思春期の置手紙
若きウェルテルの悩みとか?読んだ事ないですが。
え、聴くものでしたっけ。
青年は悩んでいました
誰かに打ち明けたくてそっと自分の部屋
に今の心情を綴った手紙を机の上に置いておきました
次のような内容でした……
怖かったから逃げ出すんじゃないのです
ただ少し一人で考えて見たかったのです これからの自分の事を
夢……あったけれど
深海魚のようにゆらゆらと揺蕩うて全部理解は出来た
ただ解釈の違いだけだったように思います
僕が勇者だったら魔王を倒せばいいのだけど
現実はゲームじゃないからみんないい人ばかりで……
息苦しい 学校の先生が言いました
しっかり勉強していい大学に入る事が大切だと
でも僕はそれよりも大切な事が
今しか出来ない事があると思うのです
制服をきちんとたたんで 巡礼者のようにと言ったらカッコつけすぎですか?
ボロのジーンズとポロシャツです
暑くてしょうがない 寒くてしょうがない
そんな些細な不満なら現代、すぐに解消できるでしょう
僕は哲学者になりたかったんだ
でもそれはもはや遺物でねぶたやよさこいの前では
何ら人間らしい事も無く 人から称賛される事も無く
要するに根腐れの夜のタンポポなのでしょうね
秘密のタイムカプセルは五年後に開ける約束だったのに
未だ連絡がありません
僕は国語が好きだから作文を入れたと思います
おそらく父と母への感謝の気持ちを綴ったはずです
僕はそれを忘れました 自分の名前も忘れました
テストは氏名の欄さえ白でした
そんな僕を世捨て人かのように親も親戚も友達も白々しい目で見るのでした
思春期って言うけど恋人がいるかいないか
そんな程度の下らない議論に参加するのもバカバカしいし
お腹を目いっぱい空かせて少ない小遣いでラーメンを食べる方がよっぽど気持ちがイイ
地球はどこに行くのかな
いえ理科も好きですが そんな事じゃなく僕には
テストで百点を取り目標の大学の合格ランクA判定を取るより
大事な事があると思うのです
だから旅に出ます 家出とも言うのかな
もちろんホームレスになったり行き倒れるつもりもありません
バカな大人を探しに行くのです
崇高なバカ Honesty……スペル合ってますか?
その人が神だと思うから使徒になりたいんです
違う……オウムみたいな茶番では無く
もっとシンプルに贅肉を削ぎ落として
僕は生きたいんだ
嘘ばかりの大人はもううんざり
偽善ばかりの大人はもううんざり
薀蓄ばかりの大人はもううんざり
そして僕もいずれは嫌な大人になるのでしょう
それが誰もが通る道だって事に その事にいつか気づくのですね
貴方は……大人ですか?
手紙はそう問いかけて終わっていました
青年はいつも何かを探し続けさまよう 生きる意味を 価値を
それは誰にでもある事です
親になった時気づくのでしょう 命を繋いでいく事の大切さに
青年の問いかけは普遍的な物なのでしょうね
この手紙を最初に読んだのは青年の姉でした
幼稚だなと思いましたが彼の意志を尊重したいし親には詳しい事は告げず
ゴミ箱に破って捨てました
その青年は同じような考え方を持つ人達と今は
ボランティアをしているそうです