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~D.M.S~  作者: 水無月燈鈴
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第三話 騎士団支部



 次の日。僕達はとある場所に来ていた。

「ここが王国騎士団レグルス支部だよ」

 目の前には大きな宮殿、いや城と言っ方が良い程建物が聳え建っている。ちなみに、エレナの家の軽く五倍くらい(目測)巨大。いったいどれくらいの年月を掛けて制作したのだろう。……気が遠くなるような年月なのだろう。すごい……。

 という訳で、どうして僕が騎士団に来ているのかというと、それはエレナが言った突然一言が原因だ。




「飛鳥君」エレナは僕を呼んだ。

 僕は、いや、僕たちはチェスみたいなものをやっている。幸いチェスと同じルールだったので、問題無くプレイできているのだが、如何せんエレナがかなり強い。さっきから攻めているが攻めきれていない。このままだと僕が逆転負けしそうだ。


「ん? どうしたの?」

「明日、飛鳥君に王国騎士団に入ってもらうね」

 エレナは思案顔でそう言うと、騎士の駒を動かした。そう来たか……。あー、これだと僕は降りる以外に方法はないな。

「騎士団? 大丈夫なの? 僕、魔法使えないけど……」

「大丈夫だと思う。騎士団もかなりの人手不足だからね。優秀な人が何人居ても足りないよ」

 あと……と、彼女は付け足す。

「アラディアの攻撃は本来【魔力】を持ってない人が少し掠っただけでバラバラになるほどの攻撃力もあって、【人殺しのアラディア】って一般の人には恐れられてるのだからね。それを右腕だけの負傷で持ちこたえた飛鳥くんなら大丈夫!」

「う、うん……ありがとう。それにしてもバラバラね……」


 だらだらと冷や汗が額から流れた。 これがもし僕に【魔力】とやらがなかったらと思うとゾッとする。


「そういえば、魔法ってどんなのがあるの? あっ、これでチェックメイトね」

 騎士を相手の王様の前に持って来て終了。あぶないぎりぎりだった。何度もやってるがここまでギリギリなのは初めてかもしれない。

「また負けた……」一度勝負を中断し、エレナは立ち上がって空になった花柄のコップに紅茶を注ぐ。 コップの中に紅茶がある程度入ると、エレナは自分の席座った。 ちなみに、チェス(?)の成績は10回中僕の全勝。


「魔法には属性が存在し、火、水、風、土、木、雷、氷の7つが基本属性と言われている」 淡々と説明していくエレナ。 だが、幾ら魔法とはいえ、この世界の住民が使っている以上、ある程度簡単だろうと思っていたが、それは大きな間違いだったみたいだ。 エレナ曰く、基本属性以外にも、特殊属性、稀少属性、超稀少属性と言われる本当に極まれに存在する属性もあるらしい。

「それでね、その中で確認されているのをあげると、無、重力、闇、光、この4つが特殊属性に分類されていて扱える人が少なく、多分王国騎士団でも20人も満たないと思う」


 ヤバイ、どんどん頭がこんがらがってきたぞ……。 実際、こんなミステリーだかオカルトだか解らんもんを理解するのは無理だ(開き直りかつ不貞腐れ)。


「ごめん、ちょっと難しいかったよね……? 少しずつ説明したほうがいい?」

「いや、大丈夫だから安心して。どうぞ続けてください」


 僕が難しい顔をしている事に気付いたのか、エレナは少し困ったような顔をして簡略化してくれた。 うん、エレナの困った顔も可愛いな。つまり、この世界で確認されている属性は、全部合わせて18コもあるらしい。 基本属性と特殊属性にのみ【大賢者】という、各属性を極めた者に贈られる魔法使い最高の名誉というのがあるらしい。 その数、僅か11席。大賢者には、属性の象徴にもなる“色”の付いたフードを着てもらいキッチリ身だしなみを整え、常に国民の手本たれを掲げているということだ。


「本当は12席あるんだけど、最後の一席は、今はもう無い失われた属性、【時属性】――時の大賢者の席なんだ。まぁこれで粗方説明出来た……かな? 飛鳥君、何か質問は?」

