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1話 $10(テン ダラーズ)

「喜べ、詩織しおり。君は、乙女ゲームの主人公に転生した」

「はぁ?」

 高校に入ったばかりのある日、私の幼なじみで同じクラスの竜太りゅうたが言った。

「金持ち、美形、天才、誰でも選びたい放題。もちろん逆ハーエンドもある」

 制服のネクタイを緩めて、竜太はうっしっしと笑う。私はあきれて、卵焼きを口に放りこんだ。今はお昼休みで、私たちは屋上でお弁当を食べている。

「意味が分からないんだけど。ミニトマトでも食べる?」

「サンキュー」

 竜太はミニトマトを受け取り、一口で食べた。

「実は俺には、前世の記憶がある」

 竜太のはしにより、からあげが私のお弁当箱にやってきた。

「俺の前世は女性で、とある乙女ゲームにはまっていた。この高校はまさに、そのゲームの舞台なんだ」

「おかしな新興宗教にでもはまったの?」

 着物の着付け教室をやっている竜太のお母さんに相談しなくては。次の土曜日が、おけいこの日なのよね。

「ちがう! とにかく俺には、ゲームの知識がある。だからその知識を活用して、詩織を幸せにしてやろうと思うんだ」

 青空のもとで、竜太は宣言した。

「詩織は美人だから、楽しいぞー」

 にやにや笑って、水筒の緑茶を飲む。

「まず詩織、どんな男がいい? やっぱり男は経済力だよな? 金だよな?」

「せちがらいわね」

 このセリフを、あの上品な竜太のお母さんが聞いたら、どれだけ嘆くか。

「二年四組の佐藤代忠勝さとうだい ただかつって知っているか?」

「知っているよ。有名人だもの」

 私たち一年生でさえ、彼の顔は知っている。なんせ、ものすごい美形なのだ。しかも、まっくろい長髪をなびかせているので、大変、目立つ。念のため言っておくが、男子の長髪は校則違反ではない。

「あいつは金持ちだ」

「へぇー」

 ハンバーグがおいしいなぁ。

「親の年収は、一千万程度だ」

「え? 安っ!」

 私は思わず叫んだ。

「安いことはないだろう?」

 竜太はぷんぷんと怒る。

「だって、乙女ゲームでしょ? そんな現実的な数字じゃなくて、年収一億とか一兆とかの方が夢があっていいのでは?」

 竜太はあきれている。

「普通の公立高校に、そんなとんでもない金持ちの息子は来ないよ」

「そうだけど」

 普通の公立とは言っても、私はこの高校に入学するために、死にものぐるいで勉強した。なので竜太の言い方には、少しむかついた。

「いずれにせよ忠勝先輩は、美形で性格も悪くない。さらに文武両道の優等生。武士のように立派な男だから、お勧めだ」

「なんでそこに、武士が出てくるの?」

 私は、遠山の金さんとか水戸黄門とか時代劇が好きだけど。ちなみに竜太が好きなのは、演歌や着物だ。

「詩織は、侍が好きだろう? 忠勝先輩も、忠勝先輩の親も、侍が好きなんだ」

 だから、忠勝なんて名前なのか。徳川家康の家臣の、本多忠勝から取ったんだろな。

「忠勝先輩って家族そろって、大河ドラマとか観てそう。私は大河は、篤姫の再放送を観た程度だけど」

 あれこそ、徳川家定、小松帯刀、勝海舟が攻略対象の乙女ゲームだった。当然、トゥルーエンドは家定様との結婚だ。

「でも篤姫だけでも観ていただろ? だからすぐに、忠勝先輩と仲よくなれる」

 ふーん、と私は適当に相づちをうつ。

「そして夏休みが過ぎて、忠勝先輩は」

 今は、四月下旬。そろそろゴールデンウィークだね。

「真の武士になるために、中ぞりをして、ちょんまげを結うんだ!」

 私は、食べていたデザートのキウイをぶっと吹き出した。

「ちょんまげ!?」

 忠勝先輩は長髪だから、ちょんまげを結うことは可能だけど。しかも、中ぞりまでするのか。中ぞりさえなければ、単なる和風ポニーテールで済んだのに。

「ちょんまげは、校則違反じゃない」

 竜太はきっぱりと言う。

「校則違反じゃないけれど、常識で考えて、ちょんまげはありえないでしょ」

 私は、下に落ちたキウイをティッシュにくるんで拾った。あぁ、もったいない。

「おのれの偏狭な常識を、他者に押しつけるのはよくない」

「竜太の言っていることは正しいけど」

 ちょんまげを結ったネクタイ姿の男子高校生、しかも美形を想像して、私は笑いそうになった。

「ちょんまげ頭の忠勝先輩のスチルは、乙女ゲームの伝説に残るほど美麗だった」

 いやいや、信じられないんだけど。

「とにかく、忠勝先輩が個人の趣味でちょんまげを結うのはいいけれど、私は彼と恋人になりたくない。つまり攻略したくない」

「そうか」

 竜太は残念そうに、まゆを下げた。

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