32 思いもよらぬ再会
「シャノン、……その服は? そ、それに髪も」
声が震えてしまう。一体なにがあったというんだ?
二の腕を惜しげもなく晒し、胸元から腰にかけてだけ布がなく、ヘソを見せた格好!?
肩口から胸元にかけて、それから腰から足元をやたらヒラヒラで刺繍の凝った布で覆っているものの、視線が露出した部分を見ようとしてしまうじゃないか。
シャノンは男たちを前にして、肌を露出させている事態に恥ずかしくないのだろうか?
しかも胸元まであったシャノンの金色で美しくたおやかな髪が、いまや肩につくかつかないかくらいまでに短くなっている。あろうことか毛先は切りそろえられているわけではなく、ガタガタに処理されていて――――。
うまく直視できない。
「なかなか短いのも似合っているでしょう?」
私たちの前に進み出ていながらも伏し目がちだったシャノンが、ようやく私たちを見つめ返してくれた。が、私は更に驚きを隠せなかった。
シャノンの頬が赤く腫れていたのだ。白い肌が自慢の彼女に、とても似合わない赤色に。
「シャノン、ここで何が起きたんだ?」
シャノンの変わってしまった風貌に言葉をかけられない私を察したのか、兄さまが声をかけていた。
「色々ありましたの。でも私もスピノザも無事ですからご安心くださいね」
微笑んでいるシャノン。
なぜか心が痛む。どうしてなにもなかったかのように笑顔を浮かばせることができるのだろう。”何か”があったことくらい私でも容易に想像できるのに。どうして吐露しないのだろう。
「そうか。それでスピノザはどこに?」
そしてなぜ兄さまもシャノンに何があったか聞こうとしないのだろう。
何もなかったことにしたいのだろうか。
「あそこにおりますわ」
私たちに背を向け、腕をゆっくり上げてシャノンは前方を差した。私も兄さまも差された方向に視線を巡らせていくと、ごった返す人々がサァァと両脇に分かれ始め、一本の道ができた。
更に奥へ奥へ目を凝らしてゆくと、突き当りに大階段があり、上の階へ続く切り替えの部分が広めの踊り場になっていた。そこに三人の男たちが立ち、足元でもぞもぞ動く何か、を監視しているように見えた。立っているなかの一人はスピノザだと目視できたが、残りの二人は一体誰だ? あろうことかスピノザの上半身の衣服がボロボロで肌がかなり見えている。め、目のやり場に困る格好だ。
「スピノザの横にいる二人は誰だい?」
見慣れているスピノザの格好ではなく、どうしたものかと視線を彷徨わせている私をよそに、兄さまがシャノンに問いかけた。
「身長の高い方がウィンガーツさん。もう一人の方は眼帯をしていて、ハティオラさんと言いますの」
シャノンが紹介をしてくれているが、名前にピンとこない。
「城の主たちの名前ではないね」
兄さまも私と同様に感じ取ってるようで、シャノンに確認するように問いかけた。
「えぇ。城の主たちは縛られて転がされているほうですわ」
「え……」
「アイビー、そんな驚いた顔しないでくださいな。城の主たち……、サルファー家の当主とその息子は、シャムロックの男たちを集めて過酷な労働を強いていたのですわ。その不正を私たち皇宮の者たちが許していたことは謝っても済む問題ではないのだけれど」
私たちに向き直りながら説明するシャノンの表情に、かげりが見えたように思えたが、すぐまた笑顔を浮かばせていた。
「私もそうですけれど、下にいらっしゃるシャムロックの方々やスピノザも、ウィンガーツさんやハティオラさんたちのお陰で助けられたのです」
「その助けたという、ウィンガーツやハティオラという者たちに礼を言わねばいけないね。シャノン、彼らと会っても構わないだろうか?」
「えぇ。もちろんですわ。ただしルイーズさま、彼らを一刀両断するのではなく、きちんとお話を聞いてくださいませ」
「わかっている」
兄さまは前方を見据えながら頷いていた。
目を細め一瞬険しい表情になっていた兄さまの心境、そしてシャノンが言わんとしていることを、このときの私は全く理解していなかったのだ。