「今のところはないよ。もしあったらその都度質問していくね」

「じゃあ属性の説明は終わり。あと、王国騎士団に入るには、一定の魔力量と魔武器が必要になるから。飛鳥君の場合魔力量は問題ないから、あとは【魔武器】だね」


 魔武器とは? と聞こうとする前にエレナが口を開いた。


「魔武器っていうのは、使い魔と契約した時に貰える武器のこと。武器にはそれぞれ特有の能力がついていて、更に武器自体が契約した証みたいなもの。魔武器に、いや魔武器にも限らず、属性や使い魔も同じってことはまずないから、世界でただ一つになる。あと魔力量はその名の通り、自分の体内にある魔力の量」


 エレナの話を聞く限り、同じような姿があったとしても、同じ能力、同じ属性は無いらしい。まぁ詳しい話しは魔法を教える時に話してくれるみたい。

「使い魔にも種族や階級も存在していて、例えば、天使、悪魔、エルフ、魔物、ドラゴン、神などなど。これ以外に確認されてない使い魔もいる」

「へぇ、じゃあ一般的に呼ばれる使い魔ってなんなの?」良い質問、とエレナは説明を続ける。どうやら一般的に呼ばれるのが、魔物、エルフ、稀に悪魔や天使が呼ばれて、本当に極まれにドラゴンや神を呼べる人がいるみたいだ。ちなみにエレナはドラゴンを呼んだらしい。


 これから僕の使い魔がなにになるのかもの凄く楽しみだ。


「まぁなんとなく分かったよ。そういえば僕、魔力なんて本当にあるの?」

「大丈夫だよ! 飛鳥君の魔力量は異常っていうほと多いから」

「異常……」


 あれ……? おかしいな……。目から塩水が……。しょっぱいぜ。


「さて、説明も終わったことだし……明日に備えて寝よ? 飛鳥君も遠慮なくここに居て良いから」

質問はないので、僕は首を縦に降る。 エレナはそれを確認したのか椅子から立って部屋の角にあるベッドに向かった。

「寝よって言われても……あっ、何処かにソファーとかある? ソファーがあればそこで寝れるのだけれど……」


 辺りを見渡したが、寝れるような物はベッドしかない。 しかし、いったい何処で寝れば良いのだろうか……。 そんな事を思っていたら、エレナの口からとんでもない事が発せられた。「私と一緒に寝るんだよ?」「ぶっ!?」


 何の悪びれも無く言い放つエレナ。エレナの不意打ちで吹き出してしまった。いや、誰だって吹き出すさ。こんな美が付く少女と寝れるなんて。いやいや、論点が違う。まず、何でこんなに信用するんだ? 襲われるとか考えないの? いやまぁ信用されて嬉しい筈なんだけど、素直に喜べない。 まさか、男として見られてない? え、それはショックなのですが。


「嫌なの……?」うるうるという擬音が似合いそうな顔だ。僕を落としに掛かってっきているとしか思えない。正直これはかわいい。涙目のエレナにはかなりの破壊力があると思うのだが、さすがに年頃の男女が一緒のベッドに寝るのは良くないと思う。


「嫌じゃないけど……。流石に年頃の男女が同じベッドで寝るって些かマズイような気がするし、それに……」


 寧ろこんな綺麗な人と一緒にいるだけで光栄なのに、一緒に寝るって……。 僕の理性が持つかどうか……。 いやいや、何を考えているんだ僕。 相手は恩人である前に友達だ。 煩悩退散煩悩退散……。


「大丈夫だよ。飛鳥君なら信用出来るし……だから寝よ?」

 いや、そうじゃなくて……もういいや。ここで断ったら、寝床なくなるし。

「ハァ……分かったよ。襲っても知らないからね」僕は渋々頷き、そう渋々ね渋々ベッドに入っていた。


 とまぁ勢い良くベッドに入ったのは良いのだけれど、正直ドキドキして眠れない。真横を見るだけで、エレナの綺麗な顔がすぐ近くにある。白銀の髪の毛。まんまるく、くりっとしたタレ目気味の可愛い目に小さくスッキリと整った鼻。極めつけはふっくらと健康的で薄いピンク色をした唇。 ……これはヤバイ。 さっき以上に意識し過ぎて眠れない。 エレナはエレナで僕がベッドに入った瞬間寝てるし。やっぱり僕が男だって意識されてないのかな……?


