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~D.M.S~  作者: 水無月燈鈴
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プロローグ

 ここはとある森。


 辺り一面木や茂みによって覆われ、霧も無い場所である筈なのに見渡すだけでは奥は見えない。静けさだけがこの場所を包み込む。――ただ一点を除いて。


 一点とは――その場所に不釣り合いの少女。白銀の髪の毛が特徴で、それはまるで神話に登場する乙女の如く可憐な少女――整っているが幼さを残した顔。垂れ目気味の目。ふっくらと膨らんだ健康的な桜色の唇。町中を歩けば誰もが振り向いてしまうような美少女――そう、美少女なのだ。


 そして、白銀の美少女は何かを感じ取るように目を瞑る。

 木や草が風によって揺らぐと、少女の綺麗な髪の毛が踊るように、そう、それは妖精が踊るかのようにふんわりと柔らかく靡く。


「これは……魔力……? それもかなりの大きさ……」


 少女が小さく呟くと、紅い毛をした猫のような生物が白いフード付きのコート――小さなポケットから這い上がるように出てきて肩に上る。


「エレリア様っ! このような場所に居てどうするんですか!? もし、エレリア様に何か遭われてしまえば……トトは……」


 悲しそうに呟く猫らしき生物――トトに少女エレリアは軽く頭を撫で、安心させるように。


「大丈夫だよ、トト。私はこれでも強いんだからね! あと、トト。私をエレリアって呼んじゃ駄目。エレナって呼んで、ね?」


 微笑む。ただその際呼び方を注意したのは“ある事”があり、名前を変えなければいけなかったからだ。その時トトは“居なかった”ので当時の事を体験している訳ではないが“その後”からトトは一緒に居て少女を護り続けている――いや、護り続けなければいけないと誓ったのだ。今でも記憶の奥底に焼き付いている。必死に、泣け叫びながら強さを欲した少女の顔が――


 トトは一息入れ、

「……分かりました。何かあれば必ず召喚してくだいねエレナ様」


 微笑みを浮かべている主のために渋々引き下がることにしたのだった。

 そして、少女が頑固でこれ以上何言っても聞かないと引き下がった(諦めた)トトはコートに存在する小さなポケット(トト専用)に入って行った。


 トトがポケットに入った事を確認したエレリア改めエレナは先ほど感じた大きなそれも桁外れに大きな魔力をもう一度辿る。……小さく……大きく……小さく……大きく……波のように感じる――こんな魔力感じた事がない。心配になった彼女はその魔力の原因がある場所に向かおうとしたその時――


 信じられないほどの突風がエレナの周りを突き抜けて行った。――それは、獣の咆吼。威嚇するとき、憤怒に染まった時のみ発する声。


 木々が大きく揺らぎ、粉塵が辺りを舞い目に入らぬように腕を盾にしてやり過ごした。が、続いてもう一度咆吼と突風がエレナを襲う。自分が出した短い悲鳴も風の音でかき消された。それはエレナにとって好都合(恥ずかしいので)だが、今はそんな事をしている場合ではない。


 ――反応が、魔力の反応が小さくなっているのだ。そう、明らかに人の。大きく感じた魔力の反応が咆吼の後から小さくなっている――つまり、人が今現在死にかけているということになる。最初は“魔武器”か何かかと思ったがそれは違ったようだ。人が――


 居ても立ってもいられなくなったエレナは、大きな魔力の反応があった場所まで急いで向かう。茂みを掻き分け、木を避け、開けた場所に出るとそこに待ち構えて居たのは――猛禽類のように尖った爪に、何もかも噛み砕き一切も逃さぬ牙。睨みつけられたら間違いなく硬直してしまいそうな鋭い目付き。体長は約三メートルと身体は大きく鎧のような毛深い体毛に覆われたそれは――


「――アラディア」


 そう、彼女がここに居る目的にして倒すべき敵――アラディア。多くの“騎士団”に属する人間を屠ってきた絶対的強者。しかし、“本当の”絶対的強者は彼女が現れた時点で変わってしまったのだ。そう、彼女さえ現れなければこの森の支配者は目の前に居るアラディアだったであろう。だから、アラディアは本能的に悟った。――勝てないと。彼女に気がついた瞬間から自分は絶対的強者ではない。だから、全てをやり直すべく、自分の目の前にいる人間を殺す瞬間(はず)だった右手を引き、いつでも逃げられるように体制を立て直し、自分よりも小さい人間と対峙する。


「【光の断罪弾( レ イ )】」


 あらゆる魔法の行程を無視してエレナの右手から放たれる断罪の光。アラディアは既に方向転換しており、アラディアの右脇を通り過ぎて行った。しかし、エレナからしてみればこれは予測していた事。避ける事(・・・・)を前提にしていたエレナは直ぐさますぐに魔法を放つ。


「これで終わり――!」


 エレナの中にある魔力が急速に巡りを開始する。廻る廻る廻る。心臓、血管、脳、五臓六腑に染み渡るようにそれは駆け巡る。


 そして彼女は“必殺”を口にする。

「【懺悔せよ神罰の光剣(ジャッチメント)】」


 瞬間、アラディアを囲うように幾千もの光りの剣が現れ、逃げ道を封じ込める。等間隔に並べられたそれは、懺悔する大罪人に一時の猶予を与え、その時を待っている執行人。同時に神々しく光る剣は安らぎを与える“光り”のようでもある。人が見ていればこの光景に感嘆の息をもらしたことだろう。


