プロローグ
城壁に吹きつける風。
眼下の砂漠から舞う砂粒がゴーグルにパシパシあたり、風の強さを知る。このゴーグルがなかったら目に入って痛いのだろうな。
しかしずっと風が吹き続けているわけでない。やむ瞬間があるのだ。その時を見計らって会話をしなければならない。かかる時間は手短であればあるほどよい。長めに話し込んでしまうと、再び風が吹きつけてきて口に砂粒や塵が入り込んでしまうからだ。
まだこの任に着いてから間もない頃、私はそのことを甘くみていたことがあった。風が吹きつけてきても話し続けていたのだ。が、数分後だろうか、間をあけずに私の喉が悲鳴をあげた。苦しくて息ができないほどに。きちんと周りの意見は聞かねばならない、という教訓になったあの頃が少し懐かしい。
「兄さま、本当にこの警備は意味があるのだろうか?」
私は風がやんだのを感じてすぐさま話かけた。長いこと城壁の上を歩いたり、立って果てのない砂漠地帯を見続けていると気が滅入ってくるからだ。
すると隣に凛として立つ兄も私と同様、口元を覆う布をずらしていた。
「意味があるかないか、の問題ではないよ。この砂漠を越えて侵入しようっていう者が現れたときが危険なんだ」
「そうは言っても兄さまが十年警護してるなか、そんな人は現れていないのでしょう?」
「まぁ、……そうだね」
「もう」
膨れて返すと、見計らったようにまた風が吹きつけてきた。急いで異物が入らないよう私も兄も再び口元を覆った。
吹き荒ぶ風の音と私たちの体を覆うマントが翻る音だけになった。まるでその音しか存在しないかのような、物寂しい世界――――。
【覚書】
2015.4,24・・・ラストの文章を変更
2016.5.13・・・前半部分加筆修正