異世界転生
「ワッタヘル!」と叫んだ帰国子女の竜人は、日本で暮らす普通の高校生だった。
多くの欧米人の中で育った環境のせいなのか、生来の性格なのか、思ったことはすぐに言葉に
しないと気が済まない竜人は、本当に現状に不満だらけだった。
日本語の習得のためにも極力日本語で話すことを心掛けていたのだが、咄嗟の感情などを
無意識に口にするときは9割以上の確率で英語が出てしまうのだった。
竜人は人一倍正義感が強かったためか、今の日本のいや世界のいろんな現状が不満だった。
よく中二病とか言われたのだが、それは高校生になった今でも治る病では無かった。
「シット!」とテレビで朝のニュースを見ていた竜人は叫んだ。
北の大国が自国領土を広げたいために近隣国に戦争を仕掛けたのだった。
「どうして人間の科学技術がこんなに発展しても戦争は無くならないんだ。シット!ファック!」
竜人はいつものように朝のニュースを見て怒っていた。
「そんなこと言ったってしょうがないじゃない。戦争は歴史上一度も無くなったことが
無いんだから、それが人間の性なのよ。怒ってばかりいても何も変わんないんだから、
ご飯食べたらさっさと学校に行きなさい。」
と食卓で一緒にテレビを見ていた母親もまたかと言う様子で落ち着いた呆れ声で答えた。
「オーマイグッドネス!、もうこんな時間かあ、それじゃー行って来まーす。」
と竜人は右手でサンドイッチを掴むと、左手で母親に行ってきますの手を振って、
玄関で靴をつっかけのように履いたまま駅に向かって走った。
竜人はいつも思っていた。この世界は糞だ。
今もどこかで戦争によって殺し合いをしている大人たち。
戦争や飢餓で飢えている子供や大人たち。
学校や職場でいじめを苦に自殺する子供や大人たち。
人種差別によって人間の尊厳が奪われている人たち。
性的虐待によって蹂躙されて尊厳が奪われている子供や大人たち。
詐欺や犯罪によって他人から財産や生命や自由を奪われる者たち。
社畜になって自由や時間や本来受けるべき財産を奪われる者たち。
本当に周りを見れば糞だらけ。
世界が糞なのか?人間が糞なのか?俺が糞なだけなのか?
駅に走って行く途中でもまた嫌な物を見てしまったのだった。
地元の不良中学生グループが同じ学校の制服を着た中学生をいじめていたのだった。
いじめられていた子は典型的ないじめられっ子のようで、ぽっちゃりとしていて運動音痴
っぽい出で立ちで、黒縁のメガネをかけていて大人しそうな子だった。
何人もの大人たちが見て見ぬ振りをして通り過ぎて行った。
「警察だー。警察が来たー。」
と竜人は咄嗟に叫んだ。
「やべー!逃げろー!」
と不良グループはクモの子を散らすように散会していった。
「シット!何でみんな見て振りなんだ。」
と周りに聞こえる位の大きさの声で竜人は大人たちを罵った。
いじめられていた中学生はぽつんと一人残されていたが、もう大丈夫そうだったので
特に声もかけずにそっとしておいた。
竜人は遅刻せんとばかりに走って駅に向かっていたのだったが、もう朝から何か糞なこと
続きで、いろんなことがどうでも良くなっていたので歩いて駅に向かっていた。
その道すがらも、いつものように見るもの全てに不満をぶちまけていた竜人がとうとう
やってはいけない領域に足を踏み込んだ。
この世の神を罵る言葉を何度も口走ったのだった。
「ファッキン!ゴッ〇、糞ー糞ー糞ー、ゴッ〇!ダムンイット!」
と竜人は最大限に神様を大声で罵った。
「ピカッ、ゴーゴー、ズドーン!」と何かが落ちた。
辺り一面には雲一つない晴天だった。
なのに突然の稲妻が竜人の頭上で光ったと思ったら、
その稲妻は竜人の頭から全身を駆け巡り、竜人は何万℃の高熱で真っ黒焦げになって
地面に倒れていた。
神様は全知全能であったが、決して原理原則から外れることはやらなかった、そう普段なら。
しかし、この時はたまたま宇宙の神々が地球の神の神域、つまり地球の見学に集まっていたのだった。
「なんて無慈悲なこと。」とある神様が呟いた。
ある世界の神様が、地球の神様の所業を見て非難していた。
「コッホン、私もいつもならいくら罵られようが罵倒されようが、無邪気な子供たちと
許したぞい。
じゃが、本日のような全宇宙の神々が集まるところで、こうもはっきりと罵られてはな、
朕も全く見て見ぬ振りも出来んじゃて。
朕の世界には不要じゃよ。
あやつを誕生させたのは間違いだったんじゃ。」
