活動四日目
リセットしよう。切り替えよう。そして忘れよう。
……。
はい、再起動完了。
私は生まれ変わりました。というより、たった今誕生しました。こんにちは、ニューまさかさかさまです、よろしくお願いします。
え? 昨日までの私? 誰それ、そんなやつ知らない。あんな一日中だらだらしてるだけの口先男は知らない。
やっぱり人間、切り替えが大事だと思う。
嫌なことがあった、上手くいかなかった、そんなことをいつまでもずるずる引き摺っていても始まらない、と、大人は皆言っています。だから私も大人になろう、そうだ冷静に考えるのだ、昨日がどれだけ駄目でも、今日をそれ以上に良くすればいいのだ。けれど、いや、いやいやいや、お前毎回そう言ってるけど、結局出来た試しがないじゃねえか、昨日出来なかったやつが今日出来るわけないだろう、などと思われるかも知れないが、というか実際その通りなのかも知れないが、でもこれは言わせてほしい、それこそそんなこと言ってたら、今日も明日も何も出来ない人間のままだろう、と。……嘘です御免なさい、生意気言ってすみませんでした、そうです、昨日出来ない私は今日も明日も出来ない人間なのです、その通り、だから現在絶賛自己嫌悪中なのです。
はあ。
ぶっちゃけ、そう簡単に治るわけがないのだ。今まで二年間、や、そろそろ三年になるのか、とにかく二、三年続けてきた惰眠生活が、一日二日の決意で治るのならこんなことにはなっていないのだ、こんなわけのわからない日記を書く必要もなかったのだ。まあ、そんな気概でいるからこそ何も改善しないのだろう、と言われてしまえばそれまでなのだが、でも何それ、気概ってどうやって手に入れればいいのでせうか、三年前中学卒業した時に置き去りにして来てしまいました。
はあ。
もう何でもいいよ、この惰眠サイクルから抜け出せるのなら、私は何だってする、いや正直何でもは出来ないけど、大抵のことはする、いや正直大抵のことも出来ないのだけれど、やろうと思える範囲のことはやる、いやそれは当たり前だろ、どんだけ腰の低い決意だよ。そうか、それだ、そうやって何回も決意をひん曲げ続けてきたから、簡単にはいかなくなってしまったのだ、だけれどもう後の祭り、後悔先に立たず、どうして後悔は先に来ないのだろうか、いや先に来てしまったら既に後悔でも何でもないけど。
はあ……。
あれだ。
久し振りに、あの自己啓発を実践してみよう。今から唱える呪文をよくお聞きください、聞いてるか、聞いてるのか私、お前に言ってるんだ私、分かったよ私、ちゃんと聞くからちょっと黙れよ私、分かった黙るよ私。
未来の俺は思うのだろう、“あの頃に戻ってやり直したい”と。
なら今やり直せよ! 十年後二十年後、五十年後の未来から戻って来たんだよ今!
うん。ちょっとやる気出た気がする。
これはあれだ。逆説的に願いを叶えているのだ。
そうだその通り、私は五十年後の駄目駄目な未来から戻って来たのだ、今。記憶を忘れ、タイムリープして来たのだ、それを今自覚したのだ、オカリンの如く。
おお、凄いぞ私の体、全然しわが出来てない、髪の毛もハゲてない、ちゃんと両足も生えてる、両手だって生えてる、両目まで再生してる、まだ癌に侵されてもいない、糖尿病ともエイズとも白血病とも無縁、未知のウィルスにも感染してない、まだ宇宙人からもショッカーからも改造手術を受けていない、第五十次宇宙対戦も起きていない! すげえ! ……どんだけ絶望的なんだ、未来。
はい、そんな未来を繰り返さないためにもやる気を出しましょう。もうタイムリープは封じられてしまいました。
幾多の死を乗り越え、オカリンから強奪したタイムリープマシンにより、取り戻すことの出来たこの現在を、私は最大限に謳歌しなければならない、努力しなければならない、私はかつて叶えることの出来なかった夢を実現させるために、今、再びここにいるのだ。死んでいったオカリン達のためにも、……私は、一分一秒を惜しんで努力しなければならない。
惰眠? 怠惰な生活?
ああ、そんなことで悩んでいた時期もあった気がする。タイムリープする前の私が、何十年以上も前に悩んでいたしょうもない悩みだ。そうか、ここはあの頃の私なのか。なるほど。だからこんな頭がおかしくも懐かしい日記を書いているのか。得心。
まあ、つまり超絶開き直りである。でも自己啓発ってそういうものでしょう?
といっても実際には何も解決していないのだが。あ、いや今の嘘、解決した、解決しました。私はこれから一分一秒を惜しんで粉骨砕身致します。昼寝などという概念自体知りません。
よし、今日の予定確認。バイトがあるから、その分の時間と、それから空き時間を考慮した上での予定。
本一冊読破。
サンデー一冊読破。
執筆一話更新。
ふむ、楽勝である。今の私に出来ないことはない。明日の日記での報告が今から楽しみだ。
さて、では最後に、明日の課題を掲示。なんかまたバイト入ってるっぽいから、それを考慮して、と。
サンデー一冊読破
執筆一話更新
小説一冊読破
漫画八冊読破
余り二時間
……少しきついような……いや何でもない。言い訳はそれに全力で取り組んだ後から考えよう。目標は高いに越したことはないのだ、それを掲げる本人の精神が頑強なものならばだが。
これで今日も明日も全然駄目だったらどう言い訳したものか……。
では、また会えることを祈って。