13 戸惑い
おかしい。
いや、怪しい。
エイヴォンがラスチェを構っている。
この前エイヴォンと菓子を拾って以降、行動がおかしい。
今までクラスで話しかけるなんてことはなかったのに。
ラスチェは鬱陶しそうにエイヴォンをあしらってはいるものの、懐いた犬のようにラスチェの周りにいる。
おかげで私のほうがラスチェとやり取りすることができない。一体全体どういう風の吹き回しなのだろう。
これでは昼休みにあの湖のところへ行けないじゃないか。ラスチェが先頭きって道を示してくれていたから、きちんとした道を覚えていないのだ。こんなことならしっかり頭に入れておけばよかった。
「はぁ」
ため息をつきつつ、チラリとエイヴォンとラスチェを見やると二人でどこかに行くところだった。慌てて追いかけようと立ち上がると、肩をとんとんと叩かれた。あまりないことなので私は思わず振り返った。
「シエスタ、良かったら一緒にランチしません?」
「え?」
珍しくクラスメイトの女の子に話しかけられて私は足を止めてしまった。その間にラスチェたちの姿がクラスの中から消えてしまい私は慌てた。
「あ、あ、の」
「なにか急いでるの?」
不思議そうに聞かれた。
「え、あ、いやあの」
普段話しかけてくることがない子なので、変にどもってしまう。
「シエスタは私たちとなかなかランチ一緒してくれないでしょ? 隙あらばって思ってたの」
「え……」
私たちってどういうことだ? いま声をかけてきたこの子は一人。そばかすが少し目立つ眼鏡の女の子。それ以外に誰がいるというのだ?
「さぁさぁ、こっちこっち」
「え、あ、ちょっと」
私の戸惑いなど気にしていないのか、彼女は私の手を取って駆け出した。
「皆、食堂で待ってますの」
「あ、いや、だから、ちょっと……」
困った。ラスチェに今日の弁当を受け取っていないのもあって、ラスチェに声をかけたかったのに。
そばかすの子は私のことなどおかまいなしに、生徒たちがどっと押し寄せる食堂に連れて来られてしまった。学生たちや教師たちに無料で振る舞われているのだが、不特定多数に食事を提供しているということで、私はずっとラスチェから渡される弁当しかここでは口にしたことがないのだ。
人の多さに私はたじろいでしまう。弁当を持っていない今、絶対にここの食事を勧められてしまう。ラスチェの用心深さがよくわかる。運悪く変なものを混ぜられても気付くことができないじゃないか。
「シエスタ? 顔色が悪いけど大丈夫?」
「あ、あの……」
ここは演じなくてはならない。お腹が減っているが、こんなにも多くの人たちに提供している食べ物を口にすることは怖い。毒味役がいない、ということがこんなに怖いとは知らなかった。
「ご、ごめんなさい。少し気分が悪くて。救護室で少し休みたいんだ」
「え? あ、ごめんね? 気分悪いところ走らせてしまって。ごめんなさい。救護室に一人で行ける?」
「あ、あぁ。すぐそこだし。大丈夫」
むしろ一人のほうが気が楽だ。ありがたい申し出ににっこり微笑み返し、私は彼女に少し頭を下げて食堂からゆっくりと離れた。食事のこともあったが、その実眠気が襲ってきていたこともあった。授業中や休み時間、エイヴォンとラスチェの動向が気になって仕方なく気を張って観察していて、うたた寝すらしていないのだ。
あと、もう少し。
あともう少しでベッドが常備されている救護室に着く――――。