 だが、相手は獣。そんな感情は持っている筈もなく、この剣を見た瞬間、先程の勢いは完全に消え去り、最早怯えることしか出来なくなっていた。――そう、だからせめて安らかに――


「……おやすみ」


 光の剣群に合図を出す。その刃は一斉にアラディアへと向かう。逃げることも目を瞑ることも何もかも出来ない無慈悲の剣の雨。出来るとすれば――迫り来る“死”への恐怖だけ。


 アラディアの急所を的確に貫き、声を上げる暇すら与えず串刺しにし、絶命へと追い遣った。


 光の剣が消え、力なく倒れるアラディアに近づき、頭部を上から優しく撫でる。幾ら人を護るためとはいえ殺してしまったのだ。彼女はそのことで心を痛めていた。しかたがなっかたのだ――と、自分で心を誤魔化せる(・・・・・)ほど彼女は大人でも無かった。だから“痛い”。だから“痛む”。彼女は徹底的に優しいから仕方がないことでも涙を流してしまう。


 ――そんな時。


「君、大丈夫?」


「え?」と声が聞こえた方を向いた。


 この国では珍しい黒い髪の毛。整った顔は少しだけあどけなさが残っており、中性的。どちらかといえば可愛い部類に入るだろう。次に目が行ったのは瞳。吸い込まれそうなほど綺麗で深く漆黒と言っても差し支えがない瞳。それでいて理不尽な何かを知っている――いや、体験している真っ直ぐな瞳でもあった。それ以外は見慣れない黒一色の服装しているだけで特に普通――ああ、彼は違う。普通ではない。普通に見せているだけなのだ。根拠は無い。ただ、彼には何かが“ある”、と思えてしまったのだ。


 だから、今彼が話しかけて来たのも――きっと彼の中にある“何か”があったからだろう。


「……平気。それより君は?」


 もう一度よく見る。

 彼は右肩を押さえて、その肩から血が絶賛出血中と云わんばかりに大量に溢れ出ていた。その他にも掠り傷や打撲見て取れるものの、酷いものはそこだけらしい。


「この傷は……うん、服を脱いで少し横になって」


「え!?」


「いいから早く!」


 エレナが少しだけ強く言うと、「……分かった」と諦めたように服を脱ぎ始めた。


 晒された少年の身体は筋肉質ではないため筋肉は余り目立たないが、その代わり柔らかく筋肉が付いている。柔軟性が高い証拠だ。いったいどんな訓練を積めばこんなバランスの良い身体を作れるのだろうか。本気で問いたくなったのは、必死に理性で押し込める。


 エレナは痛みで顔を顰めた少年が横になったのと同時に、右肩を抑え“治癒魔法”を唱える。


「【天の恵み(ヒール)】」


「ぐっ……!」


 最初の一瞬だけ肉が焼けるような音がしたが、その一瞬だけであとはなんの問題もなく見る見るうちに傷が治っていった。顔も力んでいたが傷が無くなる頃には微睡みうつらうつらしていた。


 勿論、治している間はどうしてその傷を負ったのか、と聞いてみたが、案の定アラディアに攻撃されて傷が出来たらしい。よく、生きていたねと云って、みると苦笑しながら「君が居なければ死んでいたよ」と返してきた。この返事に彼女もまた苦笑せざるを得ないのだが。この事を考えてあの大きな魔力の正体は目の前の彼。でも、今はそんな魔力は感じられない。誤反応なのか。……どちらにしても今は様子を見なければならない。あの大きな魔力はなんだったのか。あれは彼の物なのか――を。


「そういえば、言い遅れたけれど僕を助けてくれてありがとう。お陰で僕は生きています」


「本当にありがとう」と彼は最高の感謝と最高の笑顔で深深く頭を下げた。


「ううん、私は当然のことを……あれ……? おかしいな、普通の事をしてお礼を言われただけなのになんで涙が出るんだろ」


 彼女は困惑した。自身の頬に伝わる一粒の雫に。彼女は普通の事をしたのだ――そう、彼女にとっては普通の。思い当たる節は無い。――と、そこで陰が過ぎる。人の顔だ。人々の顔。彼女が助けても上辺だけの感謝、助けるのが当然とした奥の表情。笑っているのに何処かで蔑み見下した目。――まともに感謝をされたことがないのだ。だが、目の前の彼はどうだ。本当に笑顔で、生きていることに喜び、その生かせてくれたエレナに本気で感謝している。たぶん今エレナが彼にわがままを言っても笑顔で付き合ってくれるだろう。それも、ただの恩人としてではなく女の子としても。


 それがはっきりと自覚した時には涙腺のダムは決壊していた。


 泣きながら彼に自分の名前を叫ぶ。


「私の名前はエレナ!! エレナ=ローバル!!」


 当然、なんで泣いているのか分からない彼は困惑しながら自分の名前を泣いている彼女に云うしかないのだった。


「僕の名前は――――」







 こうして運命の二人は出会った。

 ここから先少年たちは大きな奔流に巻き込まれるだろう。

 悪意、善意、真実、矛盾、全てが入り乱れる。これを少年たちは乗り越えていかなければならない。


 乗り越えられるだろうか。いや、乗り越えるだろう。

 ――さあ、始めよう。運命()魔法()物語()を――

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