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28 縛られてしまいました(スピノザ視点)

視点がアイビー(=シエスタ)からスピノザに変わります。

※2~3話続きます。

 不覚……、いや失態だ。

 近年稀にみる失態だ。

 簡単に城に侵入できた、と思ったらこのザマだ。開いていた正面の扉から入ったはいいが、入った途端紫色の煙に目の前を覆われて気を失うだなんて。

 敵陣に乗り込んだらなんらかのリスクは負うだろう、と思っていたが、まさか早々にやられてしまうとは。


 目が覚めて手足を動かそうとしたら両手、両足それぞれ縛られていた。それだけだったらウネウネと体が動かせるっていうのに足を結構な角度で反らされていて、動くのに一苦労だ。さらに両手と両足を背骨に沿って繋いでいるらしく、手を動かせばピキっと背中が痛くなるし、足も一緒に動く。はっきりいって辛い体勢だ。ご丁寧にも右側面を床につくようにしてくれてはいるが、辛い。二度も三度も言いたくなるくらい辛い。

 まぁ、腹を床につけられなかったことを幸い、と思うしかないんだろうけど。

 そうは思ってもやはり辛い。辛くて、解放されたくて魔法(ちから)を使おうとしたのだが、これっぽちも発動しない。むしろ力を床に吸い取られているような感覚がする。初めは錯覚かと思って数回発動させたのだが、気のせいではなくどんどん疲弊していった。

 一体この部屋はなんなんだ?

 もがくのを一旦やめ、ふっと目線を前へ向けると、棒のようなものが等間隔で床と天井を結んでいた。……鉄格子か? それ以外のものは見えないだろうか、と目を凝らすもただ床の石の色がわかるくらいだった。入れられている外に灯りがあってその光が少しこちらを照らしているんだろうか?


「どうしたもんかな」


 このまま縛られたまま、どうすることもできなくて死んでしまうのか? 俺には珍しく後ろ暗いことを考えてしまった。


「もし」


「へ?」


 突然俺以外の声が聞こえて、ビクっと体をしならせてしまった。


「うげっ、イタタタタ」


 ビキっと背中が鳴ったんじゃないかってくらい縄に引っ張られた。ふぅふぅ、と息を整えながら声がしたほうに耳を澄ませると、シュ、シュ、シャカシャカと衣服だか、靴底だかが擦れる音、そして静かな息遣いが聞こえた。


「誰か近くにいるんだろ? いるんだったら、悪いけどこの縄どうにかしてくれないか?」


 ここからじゃ、どんな人物がいるのかわからない。わからないなりにも、少しの望みをかけて問いかけた。


「そなた、どこの者だ?」


「そ、そなた?」


 聞き慣れない言葉遣いにまたもや体を動かしてしまい、ギュと手足と息が苦しくなった。は、早くこの縄から解放されたい。


「どこの者か答えることができたら、その縄、解いても構わぬがの?」


「どこの者って、た、ただの一般人だ」


 上からの物言いが気になったが、差しさわりのない答えにした。


「嘘はよくないの」


「は?」


「ここの……シャムロックの男どもは皆この城のどこかに集められていると聞いておるのだがの。そなたシャムロックの者ではなかろう? 正直に答えてほしいの」


 声と一緒にシュルシュル、と擦れる音が近づいてくる。

 マズイ、と思ったのと同時に、いま話している人物が本当のことを話している、とは限らない、とも思った。まだうまい言い逃れ方ができる気がする。

 足音が近づくなか、懸命に考えた。


「そんなに体に力を入れなくとも、とって食ったりしないからの。まぁ、でも少しの間、目は瞑ってほしいの」


「へ? 目を?」


 わけがわからない。なにを言ってるんだ?


「目が痛くなると思うのだがの」


「痛くなる?」


「まぁ、目を瞑らなくても構わないのだがの、どれ」


「うあっ。ま、ま、眩しいっ、うわっ、げっ、いだっ」


 急に視界が真っ白になり、咄嗟に手で顔を覆おうと必死になってしまった。


「そ、そんなに体を動かしてはならん。落ち着くんだ。落ち着くのだ」


 手に自由がないことを忘れていた。思い切り手を動かそうとしたためか、ぐいぐいと縛られた足首が軋み、背中が異様な痛みが走った。


「素性を話してもらう前におかしくなってしまっても困るからの。爺、この者の縄を解いてやってくれないかの?」


「解いてよいのですか? その者、城の(あるじ)の命で我らを殺すやもしれませんぞ?」


 俺に話しかけていた声ではなく、別の声が聞こえた。年老いているのか、少ししゃがれているようだ。


「いや、この者に殺気はないようだがの。爺が心配するようなことがあれば、爺がわたしを守ってくれるのだろう?」


 目の前がチカチカしていて現状が把握できない。縄を解く? 一体どうやって?


「……あなた様がおっしゃるのなら。守るといってもこの爺、結構な年であることお忘れじゃないだろうか?」


 ブツブツ文句を言っているようだ。まだ目の中が痛くて声を出している二人の顏や姿が把握できていないが、爺という人に俺はあまり歓迎されていないことはわかる。

 もう一人にはどう思われているのか……よくわからない。それよりも話し方が気になる。二人はなにかの主従関係なのか?


「それにしても屈強そうな男が意図も簡単に反り返った姿で縄縛りに合うとは、なんとも情けない姿」


 ため息まじり言われ、俺は腹が立った。


「お、俺だって好きでこんな格好になったわけじゃないんだよ、つーかこの城おかしいだろう。物音一つしないと思ったらいきなり人を眠らせる煙が蔓延させるだなんて。普通、城の主とか仕えてるもんとか出てくるだろ?」


「それはあり得ませんね、残念ながら」


「は?」


 思ってもみない答えに驚いて、俺は更に体を変な方向にくねらせてしまった。


「うぉぉぉ、いだっだだだ」


 軋む体に我慢できず俺は声を洩らした。


「まぁ、この状態では話したいこと、聞きたいことも充分にできませんから、仕方ありませんね。若いの、縄を解くまで絶対動かないでくださいよ」


「え、あ、は、はい」


 声だけだというのに結構な凄味で、俺はつっかえながらも二つ返事をした。相変わらず視界が白んだままのが気になりながら。 



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