 それはともかく、明日はどうやら朝早いらしい。こんな時に寝ておかないと何時寝れるのか分からない。僕は瞼をゆっくりと閉じる。すると、さっきまで高鳴っていた心臓が落ち着き、次第にと心地よい眠気が襲ってくる。「お母さん……」微睡みのなか不意にエレナは呟いた。その声は悲しく、そして儚く散りそうな声。まるで何かに怯えているかのように。重たいまぶたを開け眠気を振り払い、エレナを見る。 エレナの頬には一筋の涙が流れていた。余程悲しい事があったのだろう。僕はエレナの涙を指で拭き取り、「大丈夫だよ。僕がいる。君が僕にやってくれたように、僕がいる。だから安心して」彼女を安心させる為に彼女の手を握る。 心なしかエレナの顔が少し笑っていたように見えた。 それは僕の気のせいかは分からないけれど、もしそうだったら良いな。


 先ほどと同じようにゆっくりと目をつむる。今度は心地のよい眠気に身を任せて、そのまま深い眠りに落ちた。





 部屋の一角。窓から太陽の温かい陽射しが部屋に差し込み、僕は温かさによって気持ち良く目が覚めた。背伸びをしベッドから出ようと掛布団を上げる。体内時計的に6時ぐらい。太陽の角度的にも同じくらいだと思う。


「……ん?」

 そういえば、隣には誰かが……。

「…………んん?」

 昨日そのまま寝てたから忘れてたが……。

「…………………うわぁッ!!」


 驚きのあまり大声を出してしまった。そりゃそうでしょ。エレナみたいな可愛い子がシャツ一枚で自分の隣で寝ていたら誰だって驚く。というか何故シャツ一枚?昨日はちゃんと服着てたよね!? まさか僕……? いやいや、僕って何かしたっけ!? かなり不安になってきた……。

 僕は何もやってない。

 僕は何もやってない。

 僕は何もやってない……筈。

 とりあえず見なかった事にして、掛布団をエレナにかけ直してから起こそう。うん、そうしよう。そちらの方がお互いにとっていいだろうしね。僕はベッドからささっと出て、掛布団を掛け直す。そして、エレナの身体を揺らした。


「エレナ、起きて」

「うん……起きる……」


 まだ少し寝ぼけているみたいで頭が少しふらふらしている。時間的には5分ぐらいだろうか、少しづつ眠気が消えたエレナは、ベッドから降りるため掛布団を二つに織り、邪魔にならないように奥に置いた。深呼吸しながら背伸びをするエレナ。


「……っ!」


 今の状況をあげると、エレナの体全体が見えている状態。ただ、せめての救いでYシャツを着ていたのは有り難かった。長い白銀の髪に、整った小さな顔。雪のように真っ白い肌。それが無地のYシャツと真っ白な肌がとてもあっていて、


「綺麗だ……」


 はっと気付く時には遅し。無意識の内に僕は声に出してしまった。開き直ると、事実綺麗なのだから仕方ない。


「え?」


 どうやら聞かれてたみたいでエレナは自分の現状を確認のあと、顔を真っ赤にしてうつ向いてしまった。聞かれてた……。 かなり恥ずかしい。その証拠に心臓が高鳴りが速い。 顔が火照っていて、涼しい筈のこの部屋が暑く感じる。


「…………」

「…………」


 長く感じる沈黙。 この雰囲気にはちょっと耐え兼ねない。 どうしよう。 沈黙を消す為に話したいのだけど、話す事が思い浮かばない。


「その……朝食食べたら本部に行くからね」


 先にこの沈黙を破ったのは、エレナの方だった。 こいう時は男である僕が先導しなくてはならないはず

なのに、女の子であるエレナにさせてしまった。これでは僕が甲斐性無しになってしまう。 脳内にヘタレの三文字が浮かび上がったがそれは気にしないことにした。


「うん」

「じゃあ作ってくるね」


 ベッドから降りる。小さい机の上に畳んで置いてあった赤い灰色のチェックと、両サイドに白の十字が刺繍されているスカートを……って何マジマジと見ているんだ僕は!?  急いで両手で顔を隠す。なんて、そんなことやっているが、指の隙間から見てしまうのはやはり男の悲しい性なのだろうか。


