表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/40

11 胸騒ぎ

 夜間国境警備隊ノーチェ・シビルの仕事を終えると私はラスチェが昔住んでいたが皇宮に入るとき出払った部屋に戻る。私が学校に通うことになったとき父が部屋を買い上げたのだ。皇宮から馬車で移動したり、万が一皇宮の周りを歩っている姿を見られるとあとあと面倒だ、ということで。

 この場所はラスチェにとって勝手知ったるなんとやらで、ご近所さんともうまくやっているようだ。私はラスチェに比べると馴染めていない。皇族たちが通う学校外、ということもあり夜間国境警備隊ノーチェ・シビルの仕事以外、基本皇族との交わりもない。だから少しでもここでの生活に馴染んで、ラスチェの負担を減らそうと思い、朝食を作ってみた。ところがやんわりと「これからもわたくしがアイビーさまのご飯も身支度も掃除もやりますから」と言われてしまった。そんなに酷い食べ物だったかな? と思ったが、まぁ見た目も味も酷いものだったからしょうがない。

 掃除洗濯もしようと試みたが、「わたくしがやります」の一点張りで手をだすことを快く思われていない。それに不用意に出かけるのも駄目で色々と制限が多いが、家の外から聞こえる喧騒がなんとも心地よい。



 が、なんだか今日は朝からラスチェの小言がうるさい。


「いいですか? アイビーさま、もうエイヴォン氏と関わり合うのはお辞めくださいね」


「関わり合うな、と言われても。同じクラスなのだから、変に避けるのもなんだか不自然じゃないか?」


「いいんです。不自然だって」


「うーん」


 素直に頷けない私にラスチェも煮え切らないようで、唸っている。

 美味しいお菓子を分けてくれた男だ。心根まで腐ってるわけでもない……いや、ちょっと待て。私は何かを見落としているような。


「あっ!!」


 立ち止まって私は柄にもなく素っ頓狂な声をあげた。


「ど、どうなさったんですか?」


「いや、その、いや、なんでもない」


 そうだ。あの男……、エイヴォンは私のか、か、髪に――――。思いだしただけでも顔から火を噴きそうだ。慌てて手で自分の顔を仰ぐものだから、ラスチェに変な顔で見られた。


「いや、本当になんでもないんだ」


「え? わたくし何も申し上げておりませんが」


「あ、そ、そうだよな。ハハ、気にするな」


 駄目だ。自然な笑いができない。よくよく思い返せばエイヴォンの私に対する行動はおかしい。損得勘定なしで可愛いとかあり得ない。もしかすると、エイヴォンは私の正体に気付いてるとか? 頭もいいのだからもしかすると何気ない仕草や言動で感づいたとか? もっと用心せねばならないな。


「そうそう、アイビーさま、今日は魔法学で試験がありますが適当にお願いしますよ?」


「うぅ……」


 項垂うなだれてしまう。一般人の多くは術式を描いて魔法を発動させるのだが、無論私はそんなものを描かなくともできる。しかし術式を描かないで魔法を使うとエイヴォンのように目立ってしまう。それは避けなくてはいけないので、ちまちま術式を描かなくてはいけない。それが結構骨が折れる作業で、まぁいい感じで描けたり描けなかったりする術もあるので丁度いいのかもしれない。しれないが、出来ないときクスクス笑われるのが癪に障る。術式さえなければ学校で教えている魔法などほぼ全部できるのに! って大声で言いたくなってしまう。それを我慢するのがなんとも辛いのだ。


「ラスチェはいいよね。器用にこなしていて」


 あぁ、ラスチェのようにうまく立ち回れたら楽なんだろうに。


「そうですか? でもアイビーさまとあまり変わりませんよ?」


「どういうことだ?」


「わたくしは本来攻撃魔法に特化してますからね。それがあの学校では禁じられていて、力が発揮できません」


「まぁ、それはそうだが……。って、この前エイヴォンに思いっきり攻撃魔法使っていなかったか?」


「え? あ……、ま、まぁ、彼も忘れてますよ……多分」


 引きつった笑みで返してきた。ラスチェが言った通り忘れていてもらえばいいのだが。

 それにしてもなぜマーギア学校では、守護魔法、造形魔法、回復魔法しか教えないのだろうか。そして攻撃魔法はなぜ禁じているのだろう。マヒア学校ではありとあらゆる魔法を学べるというのに。皇国的に、一般人には攻撃系は学ばせたくないということなのか?


「さて、そろそろわたくしは少し離れたところからついていきますから、どうぞお先に」


「あ、うん」


 ラスチェは一本に結っていたゴムを外し、バサバサと邪魔になるくらい髪で顔を隠し始めた。あぁ……綺麗な顔が勿体ない。そしてしゃんと伸ばしていた背中を少し丸めてゆったりと歩き始めた。普段通りのラスチェで全然いいのに、どうして違う雰囲気をまとってしまうのだろう。どんなラスチェだって隣にいてほしいのに。

 そんな私の思いに反して頑なに「一歩引いて私を守りたいので一緒に並んでは歩けません」、と言われてしまうけれど、私はあきらめないよ? このマーギア学校にいる間、普段通りのラスチェと一緒に並んで通うことを。

 私はあきらめない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