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本物側

作者: 弥生

 あなたはなにものでしょう。

 そう問われて満点の答えが出せるは機械か愚者だけ。

 さぁ、考えることなどやめて、共に踊りましょう。思考など放棄すればいい。

 いざ、歓楽の美酒の中へ。


 どんな時間になっても星々が煌々と輝き、人々のざわめきの絶えないこの都会。

 資源を大事に電力を大切に、と問う先間違えてるんじゃないかなと私は考えてみるが、ホストクラブの勧誘らしきニーさんに言い寄られてすぐに考えることをやめた。私は自分ではよくわかってはいないが、流れるようなブロンドの美しいツーテールの女性、であるらしい。身長は低めだったり高めだったり、なんでみんないうことが違うんだろう。あとはお気に入りの真紅のバッグで決めている。スタイルをさらすような服はあまり好まなかったが、今は暑い夏だ。いやでも薄着を着なければならない。だから変な虫が寄ってくる。全くうっとうしいかぎりである。

「私は急いでいるのだわ」

「まぁまぁ、そんなこと言わないでよ、いい話があるんだけどさ…」

 ホスト風の男は後ろをついてきてはなれない。

「私は急いでいるのだわ」

「絶対損はさせないからさ!」

 ホスト風の男は後ろをついてきてはなれない。それどころか、肩を掴んできた。

「なんでそんなことがわかるの?」

 私は肩の手を振りほどき、振り向きざまに、ホスト風の男に突っかかる。

「私のことを何も知らないあなたがよく私が喜ぶようなことを知ってるわね、生憎お金に関しては困ってないし、男遊びにも興味はない私が楽しめるようなことを、なにか教えてくれるのかしら? まさか性の喜びとかいわないわよね?」

 ホスト風の男はいきなり声をあげた私に驚き、多少戸惑っていたが、すごすごと退散していった。

 周囲の視線がなんだか痛い。

 こういう都会は、過ごしていて頭の中が真っ白になるから……嫌いじゃない。自分がいるって実感できる。

 愉快愉快、と私はバッグを振り回すと、コンビニに向かい、紅茶のペットボトルを買い、仕事場へと向かった。特別高いビルに入って指紋認証、虹彩認識を行い、エレベーターで昇っていく、人の姿はなく、ほとんどのオフィスは暗闇に包まれている。そしてエレベーターの文字表示が消えた時、チーンとドアが開いた。

「fack u men!」

(ごきげんよう、リバさん)

 ドアが開くなり気さくに声をかけてきたのはガードボットのヒー君。ユーモア度90%に設定してある。

「no no no fuck」

(ごきげんよう、ヒー君)

 私も気さくに声をかけてやる、この世界では機械の方が正直で裏表がないので、気楽に答えられる。

「今日のお仕事の予定はメンテナンス3件です」

 机に座るとヒー君と同じく電子メイドのシーちゃんがこちらに声をかけてくる。

「番号は?」

 私はシーちゃんに問いかける。

「1324535353 354646446453 3535366464 障害発生理由は因子の自我発生によr……」

「いいわ、現場に行けばだいたいわかるから」

 私はもう慣れっこだから、という感じでシーちゃんに手を振る。

 私の職業は滅びた世界を再現した場に逃げ込んだ人々の見守り手の一人。

 この、私が現状ダイブしている世界の維持管理を目的とした機構に所属している。

「1324535353の現場へ参ります」

シーちゃんが量子テレポートをすることを伝えてくる。

 現場は凄惨だった、自分がいたことと、今の自分がもう電子上にしか存在しないことを認めようとする自意識とのせめぎあいで、自傷行為、痛みによる確認、さらには他殺による現状の確認などが行われ、数人が犠牲となっていた。

