6話 獣変黙示録 其之壱
6話です。
遅くなりました。
よろしくお願いします。
夜が訪れ、空とイリアは蒼の部屋を訪れていた。
「今日は一日、お疲れさま。」
穏やかな声で蒼が微笑む。
「いえ、蒼さんのおかげです。」
空が礼を述べると、イリアも続ける。
「本当に、ありがとうございます。」
「気にしないで。……それより、明日からは本格的な調査を始めるわ。そのためにも、今夜はしっかり休んでちょうだい。」
蒼が真剣な口調で言うと、空とイリアは頷いた。
「はい。」
「わかりました。」
二人は仮部屋へ戻り、静かに眠りについた。
■1月25日 名古屋・朝
翌日。猛の指揮のもと、捜査は本格的に始まった。
空・イリア・蒼の三人は、前日に襲撃された現場の調査を任されていた。一方、猛と律那は別の場所を調べている。
「被害者は平田誠也さん(54)と妻の多恵子さん(52)……。」
蒼が資料を見ながら語る。
「遺体はどちらも、頭部と胴体を切断されて即死だったようね。さらに、被害者の血液から微量のマナが検出された。けれど、そのマナは二人のものとは異なっていた……つまり、獣人族のマナよ。」
「ん? なんで被害者と違うマナだって分かるんですか?」
空が尋ねると、蒼は説明しようと口を開いた――その瞬間。
「やめて! 離してッ!」
――イリアの叫び声が空気を裂いた。
はっとして振り返る空。そこには、イリアを捕らえる獣人の姿があった。赤い体毛に覆われ、鋭い牙を覗かせる二足歩行の異形。
「イリア!」
空が駆け出そうとする――
「動くな。」
低く唸るような声で、獣人が制止する。
「動けば殺す。……動かなくても、殺すがな。」
全身に漂う殺気に、空の体が思わず強張る。
「……あなたの目的は?」
蒼が冷静に問いかける。
「答える義理はない。」
「なら、イリアを離せ!」
空が怒鳴る。
「断る。」
獣人の声は冷たく、どこまでも無慈悲だった。
「なら……力ずくで!」
蒼が身構える。その気迫に、獣人がニヤリと牙を見せた。
「人間ごときが……威勢がいいな。」
蒼は次の瞬間、獣人の死角へ回り込んで跳躍し、蹴りを叩き込む――が、それすらも片手で受け止められ、逆に投げ飛ばされる。
「っ……!」
蒼は地面に着地し、すぐに構え直す。
「フン……人間にしてはやるじゃないか。」
空も続けて〈霊豪〉で強化した拳を叩き込むが、それも防がれ、反撃の蹴りで吹き飛ばされた。
「ぐっ……!」
地面を転がる空を見て、イリアがもがく。
「空! 離してっ!」
暴れるイリアに、獣人が苛立ったように爪を振り上げる。
「騒ぐな。……今ここで死にたいか?」
「やめてえええ!」
イリアの叫び――
だが、次の瞬間。彼女の周囲に電撃が走り、獣人の腕をはじいた。
「……〈霊重〉の結界か。中々の防御力だな。」
と獣人が呟く。
「だが、“荒暫様”の前では、無意味だ。」
獣人は背後に異空間を開き、イリアを抱えたままそこへ入ろうとする。
「待て!」
空が即座に〈霊豪〉を足に集中し、猛然と走り出す。蒼の静止も聞かず、彼は閉じかけた異空間へと飛び込んだ――
■異空間内
「ここは……」
足元に広がるのは、踝まで浸かる血のように赤黒い液体。空気は獣臭と鉄臭で満ちている。見知らぬ異界の風景の中、イリアとあの獣人の姿は見当たらない。
だが代わりに、空を取り囲むように三体の獣人が姿を現す。
「イリアはどこだ!」
空が叫ぶ。
「死ぬお前には、知る意味もない。」
獣人が嘲るように言う。
「……なら、力ずくだッ!」
空は飛び出す。殴りかかってくる獣人の動きを見極め、鳩尾に強烈な一撃を叩き込む。
「ぐ……っ!」
一体目が崩れ落ちる。
だが、二体目の獣人が横から襲いかかる。その攻撃を寸前で避けた空は、距離を取りつつカウンターの蹴りを放つ。
「うぐぅっ……!」
命中。二体目も地面に倒れる。
最後の一体が怯え、じりじりと後ずさる。
空は容赦なく詰め寄り、その獣人を蹴り倒し、足で胸を押さえつけた。
「イリアをどこに連れて行った!」
「そ……それは言えない……!」
「なら死ね。」
空は怒りを込め、全体重をかけて踏みつける。
「が、あああああっっ!!」
悲鳴が響き、胸骨の砕ける音が生々しく空間に響く。
「イリアは……まだ何も知らないのに……!」
怒りに震える声で呟きながら、さらに力を込めて踏みつける。
「や、やめっ……」
――だが、願いは届かず、獣人は絶命した。
「チッ……死にやがって。とにかく、イリアを見つけないと……」
空が異空間の奥へと踏み出そうとしたそのとき。
「空!」
声が響いた。
即座に臨戦態勢をとる空。だが、現れた姿に目を見開く。
「隊長……? なぜここに……」
そこにいたのは、律那と調査中だったはずの天紋路猛だった。
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次回 獣変黙示録 其之弐