人間やめるつもり、ありません!
「嘘だろう!嘘だといってくれよ。マスター!」
叫びながら涙を流すのは血のように赤毛を刈り上げたバンドマンのような男
「まさかこのような…神め。どこまで我が主を苦しめれば気が済むのですか」
悲しげに私の前で膝をつきながら見つめてくる黒髪の執事服の男
「なぜ、こんな姿を変えているだけなんだろう?そういってくれ」
現実を直視できないように目を閉じるシャツを着た金髪の少年
そんな彼らが同時に口を開く。
「「「どうして女になっているんだ。ルーク!」」」
「そういわれても、こうなってしまったら仕方がないだろう?」
高級ソファに沈みそうになりながら、私は見つめていた。
◇◇◇
この世界には何百という種族がいる。
その中でも一番平凡で人数が多く短命なのが人間
つまりは今の私の種族。
まぁ種族という程大袈裟なものだと私は思っている。人間の中には黒人や白人といった区分があるけど、人間以外の人達がどういう種族なのかはさておき一緒に暮らしていて違和感を覚えたことはない。
今も人間も人外も一緒に勉強できる共学に通っているけど、特に問題はない。
敢えてなにか問題があるとすれば、偶に人間の男子が人外の男子と調子に乗って遊んだ結果怪我をすることがあるくらいだ。
長生きをする種族によっては、人外大戦のことを引き合いに出して喧嘩をするらしいけど戦争の『せ』の字も知らない若者世代には関係ない。
寧ろ「へぇそんなことがあったんだ」と歴史の教科書を捲る程度だ。
そんな私達が習うことは基本的なことだ。
『夜しか活動出来ない種族に昼の行動を共用しない』
『種族独特の食事に口を挟まない』
等など
まぁこのくらいは普通の人間にも当てはまる常識だろう。
人間だって主義や宗教によっては食事に制限が出るのだから。さて、どうしてこんな解説をしているかというと答えは簡単だ。
私こと山田百合子の前世は人外の世界では御伽噺にも言われるよう吸血鬼の真祖『ルーク』だったのだ。
そのことを物心ついたときに思い出した私は2度目の子供時代を謳歌しようと決めたのだ。だって、前世のときの子供の頃って神話の時代。つまりは現代のような水洗トイレもなければ本もなくゲームなど概念すらなかったのだ!
そんな子供時代を知っていれば、現代社会に加えて基本安全なジャパン…じゃなくて日本最高!
私は一生この国で過ごす!
そう決心した私は、先日無事高校生になりました。
前世吸血鬼でも、現在は日本人顔に昔のように白髪でもなければオッドアイでもないから長老クラスの人外にもばれたことはなかった。
まぁ、入学式からの帰りにバッタリ会った息子とも言える吸血鬼に見つかった為にばれたけど
それはいい。問題ない。例えばれても問題はない。あるとすれば目の前の連中だけだ。
というか、何故私は昔あんなことしたんだろう。と自分を責めながら遠い目をした。何故なら
「私が女だと何か問題でも?」
「「「愛し合えないだろう?」」」
「やはりかホモ共が!」
前世の私は男でありながら男を好むという同性愛者だったのだ。
いや、今も男は好きだが
そんな当時の私が溢れるカリスマ(笑)と力と人脈を使って彼らを救い同族にしたのだ。
赤毛のバンドマンは流行り病で死に掛けていたのを助けた子供で
黒髪の男は戦場で戦死する筈の主人の命と引き換えに私に仕えた騎士で
金髪の少年は人外とのハーフゆえに虐げられていた子供で
今では考えられない経緯だが、ちょっとまて
「3人中2人が、子供の頃に出会って同族にして手を出すとかどんだけ」
昔の自分に会えるならジャンプしながら殴りたい。
そう頭を抱えていると赤毛が声をかけてきた。
「だ、大丈夫か?ルーク」
「あぁ大丈夫。ちょっと頭が痛くなっただけだ」
「無理すんなよ。お前は体が弱かったんだから」
「今の私はそんなに弱く見えるかな?アンジェロ」
そうですね。おおよそ吸血鬼の典型と言われる日光、銀、聖水、十字架、炎と弱点5つもあったもんね。
他の真祖は弱点1つなのにね!くそ、人を虚弱扱いしやがって、あの野郎共
「お前は人間なんだぞ?心配もする」
パンクな容姿なのに優しいとかギャップ萌好きの女性なら一発で惚れるだろう。だがホモだ。
「申し訳ありません。我が主、取り乱してしまいました」
「気にしなくていいよ。今の私はただの人間なのだから」
「いいえ、貴女様がなにものであろうと、私の主人であることに代わりはありません」
黒髪の執事が己の影に手を突っ込んでお茶を出してくる。
「このクリフォード=ケインズ
再び貴女にお仕えすることをお許しくださいませ」
忠犬にしてイケメン執事が膝をついて許しこう。うん、どこの乙女ゲーだと思う。だが、ホモだ。
「ルーク、今すぐ同族に戻したい。ダメ?」
「ダメだよ。魂と血肉があれば吸血鬼は復活していますからね。同族にされてしまうと私はまた『最弱』の逆戻りだ」
「ルーク」
金髪の少年にも見える彼が隣に座って抱きついてくる。
「ルークを馬鹿にする奴、ヴェロニカが全部殺すから…一緒にいよう?」
ヤンデレ系美少年とか何も知らない女性なら一発で落ちるんだろうなぁと思う。だが、ホモだ!
「そうだよ。血分けをしてしまえば、ルークも真祖に戻るんじゃないか?」
「そんなことあるのですか?」
「宵闇の真祖…一回死んでる」
「だろう?ならさ、ルークには吸血鬼に戻ってもらって、昔の姿になってもらおうぜ」
「それはいいことですが…いえ、そのほうがいいですね。やはり女性ではなく。我が主には凛々しくてもらわねば」
「じゃ、血分け…ヴェロニカがする」
「させるか!ルークに血分けをするのは俺だ!」
「落ち着きなさい。ここは従僕たる私が」
あくまでも私を男に、そして吸血鬼に戻したいらしい前世の息子たちに対していうことは1つ。
「人間やめるつもり、ありません!」
来週発売のゲームも楽しみだし、高校では部活しようと思ってるんだから邪魔するなら変質者として突き出しますので覚悟してください。




