5.
――婚約破棄から数日。
ロイス・ルーデンベルクは書斎で机に肘をつき、無意味にペンを回していた。
「あーー...終わ、っちまった...」
呟く声は、夜の静寂に吸い込まれていく。
家族を守るため、嘘をついた。
「嫌いだ」と言った。
だが、胸の奥では、どうしても彼女を忘れられない。
そして、視界の端には――新しい婚約者、ルゼリア公爵家の令嬢が立っていた。
「ロイス様、最近お元気そうで何よりですわ」
微笑むルゼリアは、まるで春風のように穏やかで、華やかで。
(……お前じゃない。シャルムの代わりには、絶対になれない)
「―それもこれも全部、シャルム様が悪いのよ。
私の大切なクロードまで全部奪っちゃったんだから」
ロイスは内心激しく動揺する。
「だからね、私も決めたの。あの子の大切なものを一つずつ奪っていくって」
ルゼリアはにこりと笑い、凛とした瞳でロイスを見つめる。
「ねえ、ロイス様。これからいーーっぱい幸せな時間を過ごしましょうね。」
その笑顔を見た途端、黒い靄が立ち上がり、真綿で首を絞められているように意識が遠のいていく。
「ああ、いけない。またあのお方に怒られちゃうわね」




