・第四章・
四月十二日。
竜美町H区。その中心にある公園に、一人の男がいた。
時は深夜零時。設置されている街灯も全て消えている。男は闇の中、一つの木の枝にボックスを取りつけていた。男の服装は黒一色で、周りの闇に溶け込んでいる。ボックスを取りつけ終わると、男は木から離れ、公園のひらいた場所に立った。そして、持っていた遠隔制御チップでボックスを起動し、映像記録を開始させた。次に、男は腰にさげていたナイフを抜く。そして勢いよくそれを胸に突き刺した。
「っ……!!!」
男は唇を噛み締めて、こみ上げる悲鳴を抑える。ナイフは体を貫通して、背中から先端がのぞいている。男は痛みに耐えながら、ナイフを胸から抜いた。男の体がふらりと揺れて、男は膝をついた。ナイフがザッ。と音をさてて地面に刺さる。穿たれた胸から、だらだらと血が流れ出てくる。男は呻きながら立ち上がり、ボックスの方へ向いた。
ーー男は小さく言う。
「……音面……」
男はスーッと息を吸い込んで、ふっ。と踊り出した。
滑らかに。しなやかに。爽やかに。艶やかに。きびきびと。ゆっくると。さっぱりと。しっかりと。
踊る。踊る。踊る。
胸の穴から血を垂らしながら。緑の地面に赤い模様を染みつけながら。
踊る。踊る。踊るーーーー。
しばらく踊り続けた男は、不意にぱたり。と倒れた。男の心臓の鼓動が止まったのだ。
ボックスは映像記録を続けている。それをいつの間にかいた青年が止めた。青年のそばにいた少女が倒れた男に駆け寄る。
「……死んじゃった」
少女はぽつりと言って、地面に刺さっているナイフを抜いた。そして、男の手から遠隔制御チップをとる。青年がボックスを片手に持って、少女の隣に来た。
「……死んだな」
青年は呟いて、男の顔を見る。その表情はとても安らかだ。ーーーー青年の少女は、しばらく男を見つめた後、公園から去っていった。
公園に、死と闇と静寂が残された。
・ボックス
マルチ機能機器。映像・音声・画像等の記録ができる。カードより容量が大きく、長時間の撮影などによく使われる。
・遠隔制御チップ
リモコン的な物。親指の爪サイズ、そして薄さ。ボックス専用ではなく、制御を登録した物なら、何でも使える。