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未練たらたら悪役令嬢は返り咲きたい~略奪だなんて言わせませんわ!~  作者: きさきなのは


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6/8

6.対決ですわ!!!

夜のロイス邸を前に、二人は高い庭の塀の前へ立った。

月光に照らされた石壁は、思った以上に高い。


「……え、ええと。ここを越えるんですのよね……?」

シャルムは塀を見上げ、決意を固めて助走し――



よじ……よじ……

ぺたっ。



「……登れませんわ!!」

やはり無理だった。


クロードは静かに目を閉じ、深く息を吐く。


「……お嬢様。せめて足場くらい探してください」


「探しましたわ!でも無いんですの!」


「はあ……仕方ないですね」


クロードはシャルムの腰に手を回し、ひょいと持ち上げた。


「きゃっ!ちょ、ちょっとクロード!?」


「静かに。忍び込みですから」


「乙女をこう、無遠慮に持ち上げるのはどうかと思いますわ!」


「落ちたらもっと尊厳がなくなりますよ」


その淡々とした声に、イヤーカフからスピリタスの艶っぽい声が割り込んだ。

「まあまあ、イチャついちゃってぇ。私のことは振ったくせにこの浮気者ぉ♡」




「「黙ってなさい魔道具屋!!!」」




シャルムもクロードも同時に怒鳴った。


「うふふ、息ぴったり~♡」

スピリタスは完全に楽しんでいる。


そのままクロードは軽い身のこなしで塀を越え、音もなく地面に着地した。


「……降ろしてくださってよくてよ」


「まだ警戒中です。動かないでください」


「動いてませんわ!」


シャルムの小声の抗議が夜気に溶けていった。





屋敷裏の廊下を抜け、鏡の光を頼りに奥へと進む。


「ふふ、いい気迫ねぇ」

スピリタスが囁く声は愉悦に満ちている。


「愛に狂う女の子って、本当に綺麗……♡」


「黙りなさい!今は真剣なんですの!」



鏡の光に導かれた先――

施錠された部屋。

扉を開けた瞬間、冷たい風が吹き抜ける。円形に刻まれた魔法陣。

その中心で、黒い靄に囚われたロイスの母と妹。


「ん~ちょっとストップ。それ、呪詛♡ 踏んじゃ駄目よ」


クロードが険しくつぶやく。

「……“人質の呪い”ですね。家族を縛って、ロイス様の心を折る気だったようです」



その瞬間――

カツ、カツ、カツ、とヒールの音。


扉が優雅に開かれた。


「あらあ、こんな時間にお客様だなんて」


ルゼリア公爵令嬢。 豪奢なドレスの裾を揺らし、まるで誰より美しいと信じて疑わぬような笑みを浮かべて。


「まあ、泥棒みたいに忍び込んで……どんな言い訳をしてくれるのかしら?」


ルゼリアはそのままシャルムを通り過ぎ、クロードを真正面から見つめる。


「久しぶりね。クロード」


唐突な指名に、クロードの肩がびくりと跳ねた。

普段は岩のように動じない男の、珍しいほど露骨な反応だった。


「護衛としても、幼なじみとしても……“私だけ”を見ていたはずなのに」


クロードの喉が、ごくりと鳴った。


何か言おうとして口が動くが、言葉が出ない。


「……っ、それは……その……」


「なのに急に、シャルムに靡いた。理由を聞いても、あなた何にも答えてくれなかったじゃない」


クロードは必死で口を開いた。

「ち、違……っ……! 誤解、で……っ。あれは……俺は……!」


しかし、そこから先が続かない。

大きな体は強いのに、言葉だけが不器用に震えている。


ルゼリアが小さく嘲った。

「ほら、何も言えない。やっぱり“奪われた”んじゃない。わたくしから、シャルムに」


クロードの指が、悔しげに震える。

否定したいのに、上手く言葉にできない――そんな息づかい。


見かねたシャルムが一歩前へ出た。

「クロード。無理に答えなくていいんですの。あなたの誠意は、わたくしが一番わかっていますわ」


クロードは、助けられたように息を吐く。

「……す、すみません……お嬢様……」


ルゼリアがきつく目を細めた。

「ね? やっぱり“わたくしのもの”ではなくなったのよ。認めないけれど」




「……なぜここに来たんだ、シャルム」


「ロイス様!!」


 彼は冷たく背を向ける。

 けれど、その肩は小さく震えていた。


「何を見た?」