と地球の神は他の神々に理解を求めた。
「まあ、かわいそうなこと。彼の言っていたことや、主張の内容は正義感に溢れたものでしたよ。」
とまた別の神様が呟いた。
「私もそう思います。たしかに。」
とその他の神々も口々に呟いた。
「なら、あなたの世界で役にたってもらいなされば?」
と地球の神は半ば自棄になってそれらの神々に提起したのだった。
「よし、じゃわらわが頂くわよ。」
とある世界の女神が手をかざして神々の注目を集めた。
「竜人、竜人、聞いておるのじゃろ。うちの世界でお主の理想をかなえるのじゃ。」
と魂になって神々の神域に来ていた竜人が女神に呼び寄せられた。
「お主には、特別な魔法を授けるからの。外見は普通の人間だから苦労もするじゃろうが。
お主の理想の世界とやらをわらわらに見せてくれたもうぞ。」
と優しそうなお顔をした女神様が竜人の魂に話しかけた。
「それはどんな魔法なのでしょう。」
と竜人は女神様に問いかけた。
「詳しくは神々の御業じゃから話せんがの。
神々は生物を創造する際に設計図を書くんじゃがな。
設計図はお主ら人間がとうに見つけよったDNA でできておるのじゃ。
まあ簡単に言えば、、生物たちの三大欲求とは何じゃ?」
と女神様は竜人に逆に質問をしてきた。
「え、ハイ、食欲、性欲、睡眠欲かと。」
と竜人は答えた。
「お、よく勉強しておるの。じゃDNA配列は知っておるのか?」
と女神様はさらに突っ込んだ質問をして来た。
「あ、いえ、DNAという言葉は生物の授業で習ったのですが、配列となるとそこまでは習ってません。」と竜人は見栄を張らずに正直に答えた。
「まあ良いわ。魔法はイメージすれば塩基配列は変化させるからの。
アデニン(A)グアニン(G)シトシン(C)チミン(T)の配列はイメージすれば
そのように自動的に組み替えることができるから安心せよ。」
と女神は科学者のような言葉で話し出したので竜人にはちんぷんかんぷんに思えた。
「そうそう、わらわはお主の地球での不満を全部先ほどまで聞いておったのじゃが、
わらわも同意見じゃからして、そのような世界をわらわの星で実現してもらいたいのじゃ。
しかしながら、神々は自分たちの作った世界を自分の都合一つで全滅させることはできぬ
からの。お主にこれ一つあれば世界を変えられるやも、変えられないやも知れんが、
魔法をまずは授けるのじゃ。期待しておるぞな。」
と女神は笑顔でぺらぺらと竜人に話した。
「えーっと、ところで具体的にはその一つの魔法とはどんな魔法なのでしょうか?」
と頭の上に?がいっぱいの竜人は臆さず女神様に質問した。
「そうじゃ、そうじゃ、肝心なことを話忘れておったわい、生物には自己防衛本能が
備わっておるのは分かるな。
それは反射反応として万物に備えるのがわらわら神々の常識中の常識なんじゃが、
これを逆転させる魔法が、DNA の配列変換で自己防衛を
他人優先へ逆転させる魔法なのじゃ。
お主の理想を実現させるにはこれが一番有益な魔法とわらわは判断したからの。
励むのじゃぞ。」
と満面の笑顔で女神様は竜人に託したのだった。
竜人は思わず、
「What a way!」
と叫んだまましばらく固まってしまった。
「「わらえ」か、言い響きじゃの。
「わらえ」なら詠唱も短くて楽じゃから、そう呼ぶとしよう。
笑え魔法じゃ。」
と女神様は竜人に与えた魔法の名前を自分で決めて満足したようだった。
竜人も自分なりに考えてみた。
それは、自己中心的ベクトルを他人優先的ベクトルへの変換、それは精神操作魔法では
無かった。
もっと根源を操作する魔法だった。
もっと根本的、全ての生き物は創造主たる神が設計図を書き創造された。
人間だけでなく、犬もコウモリも昆虫も全ての設計図は神が作った。
しかし竜人の魔法はその設計図DNA の一部のみを書き換える魔法だった。
「わらえ魔法」か、笑顔が世界を変える。
そんな未来を夢見る竜人だった。
「竜人よ、意識も名前もそのままでわらわの世界へ送るからの。
準備してある肉体にお主の魂が一体化する時に、ちーとばかり痛いが我慢するんじゃぞ。
またお主とは会おうぞ。」
と女神様は言い残して竜人の意識から遠ざかって行った。
次の瞬間、竜人は痛みで大声を上げながら女神様の世界に目覚めたのであった。
それは異世界への転生であった。
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