 着替え終わると、この部屋から出て何処かに行ってしまった。ゆっくりと閉まる扉をぼうっと見ながら矢張りと考える……女の子があんなに無防備で良いのだろうか。僕はお父さんでも恋人でもないから大きなお世話かもしれないが、そう思ってしまう程無防備なのだ。これが距離が近いだけなら兎も角あれだけ素肌や下着姿を晒すのはどうかといやいやマジマジと見ていた僕も僕なのだけれど、それでも棚に上げてまで心配になってしまうではないか。


 大きなのっぽの古時計を見ると、きっかり一時間後に大きな扉からエレナがカートを押しながら入って来た。テーブルにゆっくりと丁寧にお皿を置き並べていく。その所作はさながら熟練した侍女のようで美しい。ほうれん草(らしき物)のお浸しに鮭(多分鮭だと思う)の塩焼きに更に肉じゃがと味噌汁やお茶碗に白飯とお箸……え、何その日本食のオンパレード。ここ異世界だよね。職人技にすら思えてしまうほど綺麗に整えられていて下手な日本人より上手なのではないだろうか。

 ただ一点だけ気になった事がある。


「これ……エレナが作ったの……?」

「うん、私が作ったの。飛鳥くんが極東と呼ばれた場所から来たって言うから……時間がなくてそこまで作れなかったけど、その、変かな……?」

「いやいやいや、これで変なら元の世界のシェフは食べれるものじゃなくなるよ!」

「流石にそれは言い過ぎだと思うけれど……うん、変じゃないないなら良かった。飛鳥くん食べよう」


 言い過ぎじゃないと思うけど。それは口に出さないでおこう。僕もさくっと椅子に座る。


「いただきます」まずは、大根のお浸しを攻撃(食くす)する。 細切りにされた大根をお箸で口元に持っていき、そのまま一口頬張る。 実を噛んだ瞬間、大根の甘みが口に溢れだした。 まだ時間的にそこまで漬かって無いものの、ここまで柔らかく且つ旨味を引き出せるエレナは凄いと思う。


「おいしい……?」

 不覚にもその不安そうな顔に激しく悶えそうになった。

「うん、凄く美味しいよ!」

「本当に? ……良かった」


 エレナは僕の反応を聞くと安心した声を出し、深く息を吐いた。次は肉じゃがを狙う。馬鈴薯をお箸で少し崩し、人参も一緒に口に入れる。……やばいかなり美味しい。人参の甘みと煮込んだことによる醤油と砂糖の絡みが絶妙。どんどんご飯が進む。ご飯もご飯で美味しい。ここに御釜があるかはしらないけれど、綺麗にお焦げもある。これは上手い。鮭も言わずもがな、丁寧に塩焼きされて余分な油が落とされていることから網で焼いたのだろう。どうしよう、これ毎日食べてたら太りそう。世の中の幸太りの男性って奥さんに餌付けされてそうなったのだろうね。恋人とかじゃないけれど……気持ちがよく分かった。

 そうだ、エレナに聞きたい事があったんだ。


「……エレナ、このご飯や味噌はどうしたの? 僕的に異世界にこれらがあるのがすごく不思議というか違和感がすごいというか……」

「これはね、たまに来る極東からの商人から卸してるの。私が和食……というのかな、を料理できるのはそこから来た料理人に食べさせてもらって美味しかったから教えてもらったからなんだ」

「へえー、じゃあ僕はその料理人に感謝しないと……あ、あと、王国騎士団ってどんな所? やっぱり、王国騎士団って言うぐらいだから国を守るんだよね?」

「そうだよ。その他に、飛龍討伐や戦争。はたまた街の守護なんかも行ったりするし、とにもかくにも国民の手に負えないものは基本的に私達騎士団の勤めなの。まぁランクごとに別れてるからその辺はバラバラだけど」

「ねぇエレナ、前々から思っていたんだけど、【ランク】って何?」

「そういえばそうだったね。ランクというのは【強さ】や【難易度】の順位。 それで、アルファベットは強さを意味しているの。例えば、王国騎士団や魔物、使い魔等に当てはまり、下から、F、E、D(一般の魔法使いクラス)、C、B(下級騎士クラス)、A(中級騎士クラス)、S(上級騎士又は副騎士団長クラス)、SS(騎士団長クラス)、SSS(大賢者クラス)の10個」


