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36 赤い瞳

 一体いつ侵入を許していたのだろう。

 私と兄さまのとき? シャノンとスピノザのとき? それとも私とシャノン、私とスピノザのとき? いつ、だれの時か見当がつかない。

 言えることは、緊張感を持って警備をしていた、ということ。ただ、絶対的な監視の目を持って警備していたか、と問われれば、即答しずらい。絶対という言葉ほど危ういものはないのだから。


「そんな難しい顔をしなくともいいのではないかの?」


 ウィンガーツの声が聞こえる。私に向かって話しているのはわかるけれど、サラッと右耳から左耳へ抜けいってしまった。


「大丈夫かの?」


「え?」


 ふいに、顎先を誰かに持たれて、上に向けられていた。


「私の声が聞こえているかの?」


「え、あ、……うん」


 こくりと頷きながら、なにをされているのか懸命に考えた。

 ど、どうしてウィンガーツが間近で私の顔を……? そうではなくて。

 顎先を持って問いかけているのが全くわからないんだが。


「難しい顔より、そなたは呆けた顔をしてうほうが似合ってるの」


「え? 呆けている?」


 慌てて顔を手で覆った。表情をつぶさに観察されているようで恥ずかしい。それにやっぱり近すぎる距離感が気になって仕方ない。


「顔を覆ってはそなたの顔が見れなくなってしまうではないかの」


「え、あ、いいんだ。み、見なくていいんだ、だ、だからっ」


 抵抗するも虚しく、ゆっくりゆっくりとウィンガーツに顔を覆っていた手をとられてしまった。そこには真っ直ぐ射る赤い瞳があった。背けたいのに背けられない。強制的ななにかが働いているような、惹き込まれる瞳が。


「だから、とはどういうことかの?」


 さらに覗き込まれて、本当に恥ずかしい。突き飛ばして逃げ出したいのに、なぜか抗えない。


「い、いや、え……あ」


「その少し困ったように眉を下げるさま、耳まで赤く染めるところも可愛らしいの」


「ひっ、あっ、ウィ、ウィンガーツ、そ、その、あの」


 なんて言ったらいいかわからない。ウィンガーツが触れてきた頬がとても熱い、気がする。


「それに、とてもそなたの心は澄んでいて心地よいの」


「え?」


 離れる間際、言われ慣れないことを言われて、反射的にウィンガーツを見上げたが、もう私のことは視界に入っていなかった。変わりに、兄さまと国境警備隊を抑えているシャムロックの人々に、視線は移っていた。

 ほんの数秒前まで見つめられていた時間がひどく懐かしく思える。……不思議な感覚でこそばゆい。


「……イビー? アイビー? 大丈夫ですの? ウィンガーツさんにかなり迫られていたようだけれど」


「ん? 迫られている? そういうわけではないと……思う……」


 歯切れのいい返しができず、ごにょごにょと言葉を濁してしまった。別にやましい気持ちなどないのに。


「そう? 顔が赤いけれど大丈夫ですの?」


「え、あ、う、だ、大丈夫だ。大事ない」


 熱でも測ろうとしたのか、シャノンが額に手を触れようと腕を伸ばしてきた。触れられたら、なんともいえない私の気持ちをシャノンが汲んで、言葉にされそうで。怖くなって腕を払い落としてしまった。


「アイビー?」


「ほ、ほんとに大丈夫だから」


 腕をさすっているシャノンから逃げるように、私は兄さまが抑えられている場所へ急いだ。ウィンガーツが向かった場所へ。


 そこには――、スピノザも来ていた。




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