に、そこにいた美花ちゃんや佳代ちゃん、みどりちゃんが、


 「大丈夫だよ。大変だったんだから、このくらい当然だよ」

 「うん、ものすごい評判だったんだよ」


となぐさめてくれた。


 教室に入ったら、みんながわぁ~っと寄って来て、拍手までしてくれた。


 「さっきから、ジュリエットはいるか、って問い合わせが殺到してるよ」

 「えっ?! 私、なんかミスしちゃってた?」

 「違うよ、すごい良かったからだよ」


 なんでも、舞台は大成功で、加賀くんファンの女の子がおそらく倍増しただろうと誰かが言っていた。元々多いのに、そんなにか。

 それから、ジュリエット役の私はメイクのおかげで別人だったせいで、「あれは誰だ?!」と問い合わせが殺到したらしい。うん、美花ちゃん、グッジョブ。それだけでなく、演技も素晴らしかったと、演劇部がスカウトに来たとか。


 「いやー、びっくりしたよ。練習中から、これはいけるんでは?と思っていたけど、由衣があんな切なそうな演技ができるとは思ってなかった」


と佳代ちゃん。


 「そうそう。あれは由衣に惚れた男がどっさりいるね」


と美花ちゃん。

 まさか、という私に、まわりのみんなが、「そんなことないって!」と言い募ってきた。

 そこに、加賀くんが、


 「いや、ほんと、オレもよろっときた。あんな顔で見つめられたら、思わず、なぁ」


 あ、思い出した。


 「あーっ、死体のとき!」

 「そうそう、ごめんね。ちゃんと津田(祐也)には言っとくから」


 え? なんのこと?


 「うん、大丈夫だよ、そのことについては箝口令を敷いてるからね」


 みどりちゃんが、私に安心しなさいとぽんぽんと頭をたたいた。

 なんのことかわからなかった私が説明してもらったところ、加賀くんがほんとにチューしてしまったのは、観客側からは手があってよくわからなかったものの、舞台にいた何人かにはわかってしまったらしい。

 それを聞いて、ぎゃーっと叫んでしまった私は悪くないと思う。ボンっと煙が出たんじゃないかってくらい顔が熱くなって、赤くなって……。


 「こんな顔見せられると、やばいんですけど」


と、加賀くんが言った一言で、まわりの女の子たちが、ほーうっとため息をついた。


 それを見ていた男の子たちが、


 「やー、いいもの見せてもらっちゃったな。リアルジュリエット?」

 「うん。松木さん(私のこと)って、可愛いんだなぁ」


 なんて言ってるのが聞こえたので、あわてて、


 「や、あれは化粧のせいで」


と口を挟むと、


 「え? 素顔の今も美人でしょ」


と返されてびっくりした。みなさんロミジュリフィルターかかってませんか?


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