 僕の世界でいう階級みたいなものか。聞けたものも聞けたしごちそうさましますか。


「ふう、苦しい。ご馳走様でした」

「はい、お粗末さまでした。私もご馳走様でした」

「これどこにおけばいい? 僕片付けてくるよ」

「あ、大丈夫だよ。そこに置いといてくれれば私が持っていくから」

「いやいや、そんなわけにもいかないよ。只でさえお世話になりっぱなしなのに何もしないのはちょっと……」


 んーと考えるエレナ。分かったと口を開いた。

「別に気にすることはないと思うけど、でも飛鳥君がそういうのならお願いしようかな。私も騎士団服に着替えなきゃいけないし。場所なのだけど、アクアさんお願い」

「かしこまりました」

「……っ!?」


 扉が開く音はしなかった筈だ。いつの間にか背後を取られて――いた。気配も音も匂いも何もしなかった。これが敵なら僕はこれで死んでいた。後ろに振り向く。落ち着いたゴシック調のメイド服で綺麗にお辞儀している女性。


「あ、すみません……驚かす訳ではなかったのです」

「いえ、こちらこそすみません。大袈裟に驚いて」

 いえいえこちらこそと彼女が続ける前にエレナが、

「アクアさん。終わらなくなっちゃうから」

「はい、すみませんでした」

「じゃあ、アクアさん。飛鳥くんのことお願いね」

「畏まりました。では飛鳥様こちらへどうぞ」


 個人的には場所さえ教えてくれれば行けるのだけれど、流石にそれはあれか。女性の家に来て色々散策するのも……あれ、そういえばエレナの両親はどこにいるのだろう。流石に家に来といて挨拶やお礼も無しなのは頂けない。扉の前で待機しているアクアさんにカートを押して付いて行く。


「あの……先程は大変失礼致しました」


 沈黙のなか歩いていたらアクアさんが僕に向き直り、頭を下げた。彼女ももしかしたら気まずかったのかもしれない。気にしてないのに。というか寧ろあの気配の消し方を教えて欲しいぐらいだ。


「いやいや。さっきも言いましたけど、全然大丈夫ですよ」

「けれど……」

「んー、では僕にあの気配の消し方教えてください。それでお互い無しにしましょう。そもそも僕の我儘聞いてもらっているわけですし、これ以上何か要求したらバチがあたっちゃうよ」

「……わかりました。時間有るときにお手ほどきいたします。飛鳥様はお優しいのですね」

「や、普通だと思うけれど……うん。道案内もよろしくおねがいします」

 はいと彼女は笑顔で返事し、歩み出す。僕も一緒に歩き出した。




 食器を置いて皿洗いを済ませると、扉を出た先――目の前でエレナが嬉しそうに、ニコニコと満面の笑みで僕を見ていた。


「エレナ? なんだか嬉しそうだね」


 僕はエレナに近づき、エレナが笑顔の理由を聞いてみた。

「うん、嬉しい事あったよ! アクアさんがあんなに嬉しそうな顔をしてるんだもの。 だから私も嬉しい。 アクアさんは私の家族だから……。 さ、早く騎士団に行こう」


 エレナはさっきの部屋を素通りし、そのまま真っ直ぐにある大きな階段を降りていった。 アクアさんとは誰なのか分からないが、そんな事を考えて置いて行かれるのも嫌なので、僕は置いて行かれないようにエレナに着いていく。 こうして僕達はエレナの家を後にした。


 ――そして今に至る。何度も思うが、果てしなくデカイ。とにかくデカイ。エレナはネグルスの町に着いた時のように門へと近づきそのたおやかで真っ白な手を扉に置く。置いた瞬間、淡白い光がエレナの手に帯びる。 数秒もしない内に、光は扉全体を稲妻のように迸り、六芒星の描かれた丸い円陣に辿り着くと扉がエレナの手のようにだんだんと光って行く。 カチリと何かが嵌め込まれた音がすると同時に、古びたドアが開くような音を発して扉は開く。 エレナはその扉の中に入って行くので、その後に続いて僕も扉の中に入って行った。


 しばらく歩くと大型の噴水がある。この場所を中心に、三つの方向に道が別れていた。 ここから見て、後ろがさっき来た道で、右に魔導騎士団支部。左は騎士団支部。とエレナは歩きながら説明してくれた。僕達が行くのは騎士団支部の方。魔導騎士団の主は研究と有事の際に後方支援が任務だそうだ。僕としては魔法が使えるわけではないので魔導騎士団のほうではなくてよかった。