「全部ですわ。―あなたが、家族を守るために“嫌いだ”と嘘をついたことも」


 ロイスは顔を歪め、苦笑した。

「……そうか。なら、帰ってくれ。もう関わるな」


「関わりますわ!!」


シャルムの声が凛として響いた。涙がにじむのを堪えながら、一歩前へ。



「だってあなたのこと、あきらめられませんもの!大好きなんですもの!そう簡単に離れることが出来ると思わないでくださいましーーー!!」



 彼女の叫びに、ロイスがはっと息を呑む。

 呪詛の黒い靄が、まるでそれに呼応するようにうねった。


「クロード!!」

「了解!」



 従者が懐から短剣を抜き、魔法陣の外縁を切り裂く。


「……逃げてもいいんですの。弱くてもいいんですの。でも……嘘の言葉で、あなた自身を傷つけないでくださいませ。

 わたくしは、そんなあなたを放っておけませんわ。」


その静かな強さを帯びた声に、ロイスの眉がかすかに揺れる。

冷たく閉ざしたはずの瞳が、苦しげに揺らいだ。


同時に、スピリタスの声がイヤーカフから響いた。


「さぁ、行くわよ。あなたの“未練”、本気で燃やして――」


 シャルムが鏡を掲げる。

 鏡面に映るのは、ロイスと彼の家族、そして自分。

 光が弾け、黒い靄を包み込んだ。


 スピリタスの魔力とシャルムの想いが共鳴し、

 呪詛はひとつ、またひとつと剥がれ落ちていく。


「シャルム……!」


 ロイスが駆け寄り、彼女を抱きとめた。

 鏡が砕け、光の粒が宙に散る。


その光は魔法陣を越え、ルゼリアのドレスの裾をかすめた。


「……え?」


次の瞬間。




バチッ!!!




呪詛の黒い糸が、反射的に跳ね返った。

鏡の力が“本来の施術者”を特定し、呪いを戻したのだ。


「きゃっ……!? な、なにこれ……放しなさい!!」


黒い靄がルゼリアにまとわりつき、足に重く絡みつく。


スピリタスが鼻で笑う。

「愛を踏みにじって使った呪いってね、跳ね返るの。施術者の“執着”に反応するのよ。おめでとう♡」


「いや……いやよ!!わ、わたくしは悪くない!!シャルムが……シャルムが全部奪ったのよ!!」


ロイスが低くつぶやいた。


「違う。奪われたんじゃない。……お前が手放したんだ、ルゼリア」


黒い靄がさらに濃くなり、彼女の足元を縫い留めるように広がる。

シャルムが鏡を押し出す。



「これで終わりですわ。

 ――あなたが撒いた呪いは、あなたが受け取るべきですわ」



光が爆ぜ、靄がルゼリアの動きを完全に封じた。

呪いは彼女の“執着心”へと結びつき、逃げられない束縛へと変わる。

ルゼリアは震えながら叫んだ。


「どうしてよ!!わたくしはただ……全部取り戻したかっただけなのに……!」



シャルムは静かに答えた。

「他人が不幸になることを願うなら……その願いは、必ず自分に戻りますわ」


部屋は静寂に沈み、呪詛だけが淡い光を残して消えていった。


魔法陣の光が完全に消え、黒い靄はルゼリアの足元で、まるで鎖のようにうねっていた。

シャルムがロイスの母と妹を支え、クロードが周囲を警戒する。




そのとき、廊下の奥から複数の足音が響く。

「ロイス殿!」

王宮魔導師団の紋章をつけたローブ姿の男たちが駆け込み、魔法陣を確認すると表情を強張らせた。


「……これは重罪に当たります。人間を呪詛に縛るなど、王国法で厳しく禁じられている行為だ」


ルゼリアは青ざめた。

「ま、待って……違うのよ、これは……っ」


魔導師団長は淡々と告げる。

「ルゼリア公爵令嬢。あなたには“ロイス家への呪詛加害”の容疑がかかっています。

今、この場で保護――いえ、拘束させていただきます」


クロードが小さくつぶやく。

「……公爵家とて、闇呪術に手を出せば庇いきれませんからね」


ルゼリアの瞳に、焦りよりも濃い絶望が広がる。



「いや……いやよ……!わたくしは、公爵家の娘よ!?どうして……どうしてこんな――」



シャルムはゆっくりと息を整え、ルゼリアに歩み寄った。


「わたくし、あなたを憎んではいませんわ。

 でも――人を傷つければ、それなりの責任はありますでしょう?」


「……ッ!」


ルゼリアは言葉を失い、ただ黒い靄に絡め取られたまま、魔導師に連れられていく。

その背中は、強く震えていた。



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