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由衣と祐也  作者: 雪月花
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恋愛体質でないジュリエット

 文化祭がやってくる。

 3年生が大学受験に不利にならないよう、10月最初に文化祭。そうは言っても、主力は2年生で、やはり3年生は準備に手間がかからないものを選ぶ。


 残暑厳しい9月に、準備を(超特急で)やるのはけっこう大変だ。

 しかし、何を思ったのか、うちのクラスは、劇をやるんだよね。しかも「ロミオとジュリエット」。はぁ~っ?と思うなかれ、下手に現代劇をやるよりマシなんだそうだ。あまりリアリティがなくて、それなりに形になるらしい。しかも、誰でも知っている話であることが望ましいと。


 とんでもないことに、夏休み明けすぐのHRで、私がジュリエットに決まったのだ。なぜ?? なぜ私が?

 実は、ロミオ役はすぐに決まったんだけれど、ジュリエット役は選ぶのに難航した。ロミオ役の男の子が学年一ハンサムのモテ男の加賀くんだったために、割とおとなしめの女の子が多いこのクラスでは、立候補者は現れず、それどころかみんな回れ右をしてしまった。やっかみが怖いというのがその理由なのだが……。


 で、なんで私になったのかというと、例の国際交流の会のミーティングとHRが重なった時、つまり私のいない時に誰ぞが推薦してくれちゃって決まったらしい。推薦理由は、「長身の加賀くんと背丈がピッタリ」なんだそうな。そんなどうでもいい理由って……。


 「あんまりだ~」


とみどりちゃんに泣きつくと、彼女は、


 「いや、割といいと思うよ」


と返してきた。


 「なんで?!」

「だって、あんた声いいじゃん。舞台で映えるよ」


とのこと。たしかに、声は通ると言われる。大きな声を出すことはあまりないんだけど、「なんとなく由衣の声はわかる」と言われたことは何度かある。

 佳代ちゃんも、


 「うん。それに、背が高いっていうのも、あながちハズレな理由じゃないよ。舞台映えするからね。由衣は度胸もあるし、いけるんじゃないかな」


 はぁ、そんなものなのかなぁ。他のクラスの女の子にいじめられないか、という私の問いには、


 「あ、それは大丈夫。クラスのみんなで対処したから」


とのお答え。え? え??


 「《短い準備期間に大量のセリフをいとも簡単に覚えられて、しかも加賀くんの背丈に釣り合う女の子を選んだ》という選抜理由を学年中に流した」


とのこと。わけがわからない。そんなんでいいのか。

 それにしても、劇だということは1学期末に決まっていたのに、準備は夏休み明け1カ月ちょっとでがーっとやってしまうって、うちの学校(クラス?)ってどうかしてる。


 「まぁ、由衣は加賀くんに懸想することはないと思われてるから、大丈夫だよ」


 け、けそう? え、なんで? という私の問いには2人は答えてくれなかった。なんなの、いったい。



 まぁともかく、なんやかやで練習がはじまった。まずは台本の読み合わせ。

 そこで、クラスのみんなが「おおっ!」と驚いてくれた。読み合わせ、というから、覚えていったほうがいいのかな、と思って、セリフを全て暗記していったんだけど、まだそこまでやらなくても良かったみたい。でもさー、のんびり構えてる場合じゃないと思うんだよね。


 そして、教室で立ち稽古。加賀くんはさすがモテ男だけあって、ヒーローに向いている。甘いセリフを言っても様になることこの上ない。声も優しげなのに、よく通る。ほら、周りで見ている女子の頬がほんのり赤い……良い人選だわ~。

 私の方は、うーん、根本的に恋愛劇に向いているか、という問いは置いておいても、なんというか、華がないと思うよ。


 しかし、シェイクスピアで良かった。古めかしい言い回しのおかげで、甘ったるいセリフも言える。現代劇だったら、ぜったいムリだった。顔から火が出ちゃう。

 だいたい私は古文の教科書を音読しちゃうくらい古めかしい言い回しは好きだ。この劇は洋モノだけど、やはり古めかしい感じは似通っている。気に入ってしまった。台本書いた人、上手かも。