「みんな楽しそうだな……」


 芝生の上で仲の良い人と喋っていたり、昼食を摂っていたり、昼寝をしている人達が大勢いる。お城の中の人達はみんなニコニコ笑っていて幸せそうに見えた。平和な証拠だ。


「もうすぐ着くからね」

「うん」


 さっきの噴水を右に曲がってそのままひたすらまっすぐ歩く。 奥に進む度に段々と人が居なくなり、遂には人が一人もいなくなっていた。 何故だか分からないがエレナは整理された道を使わず、雑木林の道に進む為、僕はエレナに着いていく。 草や木を退かし、避けながら進むのだが……うざったい事この上ない。 本当にこの道で合ってるの? そんなことを思いながら進んでいくと、急に雑木林の道が終わりを告げた。 建物が見える。 さっき城ほどの大きさは無いが、充分に大きい。


「着いたよ」

「ここが騎士団支部……」


 豪華な扉の上にエンブレムが飾ってある。二本の剣(あれはバスターブレードといえばいいのだろうか)を縦の前で交差するように掘られている。これは市民を守る剣になるという意思表示なのだろうか。ただ、作りを見るとかなり古く見える。そうとう前からこの場所はあるみたいだ。通りで趣の有る場所だと思った。


 中に入ると、まず目に付いたのは、何処にでもあるような会社のように、椅子に座って挨拶をする女性が横に二人並んでいた。彼女たちが所謂受付嬢の役割を持つ女性たちなのだろう。


「リオスさんは居る?」


 エレナの不躾な態度に赤いベレー帽び2つ羽(もう一人は一つ)の付いたワッペンを身に着けている女性は不審な顔をして、


「リオス様はただいま席を外しております。どういったご用件でしょうか」エレナは僕を指を指して受け付けの女性に言う。

「彼の入団試験を受けさせたいの」


 またかと少しため息吐くと、


「申し訳ありませんが当騎士団は個人での入団試験は受け付けておりません。二ヶ月先にございます一斉入団試験の方に受け付けて頂き試験を受けてください。詳細はこちらの紙に記載されていますので、ご確認のうえ、ご応募をお願いたします」


 説明が終わったと言わんばかりに目線を出入り口の方へ向けている。これは暗に帰れということなのだろう。確かに少女と少年が急に来て試験を受けさせろと言われたらそりゃあそういう態度を取るよね。ただ、彼女は受付嬢としては矢張り失格なのだ。いくら不審そうなふたり組だからといってそれを態度に出してはいけない。その場所の信用問題になってしまう。とはいえ、僕は試験の話しは一切聞いてないのだが、これはいったいどういうこのなのだろう。――や、普通に考えれば分かることだよね。流石に僕がどのくら出来るかエレナも含めて上の人達も分かっていないと仕方がない。あくまで王国を守る場所なのだから。


 エレナは少しバツの悪い顔をして、


「……これを見てもらった方が早かったよね」

 カードを受付嬢に見せると、瞬間彼女たちの顔が一瞬にして蒼白になった。


「も、申し訳ありませんでした!!」


 先ほどの態度とは打って変わって頭を振り落としてしまうのではないかというほど頭を下げ始めた。


「ううん、私も配慮が足らなかったよ。ごめんね」

「いえ、まさかエレナ様だとは知らず申し訳ありません。リオス様は奥の部屋でお待ちです」

「うん、ありがとう。飛鳥くん行くよ」


 返事をする前に僕の腕を引っ張って行く。受付の脇を通り奥へと向かう。幾つもの部屋を通りすぎて一番奥の部屋。そこの扉だけ他の扉とは違う仕掛けが設置されていた。他部屋は小さい魔法陣だったが、この部屋だけ矢鱈に大きい。ここがそのリオスさんとやらが居る場所なのだろう。明らかに雰囲気が違う。


