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23 眉間

 少しの沈黙後、熱くなった顔を手で仰ぐと、青く透き通る涼やかなお皿をエイヴォンが勧めてきた。


「砂糖とこの酸味がなんとも言えないね」


 砂糖をふんだんにかけたオレンジ色の細長い棒状のものをエイヴォンはパクリと頬張っている。勧められたお皿の上にも同じ物があり、私も手を伸ばす。

 見たことのない珍しい菓子だな、とプリムが運んできた時から気になって仕方がなかったのだ。


 ザラっとした砂糖の甘さと少しの苦味が混ざってほどよい。あぁ、これはさっきのお茶と一緒に飲めば、喉越しがスッキリしそうだ。でも、注ぐお湯が見当たらない。……残念すぎる。



「さて、と。とりあえず恋の話は置いといて。本題ね。サルファー家のことで知ってることを教えてくれるかな?」


「だからなにも……」


 タタタタタとエイヴォンがテーブルを指先で叩き出した。意外な反応をされたので食べるのをやめ、エイヴォンの顔を伺うと眉間に皺が寄っていた。苛々しているのか?


「シエスタ、僕が今まで話したことで何も感じないの?」


「いや、色々思うことはある」


 エイヴォンが言うように、私利私欲のため領地を好き勝手しているのなら由々しき問題だ。急いで皇宮に戻って報告したい。でも……。そっと薬指にはまっている指輪を撫でた。これさえなければ。なければ風のような速さで知らせることができるのに。


「じゃぁ、正直に話して。僕を困らせないで」


「困らせるな? どの口で言うんだ? 私を困らせてるっていうのに」


 思わず声を荒げてしまった。さも私に非があるような口ぶりはいただけない。私もまたエイヴォンと同じように眉間にギュギュと力を入れて睨み返した。


「そうだね。でもシエスタだって気になるじゃない? あるじさんの住む敷地に入れないことが」


 ずくん、と心臓が大きく鳴ったのがわかった。うまいところを突いてくる。そう、私もエイヴォンと同じように知りたいのだ。敵対しているサルファー家がコソコソと皇宮に報告もしないでなにをしているのかと。そしてなぜここで暮らす人々の生活を顧みないのかを。


「シャムロックで普通に暮らす人たちのことも考えてあげてね」


 とどめを刺された気がした。

 ここに来てプリムしか住人は見ていないけれど、きっと彼女のようなふんわりと優しい人が多いような気がする。これはただの直感だけれど。

 だからこそエイヴォンの言葉が突き刺さるのかもしれない。

 乾燥した不毛な土地。かつては緑豊かだったシャムロック。私に知らされることのなかったこの土地。


 知りたい。


 サルファー家とはこんなにも強大な力を持つ家なのか。一体どんな人物であって家族があるのか。


 知りたい。


 いつの間にか私は拳をつくって強く握っていた。


「知っていることは一つしかない」


「それで結構ですよ」


 目を細めて笑うエイヴォン。その裏には別の意味があるのかもしれない。

 でもそれでも私の好奇心は次から次へと溢れ出ていた。


「私たちレイス家といつからかハッキリしないが敵対しているのがサルファー家だ。名前だけしか知らない。深くを探ろうとしたが、うまくいかなかったんだ」


 真っ直ぐに私を見ていたエイヴォンはゆっくりと瞼を閉じた。

 もう一度瞼を起こしたとき、何を言われるのかと不安に襲われながら私はただただ見つめた。


 瞼を押し上げ開口一番。


「それはなかなか話が面白くなってきますね。明日の夕方頃、サルファー家が住む場所へドクターも連れて行きましょう!」


 あっという間に眉間の皺がほぐれて、瞳をらんらんと輝かせて言われた。


「なっ……」


 もう一口と思って手にしていたお菓子がポロリと床に落ちてしまうほど耳を疑った。いまなんて?


「行ってみようって。いやぁ、よかった。サルファー家がレイス家とそういう関係っていうのは好都合だね。うんうん」


 たくさん頷いている。なぜかものすごく喜ばれている? なんだ?


「さぁて、話もまとまったしプリムに食事が先かお風呂が先が聞いてくるからね」


 そう言い残すと、エイヴォンは部屋から出て行ってしまった。

 一人残された部屋。

 出入り口用の扉一つのみで他は壁だ。窓でもあれば勝手に抜け出せるだろうに、それができない。まぁ、私を部屋に一人残す、ということは逃亡の恐れがないから、と取れるけれども。

 とりあえず今はエイヴォンの言う通りにしよう。


 全ては寝静まった夜に――――。




次の更新は9月頃だと思います。

しばしのお別れです。

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