第1話『信仰と侵攻』
平穏な日常が続いていた、どこか別の世界。
その静寂は突如、喧騒と血でかき消される。
「『世界へ宣告する』この世界は我々”パンドラ”が頂こう。君たちの命に”価値はない”
【服従】か【死】か選びたまえ。従うのなら見せてやろう。黎明、新しき世界の夜明けを!」
5人の”男”で構成された犯罪組織”パンドラ”
彼らは突如世界を相手に宣戦布告をした。
果たして彼らの目的は?
全員に、開けてはならぬ秘密が宿るパンドラの箱。
彼らが最後にもたらすものは希望か?絶望か?
【一般人の悲鳴と、爆発音、ガラスの軋む音が鳴る中、空に映し出されたモニターに”白髪の男”が映っている。その存在はどこか不気味だが、”神”のような雰囲気を纏っている。背後には他に4人の姿が映っているが、よく見えない。
そして、白髪の彼がゆっくりと口を開く。】
『世界へ”宣告”する。貴様らに生きる″価値″は無い。我々、パンドラが”世界”を全て頂く。
死ぬか従うか選ぶといい。従うのなら見せてやろう。新しい世界を』
【それが彼らによる侵攻の始まり。
犯罪組織”Pandora”。彼らによる世界への宣戦布告であった。】
~事件の少し前~
男「退屈だなぁ…」
(彼の名前はアルト。アルト=エスペランサ
年齢は18歳くらい。
とある鍛冶屋の弟子である。不真面目な性格で、真面目には働いておらず、惰性で生きている。退屈を嫌うが、自分から動きたいと思うような体力はなく。餌を待つ鯉のように、面白いことが降ってくるのを期待している人間である。)
【ぐうううう…(腹の音)】
アルト「そういや…腹減ったな…」
(彼はそう言って、”氷魔法”を応用して作られた保管庫に向かう。どうやら食料は使い切っているようだ。彼には火の魔法の才能がない。
情熱がないから。しかし、氷の才能はある。
普通は″長時間冷やし続ける結界″のようなものを構築することはできない。)
アルト「…買い物行くか」
【ガチャっ…(扉の開く音)】
アルト「…相変わらずくさい」
(ここは小さな田舎村、農業がメインであり
観光産業は、ほぼ発展していない。
若い人間は発展した地域に学問や仕事を理由に移住する為、基本的に高齢者が多い。
また、無駄に土地だけは余ってる。地価も
都市部に比べては安く、担い手も居ないため荒れた農地が放ったらかしにされていたりもする。
その為、その土地を活かして老後や趣味で畑を作るものが多く、外に出るとほのかに牛糞の匂いが漂ってくる。幼少期よりここで過ごしてるアルトは牛糞の臭いに慣れているが、それでもくさいとは感じる。)
アルト「…いくか」
老人「よう!アルト!元気か?暇そうだな!自警団入らないか?」
(自警団。そう基本的に若者は、こんな寂れた村に残らない。そのため、40代や50代の人間が自警団活動をしている。主な活動は非常時の
消化、救助、見回り、戦闘。
しかし、賃金を払う余裕は組織として無く、
ボランティア募集の形態に近い。報酬と言えば年に1~2回の宴会の費用が無料な事だけである。)
アルト「またかよ!それに暇じゃないって!今日が休みなだけ!」
老人「そうは言っても親方から聞いたぞ?
『若いのが真面目に働かなくて困ってるって』」
(小さな村にはよくある事だが、噂が広まるのがとても早い。誰の口から語られるのかは知らんが、なぜかプライベートや仕事の事が知られている。気持ち悪い。)
老人「わしが若い頃はもっと大変だったんだぞ!」
(うるさい。どうでもいい。だからなんだ。)
アルト「あはは、頑張ります!」
老人「そういや、アルトの所の姉さんは元気かい?良い年齢になるけど。まだ結婚してないそうだね。変な服装してるから男も寄り付かんのだろう。」
(始まった…古い時代の人間によくある
″価値観の押しつけ″である。
流行には疎いくせに、伝統を常識として刷り込もうとする。
新しいものに″理解″を示そうとしないくせに、
自分の価値観を″理解″させようとしてくる。)
アルト「姉さんは首都の方に引っ越しましたね。多分、元気ですよ」
(姉さんが引っ越したのは″こいつら″のせいだ。
自分の趣味が、老害共の狭すぎる価値観のせいで受け入れられず、結婚は?将来は?と
毎日、裁判のように問いただされ嫌気がさしてでていったのだ。)
老人「そうなのかい。変わり者だったけど。都会で通用するのかねぇ…」
(ハッ!何を語るか。伝統と古い価値観に縛られ、改革も進歩もないのが″お前ら″だろう。
その証拠がこの村だ。時代の波に取り残され、
観光産業に出来るほどの場所も特産品も無く、
ただ毎日、野菜を作るだけ。人を寄せ付ける
魅力も無いから″若者″も居なくなる。
停滞と滅びが待つだけの村)
<それはあなたも同じでしょう?>
(うるさい…黙れ!″私″に話しかけてくるな!)
