第1話 神龍のインフレと計算高い女
西の都から、遥か彼方の荒野にて。
空悟孫は、手元の「ドラゴンレーダー(月額課金制アプリ)」を見て、絶望していた。
「……いや、多いわ!!!」
誰もいない荒野に、空虚なツッコミが響き渡る。
画面を見てほしい。 黄色い光の点が、画面を埋め尽くしている。
もはやレーダーではない。 密集したイクラの軍艦巻きだ。
「昔はじっちゃんが『7つで願いが叶う』って言ってたじゃん!? なんで11倍になってんの!? インフレにも程があるだろ!!」
悟孫は、背中に背負っていた巨大な風呂敷を、地面にドサァッ……と下ろした。
重い。 殺人的に重い。
すでにこの中には、苦労して集めた15個の龍の玉が入っている。 一つひとつが文鎮のような密度を持っており、15個も集まれば立派な筋トレ器具だ。
「腰が……俺の腰がもうバキバキだぞ……」
なぜ、こんなことになったのか。 きっかけは、昨日、神殿で聞いた老神の言葉だった。
『いやぁ、最近は不景気でのぅ。コスト削減とリスク分散のために、玉の数を増やして、一つ一つの願いを薄めることにしたんじゃ』
「願いをカルピスみたいに言うなよ!!」
思わず神様にタメ口でキレたのも無理はない。
しかも、この77個を集めないと、世界中の天候が『ずっと梅雨』になるという。 洗濯物が永遠に乾かず、世界が「生乾き臭」に包まれる……。 そんな地味すぎる終末を防ぐため、彼は立ち上がったのだ。
「おーい! 悟孫くーん!」
ブォォォォン……!
遠くから、派手なピンク色のホバーバイクに乗って、一人の少女がやってきた。 自称・天才発明家の数子だ。
彼女はバイクを急停車させると、ヘルメットを脱いで長い黒髪をなびかせた。
「ちょっと! 何サボってんのよ。私の計算だと、このペースじゃ77個集まるまでに君、四十肩になっちゃうわよ?」
「……数子、もう嫌だ。あと62個もあるんだぞ?」
「何言ってるの。全部集めたら、神龍が出てきて『豪華景品』がもらえるかもしれないじゃない!」
「景品て。商店街のガラガラじゃないんだぞ」
「いいから行くわよ! 次は、この崖の下にある『超・巨大アリ地獄』の中よ!」
「アリ地獄……。もう嫌な予感しかしない……」
悟孫は泣きながら、背中の「如意棒」を構えた。
77個の玉を巡る、とてつもなく長く、湿気との戦いが約束された旅は、まだ始まったばかりである。
(つづく!)
後書き(担当:ターベジ)
……ふん、情けない奴だ。たかだか77個程度の玉を運ぶだけで腰を痛めるとは、エリート戦士の面汚しめ。
貴様ら地球のゴミどもに教えてやる。
俺様こそが全宇宙で最も誇り高き、野菜……いや、食卓の王、ターベジ様だ!
いいか、空悟孫。貴様が腰をさすりながらちんたら集めている間に、俺様はこの「スカウター(最新のブルーライトカット仕様)」を使って、効率よく残りの玉をかき集めてやるからな。
77個すべて揃った時、叶える願いはただ一つ……「俺様の身長をあと5センチ伸ばすこと」だ!!
くっ……おい貴様(作者)、なぜ俺の出番がまだなんだ!? こんな後書きなどではなく、早く本編に出せ! 準備はできているんだ、戦闘服のクリーニングも済ませたぞ!
次は「アリ地獄」とかいうセコい場所での戦いらしいが、せいぜい生乾きの臭いに震えて待っていろ!




