笑え異世界
「なかなか進まないな、いつもここは。」
と前に居る人たちの会話が聞こえてきた。
すると大きな馬車が竜人たちの並んでいた列の横を通り過ぎて、まるで優先レーンのように
通って行った。
「商人は待たなくていいよなー。」
「まあ、それだけの金は払わされているからしょうがないさ。」
と前に並んでいる人の会話が聞こえてきた。
この街に入るにはどうやらお金を支払って入る必要があるようであった。
すると今度は、ボロボロの衣服をまとった人間の夫婦と子供二人の親子四人らしき人たちが、
泣く子をあやしながら列の反対側へとぼとぼと歩いて来るのが見えた。
「かわいそうに。お金無かったんだな。」
「まだましなほうさ、こないだ聞いた話では、未婚の女性が着衣をボロボロにされて
追い返されたって話も聞いたし、中で何をされたんだか。
金の無い者には容赦ないし、領主様も見て見ぬ振りだから。」
という会話が聞こえてきた。
竜人はその憐れな姿を見て、そんな会話が平気で成立してしまう、この世界の現状を初めて
目にしたような感覚に陥り、怒り口調でリーダーに質問していた。
「リーダー、この街に入るのにお金を取るんですか。」
と竜人は質問していた。
「ああ、そうだ心配するな、お前の分は俺が立て替えておいてやるから。」
と優しい口調でリーダーは竜人に答えた。
「そうじゃなくて、なんであんな貧しそうな人が入れないんです。おかしくないですか!」
と竜人はさらにヒートアップしてリーダーに噛みついた。
「お金を事前に準備できない者は、町に入れず、追い返されるか、男の欲望の餌食に
されてしまうということはこの街では当たり前のことで、泣きながら着衣の乱れを
直しながら入国していく女性の姿が何度か目撃されたということもよく聞く話だからな。」
とリーダーは竜人が何を怒っているのかすら分からないようだった。
この世界ではそんな理不尽を誰も不思議に思わず、立ち向かうことすら考えない世界
のようであった。
悪徳審査官は、自分の懐を肥やすために、通行税以上の賄賂を要求したり、男の欲望を
満たすことによって、人を入れたり入れなかったりで、ひどい悪事を働いていたのだった。
そうこうしている内に、列も徐々に進んで行き、竜人たち冒険者の順番迄あと少しとなった。
「おい、帰れって言ってるだろ!しつこいぞ!」
と門番の男が三毛猫顔の獣人母親と小さな女の子が無理やり中に入ろうとしているのを
止めて追い返しているのが目についた。
流れとしては、門の右側にある審査室に順番に入って、街に入る許可証をもらった者だけが
街の中に入れるようで、その親子はお金を持っていなかったせいで街には入ることが出来ず
追い返されているのであった。
「おい、もう諦めて帰りなさい。
これ以上抵抗すると、牢屋に入ることになるぞ。」
と強い口調で親子を脅した。
「この子がもう食べる者も無いんです。
中の食堂で私が稼いでこの子を食べさせるしか無いんです。」
とそれでも三毛猫の顔の母親は必死に門番に食らいついていた。
「あー、もう見てらんねえわ。」
と竜人は周りにも聞こえる声を出しながら、揉めている親子と門番の方に近づいて行った。
咄嗟の竜人の行動に、冒険者たちも引き止めることができなかった。
「女神様、頼むよ、俺の魔法本当に発動するんだよな。」
と誰に言うでもなく、大声で叫んだ。
「笑え!」
と一言竜人は声を発すると、魔法を見たことがある者なら分かるような何かの魔方陣が
大きく竜人の頭上に現れたかと思うと、その魔方陣は、例の揉めている門番の頭の中に
収束されて入って行くのが分かった。
その門番は一瞬ピタッと動きを止めて何かほんの一瞬雷にでも撃たれたかのように
ビビッとなって、急に人が変わったかのような、おとなしめの口調で目の前の親子に微笑んだ。
「そうだよな、通っていいぞ。」
と門番はさらっと親子を街の中に通した。
竜人は親子が頭を何度も門番の方に下げながら街の中に入って行くのを見送った。
「女神様、やるじゃん。」
と竜人は小声でつぶやくと、握った右手の拳を上下に揺さぶって、小さくガッツポーズを取った。
その様子を後ろで見ていた冒険者たちのうち、魔法を得意としていた、サーベルとポンが
目を丸くして竜人の方を見ていたが、しばらくして竜人に話しかけた。
「竜人様、あなたはどこかの高名な大魔法使い様に違いありません。」
と先にサーベルが口を開いた。
それを聞いたリーダーが、
「ああ、そうだな、確かにあんな魔方陣は俺も見たこともないな。」
と竜人の肩をポンっと叩いた。
「俺は記憶がないんで。。。」
と竜人は仲間に微笑んで見せた。
サーベルの態度が一変して非常に丁寧になったのに対して、リーダーは前のままの態度で
接してくれたので、それもおかしくて竜人につられてみんなも一緒に笑った。
「まだ俺にはやるべきことがあるようなので。」
というと、冒険者たちの順番が来たので、審査室の中にみんなと一緒に入った。
審査官は、太っていた。
脂ぎっていた。
こいつだな私腹を肥やしている元凶は、と竜人にはすぐに分かった。
「お前たち、順番に職業と名前を言え。」
とその審査官は偉そうにみんなに言った。
「冒険者のリーダーだ。」
「冒険者のサーベルです。」
「冒険者のポンです。」
「冒険者のハチです。」
「リュウトです。」
と各自が答えた。
すると、審査官はぴくッと眉を顰めると、
「きさま、職業を言っとらんだろが、ぶち込まれたいのか!」
と大声で怒鳴り散らして来た。
「審査官殿、すみません、こいつは記憶喪失でしてこれから冒険者ギルドに連れていく
ところなのです。ご容赦を、金は俺らが立て替えますんで。」
とポンがヘラヘラご機嫌取りの役を買って前に出てきた。
「記憶喪失だと!そんな奴を街に入れられるか、たわけ者が!」
と審査官はさらに大声で叫んだ。
「あー、めんどくさい、お前も、
『笑え!』」
と竜人は、一瞬で審査官に先ほどと同じ魔方陣をぶつけた。
するとその審査官も先ほどの門番と同じようなピクピクッと雷に打たれたかのような
リアクションを取って、次の瞬間には表情が変わった。
「そうか、リュウトとやら、苦労しておるようだの。
いろいろとお金も入用であろうから、税は無しでよいぞ。
さあ、みんなようこそ<ハヌラブシの街>へ。」
と言うと、許可証にポンと大きなハンコを押すと全員分をリーダーに手渡して街に入ることが出来た。
「やったなー。
お金取られなかったなあ。」
「ああ、初めてだな。」
と冒険者たちは喜んだ。
は冒険者たちから最大限の賛辞を受けることとなったのであった。
もしよろしければ、ブックマークや評価などで応援お願いいたします。