アルト「心配してくれてありがとうございます。少し用事がありますので失礼しますね!」
老人「姉さんによろしくね!」
アルト「はい!」
(少し気分が悪い…早く買い物を済ませて帰ろう…頭がうるさい…しね…みんな死ねばいい…)
【少し歩くと、商店街のような物を売る店が集まった通りがある。元々は通行客や地元住民で繁盛していた歴史があったが、時代の流れと共に流通網や移動手段が変化し地元住民だけでは
商売がたち行かなくなり、″永遠に開かない店″
や店だったものの″残骸″があちらこちらに点在している。】
肉屋「よう。アルト!今日はいい肉があるけど。買うか?」
アルト「んん、あんまり高いやつは買えないよ?親方ケチだし」
肉屋「はは!少しは、まけてやる!お得意様だからな!」
(正直な話をすると、この肉屋と僕の関係性は
″かなり薄い″。地元住民にありがちな親からの″繋がり″があるだけだ。現に僕はこの人の
名前を知らない。聞いたところで肉屋は肉屋だ。)
肉屋「そうだな。付近の森で取れた″魔獣″の肉はどうだ?」
(無駄に土地があるのに全てを有効活用出来ない理由がこれである。″魔獣″ケモノとは違い。何かしらかの理由で驚異的な生命力と、筋力を手に入れたバケモノ。人類の生活系を超えた先、それは人のテリトリーではない。しかし、彼らにとっては人類の生活圏もテリトリーであり、ごく稀に出没する。)
アルト「これって、かなり貴重じゃない?
高いでしょ?」
肉屋「100gで300ルクスでいいよ。」
アルト「高いな…」
(アルトが通常買う肉は、一般に流通されているケモノの肉で100g90ルクス~100g150ルクスくらいのものである。希少価値を考えても倍は手を出しづらい。しかし、魔獣の肉は高級肉のように美味く、相場から見たらとても安い。)
肉屋「相場で売ったら高すぎてどうせ売れないからね。それに都市部に運ぶ頃には”ダメ”になるお得意様のサ-ビス品にしようかと思ったのさ。さて、どうする?」
(これが魔獣肉の希少価値を上げている特異性。
魔獣の肉は放置しておくと毒を持つようになる。その毒は自然に分解されると、当たりの木々を汚染する。汚染された木々は異世界の
生物となり、新たな魔物を生み出す苗床になる。とても危険な代物だが、食料としての価値も高い。そのため毒が出る前に食うか、燃やすかの選択になる。)
アルト(ん--んじゃ、100gちょうだい)
(少し高いが、相場から見たら安いしまあいいだろう。それにさっきの爺との会話で気分が悪い。美味いものでも食わないとやってられない。)
肉屋「はいよ。ちょっと待ってな。」
(肉屋がドス黒い肉を取り出す。その肉は未だに
”動いている”。手足を失い、心臓を奪われようと、肉塊だけでも立ち上がるれるかのような
”脈動が”そこにある。それはまるで”呪い”のようだ。
どんなに蓋をしようと、暴れてでも這い出ようとする”ナニ”か。そんな印象を受ける肉だ。)
肉屋「そいや!」
【ぶしゅっ…(血の出る音)】
(肉屋は肉に包丁を振りかざし両断する。切られた肉は”両方”とも、痛みで苦しむかのように激しく痙攣している。これだけは何回みても気味が悪い…)
肉屋「はいよ。100gの魔獣肉。」
アルト「ありがとう」
(生暖かい…命の熱が籠ってるかのような熱量がある。アルトはそれをカバンにしまい肉屋を後にした。)
アルト「そういえば、この近くに教会があったな …」
(世界単位でいくつかの宗教が信仰されており、どこの村にも教会が存在している。アルトは
無神論者であり、なんの教会かは興味がない。)
<都合の良い時は、神に祈るくせにね!>
(黙れ。消えろ)
(そんな中、何やら言い争いが聞こえる。)
シスター「魔獣をまた殺したのですか?命の尊さが、なぜ分からないのです!」
自警団「なんだと?じゃあ、お前が魔獣を説得しろ。ケモノに殺されても守らねぇからな!」
アルト「またか…」
(シスターの中には主張として菜食主義と動物愛護を語るものがおり、それらの中には魔獣も
自然動物の1種として排除することを望まないものがいる。バカな話だ、放置すれば人類の生活圏が失われるだけなのに、村を襲うケモノも愛しなさいというのだろうか?)
シスター「人は傲慢です。人は自然に生かされてるに過ぎません。なぜ、種族が違うだけで排除しようとするのですか?」
(簡単な話だ。″対話が不可能″だからだ。
在り方が違う。動物はそんなことすら考えていない。人の方がよほど醜く見える。)
自警団「あのな。放置するとどうなるかはお前も知ってるだろ?危険なんだよ。俺は俺の家族と住民を守るために必要なことをしている。」
シスター「私は望んでいません!」
アルト「はぁ…」
(ああ…うるさい……みんな死んでしまえばいいのに…)
【空が赤く染まった気がした。
…………ドォォォォォォォンッ!!!(爆発音)】
【耳をつんざくかのような巨大な爆発音と衝撃が轟く。】
シスター「きゃっ…!」
自警団「な…なんだ!?」
アルト「首都が燃えている…」
(アルトには見えた。150km先の首都が煙と炎に包まれる光景が)
【その直後、空に魔法によって大画面の映像が映し出される。白髪の男と背後に4人の男が映っている。そして、彼の声が空気を伝わって脳に響く。】
『世界へ”宣告”する。貴様らに生きる″価値″は無い。我々、パンドラが”世界”を全て頂く。
死ぬか従うか選ぶといい。従うのなら見せてやろう。新しい世界を』
【アルトが願った非日常は、皮肉にも最悪な形となって叶うことになる。世界の終わりとして】




