9話 裏界
9話です。
1章 獣変黙示録編あと一話で完結です。
よろしくお願いします。
「ぼ、僕が次期天使神王候補って?どういうこと⁉僕は人間だ神なんかじゃない⁉それにここはどこ⁉」
空は困惑していた。
それもそうだろう。いきなり自分は神の子で次期天使神王候補なんて言われて冷静になれる方がどうかしている。
「ああ、そのお顔!たまりませんわ!」
セフィエルは興奮しながら言う。
「と……とにかく僕は帰らなきゃいけないんだ。」
空が叫ぶように言う。
「そうですわね。順を追って説明いたしますわ。」
セフィエルが落ち着きを取り戻し、話し始める。
「ここは裏界、わたくしの♡空様は神であり次期天使神王候補ですわ。以上ですわ。」
とセフィエルは締めくくる。
「え、ちょっと待って!? 説明、雑すぎない!?」
空は思わず突っ込みを入れてしまう。
「ああ叱責される空様もたまりませんわ❣」
その瞬間、セフィエルの背中から白く輝く羽がふわりと現れ、軽やかに宙へ舞い上がる。
「これで信じていただけますかしら?」
セフィエルは空中で微笑んだ。空は口を開けたまま言葉を失っていたが、やがてようやく声を絞り出す。
「わかった、わかったから、あのさ……羽仕舞ってもらっていいかな……あと服着てくれないかな…」
「あら、ごめんなさい。つい興奮してしまいましたわ♡」
セフィエルは羽をたたみ、ふわりと床に舞い戻ると、優雅に腰を下ろす。そして空を見て言った。
「これで、ここがどこか理解できましたよね?」
「……裏界って言ってたね。つまり僕は死んだってこと?」
空はおそるおそる尋ねる。
するとセフィエルは首を横に振りながら、
「それは違いますわ。空様は死んでいませんし、ここは死後の世界でもございませんわ。ここは裏界という表世界と対をなす存在。紙の表裏のようなものですわ。だからといって表世界、わたくしたちは現世と呼んでおりますが現世と裏界は一心同体ではなく別物なのですわ。」
「ちゃんと説明できるなら最初からしてよ…」
と空は呆れ顔で言った。
「つまり簡単に言えば、ここは天国でも地獄でもない“現世の裏側の世界”ってことでいいの?」
「その認識で間違いないですわ。流石、空様の理解の速さに感服いたしましたわ♡」
セフィエルは拍手しながらうっとりとした目で空を見つめる。
「それで、僕が神であり次期天使神王候補ってどういうこと?100歩譲って神とか天使とかがいるのは信じよう。何度も言うけど僕は人間だ。」
空は疑念の目をセフィエルに向ける。
「かつて、今の“現世”の前には、“旧世”と呼ばれる世界が存在しておりました。その旧世で、ソラ・バーリエル・テトラト様は旧世が滅びた時にお亡くなりになられました。あなた様はその生まれ変わりなのですわ。」
セフィエルは真っ直ぐに空の目を見つめる。
「僕が僕の生まれ変わり……? ややこしいな」
空は考え込む。セフィエルは相変わらず空をまじまじと見つめている。
「セフィエルさん」
「あゝ❣空様がわたくしの名を❣❣わたくしのことはセフィエルとお呼びください。」
「…セフィエル」
「はい❣」
「じゃあ、その話が本当なら、セフィエルは一体何歳なんだ?」
「乙女に年齢を聞くだなんてひどいですわ❣でもその勇気❣愛おしい♡勇ましい♡疼きますわ❣」
「僕の質問に答えてよ。」
セフィエルのテンションに空はうんざりしながらも突っ込む。
「失礼いたしましたわ。裏界の生き物に明確な年齢という概念がございませんわ。でも、旧世が滅んだ時に肉体の再構築がありましたので肉体年齢は人間でいうところの30歳でしょうか…。皆、肉体年齢は違うと思いますわ。わたくしはありませんでしたけれど精神年齢も再構築されたときの肉体年齢に引っ張られているものもいますわ。実年齢は現世の数え方で旧世を含め約100億歳といったところだと思いますわ。」
「ひゃ、100億歳って……」
空は絶句するしかなかった。
「そ、そうだ! イリア! イリアのことは知ってるのか? イリアは自分が何者なのか記憶が無いんだ。長く生きているセフィエルなら何か知らないか?」
空はイリアのことを思い出し、セフィエルに尋ねる。
(あの時の頭痛と共に見えた景色、あれがもし旧世の僕の記憶だとしたら、あのイリアに似た子がもしイリア本人だとしたら、セフィエルなら何か知ってるはず。)
「それはあの少女のことですか?それともイリア・イリシアス様のことでございますか?」
「知ってるのか?」
空が身を乗り出す。
「イリア・イリシアス様。旧世において、世界を『書庫』として管理していた存在──神をも超える存在でしたわ。ですが旧世が滅びたと同時にその命を失われましたわ。ですので空様の言っているイリアという少女についてはわかりませんわ。」
「でも荒暫ってやつはイリアのことをイリア・イリシアスって呼んでた。」
「容姿が酷似していましたから見間違ったのではないかしら。あの獣人も旧世から生きている存在ですから。」
「そうか…」
空は力なくつぶやく。
(セフィエルの言うことはおそらく本当だろう。だとすればイリアが何者なのか、それはまだわからないってことか)
「本題に移ろう。僕はどうしたらいい?次期天使神王候補として生きればいいのか?それともまた別の何かか?」
空が質問する。
「わたくしとしては次期天使神王候補として力を取り戻して欲しいですわ。ですけれど、決定権は空様にございます。わたくしは空様の意向に従いますわ。」
空はしばらく思案したあと、決意を込めて言った。
「わかった。セフィエルの提案にのるよ。でも……まずはイリアだ。イリアの記憶を取り戻す。それが優先だ。」
空が力強く宣言する。
「あゝなんて勇ましい♡素敵ですわ♡」
とセフィエルは悶えるのだった。
(この天使……ちょっと怖いな)
空は心の中で思ったのであった。
夜、1泊だけさせてもらうことにした空はぐっすりと眠っていた。
──だが、その夜。
「あゝ妬ましい憎たらしい恨ましい!あの泥棒猫…許さない。」
闇の中で誰かが、狂気の感情を噛み殺すように呟いていた。
空はまだ、これから始まる運命の歯車を知る由もなかった。
読んでいただきありがとうございました。
感想等あればよろしくお願いします。
していただければ作者のモチベーションに繋がります。
次回 10話 獣変黙示録終幕