「シー? なんでこの人は自意識が芽生えたのかしら?」

「プログラム上での行動経路、思考を確認中……外部ネットよりの接続の形跡……? 何をしたか、されたかがわかりません潰されています」

「ハッキングですって、穏やかじゃないわね……とりあえず因子的な問題じゃないのならこの人たちの復元をしてみて、再現性があるかどうかからたどってみましょう」

 私は紅茶を一飲みすると、考える、外部からの干渉ができるのは、同等の権限を持つもの以上でないといけないはずだ。しかし、こんなおんぼろの星を弄って何がしたいのか、それがこれだとわからない。とりあえず、次の現場に……


「シー、これは」

「ハッキングですね。心理的錯綜による集団自殺です」

「次の現場へ……」


「……シーこれは……?」

「ダイイングメッセージというやつでしょうか。壁に派手に書いてありますね。あなたはぼくの、りば…あなた宛てですよ?」

「最低の気分だわ」


 現実世界での敵対者もいるにはいるが、この世界でまでやりあいに来るような相手がいるとは考えたくもなかった。

 だが、久々に、私も思考しなければならなくなったようだ。

「ヒー、シー、代行業務は任せたわよ」

 そういうと、私はヘッドギアを外し、モニタの前から椅子をけりだし、無重力の空間へと舞い踊った。

ガイドレールを掴むと、チューブで守られているので平気だが、慣れるまでは大変だった…圧倒的な闇の中へと滑り降りていく。そして、本船に戻ると、あたりに血なまぐさい臭いが充満していることに気が付く。

「やぁ、メッセージに気が付いてきてくれたのかいリバ」

「……? あなた誰よ」

「ここがかつての地球を管理しているサーバールームなんだね、こんなちっぽけな位牌が……僕はそんな無駄なことをする必要はないよって伝えようと思ってみんなに会いに来たんだ。だけど、全員、ここにはたくさんの命が眠ってるとか、生活があるとかくだらないことを言って、僕を私を否定するから、ぶっ殺してやった」

「へぇ、とても崇高ね」

 こいつキ印だわ、と私は考えながらも、ブラスターを用意してこなかったことを後悔する、侵入者ありってことだったのに。

「そういうあなたは何者なの?」

「僕は神さ、こんなにも簡単に人を台無しにできるんだから!」

 キ印は血塗れのまま、屈託のない笑顔で答える。

「……じゃあ復活させてよ、ここにいた皆を、ノブを、デクを、ニジッキョウを!」

 私は感情に任せて詰め寄っていく(ふりをする)男は驚きおののいてくれたおかげで、何とか手元のノブの遺体からブラスターを拾えた。そのまま驚いている相手のどてっぱらに数発ブラスターを打ち込んでやる。

 ……効いている感じがしない。ガードベストを着込んできているらしい。

「いつつつつ、ひどいなぁ、僕のことをうつなんて、君だけはそんなことをしないと信じてたのに」

 ぼくちゃんは態勢を立て直すと、そのままこちらに榴弾を放り込んでくる、すぐさま蹴り返して、明後日の方向が爆発する。

「誰よ、信じてくれてるなんて光栄だけど、知り合いだったっけ?」

 私は柱に転がり込みながら問いかける。

「忘れたの? カスラジ争乱の時に同じ師団で戦ったじゃない!」

 ……師団単位で覚えているわけないだろ。

「知るかー!」

 私は全力で叫んでえっ、っと呆然としているぼくちゃんの頭を狙撃する。

「勝手に知り合い扱いされて、こんな扱い受けてたら、たまらないっつーの……」

「ああ、僕の……リバ……さん……」

「うざい」

PAMPAM


 本部に連絡を取って、合同葬儀や引き継ぎで忙しい日々を終えた後、私は一段階えらくなって、日常へと戻った。

 結局機械も人間もメンテしてやらないと壊れるのは同じだが、人間は勝手に自らの部品を改造していく、そこが愛おしくもあるが……私はその愚かな面をたくさん見すぎてきた、だから……


 あなたはなにものでしょう。

 そう問われて満点の答えが出せるは機械か愚者だけ。

 さぁ、考えることなどやめて、共に踊りましょう。思考など放棄すればいい。

 いざ、歓楽の美酒の中へ。

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