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片足を庇いながら歩くものだから、ひょこひょこと左右非対称に身体が揺れる。
変に力が入るけれどナズナとしては予想よりも足が動いてくれるから上々だった。
のだけれど、すぐ後ろからひしひしと感じる視線と、そわそわする気配がとても分り易く伝わってくるから、それのせいで絶対こけられないちゃんと歩かなければと疲れる。
「エイシェン……」
振り返って呆れ半分でエイシェンを睨めば、今にも手を差し出しそうな体勢の彼が目に入った。
自分はそんなにも危なげに見えるのだろうか。
大丈夫だからと息を零す。彼は一体どこまでナズナを甘やかす気なのか。
もうすぐ陽が沈む。こんな時間に不自由な足を押してまで出かけるのには理由がある。
明日の朝、アロン達が西国へ発つのだ。
勿論ナズナはついて行く事は許されず見送らなければならない。
その代わりというわけではないが、今夜村全体で行われるささやかな宴会にはちゃんと顔を出して挨拶しておきたかった。
だから渋るエイシェンを無言の圧力で説得して外出許可をもらったのだ。
エイシェン一人なら五分とかからず広場に行けるところを、ナズナがちんたらとやっているせいで倍以上の時間が経過しているのは申し訳ないと思う。
彼にしてみれば危なっかしくて見ていられないのだろう。
だけど何でもさっさとやってしまうエイシェンに甘えるのをナズナは良しとしない。
いっそ先に行っていてくれと、きっと言葉が通じていたなら言っていた。
お互い自分でやりたがる性格故に仕方のない衝突だった。
アロンになら「またじゃれてんのか」とツッコまれそうだが、本人達は至って真剣だ。
結局見ていられなかったエイシェンがナズナを抱き上げようとしたが、ナズナが頑として受け入れなかったため、支え代わりにエイシェンの腕を掴みながら歩くという状態で落ち着いた。
広場に着いた頃には既に宴は始まっていて、大人達は酒を煽っているし子供達は御馳走にありついていた。
到着した二人を皆一様に温かく迎え入れてくれる。
空いたところに座ると周りの人達がしきりに笑顔で話し掛けてきてくれたが当然ナズナに理解出来るはずもなく、咄嗟に作った笑顔で首を傾げた。
エイシェンは色々と言い返していたようだが、やはりどういった内容だったのか彼らの表情だけでは計り知れない。
色んな人がナズナが珍しくて顔を覗き込んできたり眺めてきたが、さして不快になる視線がなかったのは皆がナズナという存在を受け入れてくれていたからだろう。
カリナンは里内の団結が強い反面、とても排他的で余所者に対しての警戒心がきつかった。
王都から派遣されてきた軍人が来た時も、表面的には敬う姿勢を向けていたがこんな全面的に存在を容認したりはしなかった。
同じように他部族と隔絶した環境で暮らしているというのにこの違いは何だろう。
エイシェンがやたらとナズナに心砕いてくれているのはやはり、この村の習性なのだと理解した。
「――――!!」
エイシェンが語気を強めて何かを言うとぐいと肩を引き寄せられた。
持っていたコップの中の飲み物が揺れて零れそうになり、慌ててテーブルに置き直す。
「なに?」と顔を下から覗き込んだが困ったように笑顔を向けられただけ。
多分エイシェンと話していたのは、ナズナの隣に座っていた男の人だ。
そっちを見ると、エイシェンよりも少し年上くらいの人で、快活に笑いながらナズナの頭をぐしゃぐしゃとかき回した。
全く意味が分らない。
「ナーズナ!」
後ろからがばりと抱き着かれて、今度は前のめりになる。
顔だけ後ろを向ければ、酒が入っているのか顔を赤らめたヤナの緩みきった顔がすぐ近くにあった。
陽気に大きな声でヤナが喋ると、周囲から拍手や指笛が飛ぶ。
仲が良く底抜けに明るい人達だというのは分かったが、本当に何の話題で盛り上がっているのやら。
ちらりと見やれば主役のはずの行商達も交じって大騒ぎしている。
誰か通訳してくれないだろうかと視線を送っていると、アロンと目が合った。にやぁと嫌らしく口角を上げたアロンは、パァンと大きく手を叩いた。
一斉にみんなが会話をやめてそちらを向く。
「――――ッ!!」
酒瓶を片手に大声で言うと、ヤナの時よりも大きな歓声と拍手。
アロン達行商人と、何故かナズナに向けて。
もしかして、私も一緒に出ていくと思われている?
最初はそのつもりだったのだ。ナズナが負傷していると知らない人も多いだろうし、こうやって出てきているのだからもう治ったと思っている人もいるはず。
矢で射られた傷はそんな早く治りませんけど……。ていうかどうしよう?
エイシェンを見ると、気づいた彼が笑顔を返してくれる。
いやそうじゃなくて!
いつもなら和むその笑みも、今は焦りを増長させるだけだ。
「大丈夫」
そわそわするナズナに、何となく心情が理解出来たのかエイシェンが手をそっと握ってくれた。
もう完璧に覚えた単語にやっと気が落ち着いてきたナズナはコクリと頷いた。
よく考えれば、いや考えなくともエイシェンやアロンはナズナがまだ滞在する事を知っているのだから、みんなが勘違いしていたなら即座に訂正してくれるだろう。
だが彼らは皆に何か言う素振りは見せなかった。という事は、みんながナズナを見ながら盛り上がったのは、そういう意味ではなかったのだろう。
だったら何だろう? 振り出しに戻ってしまったが、後でアロンに聞けばいいかと思考を止めた。
「ナズナー!」
半分存在を忘れかけていたヤナがぎゅうぎゅうと抱き着いてきた。
なにやら勢いよく何かを語りかけてくる。
お酒のせいなのか元々なのか、とてもテンションが高い。
ヤナにつられるようにして他の村の人達が少しずつナズナに話し掛けてくれた。
殆どがナズナの作った薬を使ってくれた人で、間の通訳に入ってくれたのはアロンの同行人の若い男性だった。
途中からはやたらとエイシェンとの生活についての質問が多かった気がするが、色々と特に同性の人と話が出来るのは嬉しい。
「ナズナ、ナズナ!」
暫くどこかへ消えていたヤナが駆け足で戻ってきたが、その手には二輪の華が握られていた。
灯りに翳すと一つは青、もう一つは白色だった。
ヤナは前回同様に問答無用でナズナの髪に青色の花を挿し、白の方は普通に手渡された。
「お似合いですよ」
通訳をしてくれていた男性が微笑ましそうに目を細めた。
恐々と髪に付けられた青の花を触る。
前から思っていたが、こうやって髪に花を挿すのはどうしてなんだろう?
ナズナのいた里でも花冠を作って頭に載せる事はあったが、日常的にこうやって飾ったりはしなかった。
しかし見渡してみても、髪に花をつけている女性は他にはいない。
ヤナの趣味だろうか、と勝手に結論付けようとした時だった。
そのヤナが白い花を指差してから「エイシェン!」としきりに言う。
首を捻りながら「エイシェン?」と聞き返すと、コクコクと何度も頷かれた。
渡せという事だろうか。
通訳の人に聞いても「喜ばれると思います」と欲しい答えとは違う角度からの返事がきただけだった。
すみません変なところで切って…
長くなったので二分割する事にしました