「リオスさん入るよ」


 一瞬魔法陣が光ったと思うと次の瞬間にはカチッという音が鳴った。ドアノブを回してエレナは中へと入っていく。


「入っていいぞとは言ってないんだがな」

「うん知ってる。リオスさん居ても返事しないだもの。なら問題ないと思う」


 ふ、違いないとリオス氏はニヒルに笑う。入った正面、机の上で手を組みその上に顎をのせている姿が嫌に似合っている。風貌的には40後半ぐらいで髭を不清潔にならない程度に伸ばし整えているのだが、これが所謂ダンディーな人というやつなのだろう。おじさまスキーなら一発で落ちるレベルだ。


「昨日連絡したから分かるとは思うけれど、彼を騎士団に入れて欲しいの」

「……確かに聞いたが、私はそれに賛成した覚えは無いぞ。更に、だ。そこの彼はいったい何処の人間なんだ? 正直胡散臭いし、何処の骨とも分からないやつをこの王国騎士団に入れるほど甘くないつもりだ。これがちゃんと試験を通り面接をしての入団なら文句はないのだがな……」


 リオスさんはゆっくりと立ち上がり、僕の目の前へと近づいてきた。目の前で見るとがっちりした体格で身長も僕の頭一つ分デカイ。威圧がすごいけどまっすぐ彼の目を射抜く。……すると、


「……ほう、私の威圧に耐えられるだけの胆力はあるようだな。入団はまだ認められないが、よし、推薦状を書いてやろう。それならなんの不正も無い。実力でもぎ取ってみせろ」

「はい! ありがとうございます」

「自己紹介がまだだったな。私の名前は【リオス=スカーレットフォード】だ。もし騎士団に入ることが出来たらよろしくな」

「僕の名前は【アスカ=アサクラ】です。入団できたらよろしくおねがいします」


 エレナはどいうわけか納得行かない顔しているが、僕はこの対応でもかなり温情はあると思う。ましてや推薦状も書いてくれるというのだ。感謝以外なにものでもない。どうやらエレナの想定では僕はこの時で入団する予定だったらしい……正直それは無理あるとは思うけれど、彼女がどうしてここまで僕を騎士団に入れたがるのか分からない。けれど、彼女に命を助けられた僕としては彼女の顔に泥を塗らないように合格するしかないのが現状だ。筆記試験とかあったらどうしよう。それだけが心配。体術もしくは剣術なら大丈夫だとは思うけれど油断はしないようにしよう。

 リオスさんは自分の席に戻り、書状に何かを書き込みエレナに丸めて渡した。

「……リオスさん、また後で話しあるからここにいてね。とりあえず、飛鳥君は二週間後の試験に受けさせるから」

「分かった。そのために推薦状を渡したんだ」

 また後で、とエレナはリオスさんに言うと僕達はこの部屋を後にした。





 ここはとある神殿。

 特徴的なのは、何メートルにもなる大きく太い柱と、何か古代の文字と絵が描かれている古い壁。それがこの神殿の特長だ。そして、この神殿の中心にある、剣を上に突き上げ掲げている騎士の銅像の周りに数々の色が付いているフードを着た者が集まっていた。

 その数は12。

 フードとローブの境目に、何かの樹を型どった紋章が着いている。


「みんな、今日は集まってくれて有り難う。 今日は挨拶程度に騎士団本部を襲ってもらう。 ただ僕は残念ながら後になってからじゃないと行けない。 僕は王様に呼ばれているからね。 たから僕は行けないけど、誰かに本部を襲ってきて欲しい。 誰か行きたい人は居る?」


 全員が居るを確認した虹色の紋章を付けたフードの人物が言う。 少し時間が空き、虹色の紋章を付けた人物が口を開こうとしたとき、一人手を上げた者が居た。


「この俺様が行かせてもらうぜ! リーダー……いや、時空の大賢者様」

 手を上げた者は、紅い紋章を付けた人物だった。ただならぬ殺気を放ち紅い紋章の通りに紅い色の魔力が溢れている。

「業炎の大賢者である君が……。いいよ、行って来て。それじゃあ今日は有り難う。 解散」

 虹色の紋章、いや時空の大賢者が言うと、その場から時空の大賢者以外他の大賢者達は消えた。 残った

時空の大賢者は口元を妖しく吊り上げ、


「楽しませて貰うよ……。その為に君を呼んだんだからね」


 時空の大賢者以外居ない空間にポツリと響く。 時空の大賢者の手元には大きい硝子玉に、黒い髪と黒い服装をした少年が映っていた。



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