 自分の予想に反して、みんなは「なかなかいい」と言ってくれる。なかには、「由衣の隠れた才能を見たよ」なんて言ってくれる人もいる。

 そこまでじゃないにしろ、裏方の役には立たない(衣装作るのも、背景を描くのも無理)私だ。こうなったら、自分のできることを全力でやるぞ、と決心する。

 そう決めたら研究!

原作の読み返しはすでにしていたので、映画を借りてきて見たり、スマホには映画音楽も入れて、毎日のように聴くことにした。少しでも気分を盛り上げなくちゃね。



 さて、9月の中旬に例の国際交流の会が終わって、学校は一気に文化祭気分になってくる。

 部活との兼ね合いもあって、みんななかなか忙しそうだ。私はといえば……「ロミオとジュリエット」にどっぷりハマった毎日だった。

 練習の前の日には必ず映画の同じシーンをチェック。なんと私は映画のDVDを買ってしまっていたのだ。

 自宅リビングのパソコンを前に(○mazonのサイトですね)、買おうかどうしようかとうーむと悩んでいたら、お父さんがほいっと買ってくれたのだ。「必要なんだろう?」と何でもないことのように言われて感激したものの、その後、


 「由衣のジュリエット、楽しみにしてるぞ」


と言われて、さらに悩んでしまったのだけれど。見に来るつもりなのか……。



 お父さんが買ってくれたDVDは2本あった。1968年のものと1996年のもの。大昔(1968年版)のは、とってもきれいで胸が大きい女優さんが演じていて、ほんとに古典劇そのもの。衣装の子なんかは、この映画を借りて見て、かなり参考にしたと言っていたっけ。私はあんなに胸ないんだけど、大丈夫かな。

 1996年版は、レオナルド・ディカプリオが出ていた。お父さんはこの映画を、昔、見たことがあると言っていた。今はおじさんのディカプリオが超可愛い男の子でびっくりしたよ。ジュリエット役の女の子もとっても可愛いかったし、なによりこれは現代劇にアレンジしてあったので、とっつきやすかった。


 映画の役者さんみたいに、というのは無理だけど、雰囲気だけでも似せてみようと思ったんだよね。だって、私にはそんな恋愛の経験なんてないし、TVの恋愛ドラマも見ないし、本好きなのに恋愛小説もたくさん読んでいるとは言いがたい。そんな私が想像だけで演じるにはかなり無理があるでしょ?

 もう何回も見たせいで、英語のセリフを暗記してしまったところもたくさんあって、思わず英語が出そうになって困ったりした(映画は英語だから)。それでも、演じるときは映画のジュリエットの表情を思い出して、雰囲気をまねしてみたりと、自分なりに努力はしたんだ。

 そんなこんなで、そろそろ10月の声を聞く頃には、私は頭の上から足の指の先まですっかりシェイクスピアの世界に浸っておりましたよ。


 ある日の帰り道、祐也と歩きながら、文化祭の話をしていた。珍しく、祐也が劇のことを聞いてきた。今まで、その話に触れたことなかったんだけどね。


 「……どうなんだ?」

 「どうって? なかなか上手くいってるよ」

 「っ?!」

 「? 劇の練習でしょう? 上手く進んでいるよ」

 「そうか。劇の練習か」

 「え? 何の話だったの?」

 「いや、加賀が……由衣のことを可愛い……って……」

 「え? 加賀くんが何?」

 「いや、なんでもない」


 ちょっと挙動不振な祐也だったが、私が


 「祐也たちは喫茶店なんだって? 私、ぜったいに行くからね!」


というと、


 「……ああ、来てくれ」


と言って、その話は終わった。






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