10話 獣変黙示録終幕
10話です。
メモリー=レコード第1章「獣変黙示録編」完結です。
よろしくお願いします。
現世時間:1月26日
「空様、ご朝食の準備が整いましたわ。」
とセフィエルが部屋に入ってきた。
「うん、今行くよ。」
空は伸びをして起き上がると部屋を出る。
「こちらですわ。」
とセフィエルが案内してくれる。案内された席に着き、朝食を食べる。
「美味い。これセフィエルが作ったの?」
「空様に喜んでいただけて光栄ですわ♡」
とセフィエルは嬉しそうに微笑む。
「ご馳走様。」
と空は手を合わす。
「お味はどうでしたか?」
セフィエルは空の隣に座り、顔を近付けて聞いてくる。
(近い……)
空は思わず後ずさるが、椅子の背もたれに阻まれる。
「あゝそのお顔たまりませんわ♡」
とセフィエルはうっとりした表情を浮かべる。
(怖いよ、この天使……)
内心思いながらも、
「……美味しかったよ。」
と素直に答える空。
「それはよかったですわ♡」
セフィエルは満面の笑みを浮かべる。
「それで、今日は何をすればいいんだ?セフィエル。」
と空が質問する。
「そうでございますわね……空様は【マナ】はご存じで?」
「ああ。蒼さんに【マナ】、【能力】、【特性】。この3つを教えてもらったよ。あと、マナ技術についても。」
「それであればお話は早いですわ。」
セフィエルは両手を合わせ、にっこりと微笑んだ。
「僕にも【能力】とか【特性】があるんだろ?」
「ありますわ。」
とセフィエルは答える。
「僕にはどんな【能力】と【特性】があるんだ?セフィエルなら知ってるんだろ?」
「そうですわね…今の空様が扱えるものは【能力】は【天使支配】、【特性】は【天使契約】【天使召喚】ですわ。」
「え?なんか凄そうなのが……」
空は少し期待に胸を膨らませる。
「まず《天使支配》は契約した天使の【能力】【特性】を使用することができますわ。次に《天使契約》これは、文字通り天使と契約ができますわ。契約の条件は天使によって違いますわ。そして《天使召喚》これも文字通り契約している天使を召喚することができますわ。まずは天使と契約することが大事ですわ。」
「へぇ……。そっちの方が落ち着いてくれてると助かるんだけどな……」
空は小声で呟いた。
「何か仰られましたか?」
セフィエルが敏感に反応する。
「い、いや、何でもないよ。」
空は慌てて誤魔化した。
「では早速契約してみましょうか?」
「そうだね、でも、どんな天使と契約すればいいんだ? マナもまだ完璧じゃないし、相性とかも気になるし。」
「それは心配ございませんわ!わたくしがお教えいたしますわ!」
まるで「第一号はわたくしですわ」と言わんばかりに胸を張るセフィエル。
「わ、わかったよ。じゃあ……お願いしようかな」
空は苦笑いしながら答える。
「空様、お手を。」
セフィエルが手を出す。空はそれに応じるように手を添える。すると、空とセフィエルは青白い光に包まれる。
(あたたかい……)
光は数秒で収まる。
「これで契約完了ですわ!」
セフィエルが嬉しそうに言う。
「え?もう終わりなの?こういうのってもっと長い呪文みたいなの詠唱するのかと思ってた。」
と空が驚く。
「そういうものですわ。これで空様はわたくしの【能力】と【特性】を自由に使用することができますわ。それに……《天使契約》の副効果として、空様のマナ総量が300万から1000万になりましたわ。」
とセフィエルは説明する。
「そんなに!?ちょっと多すぎない?」
空はマナ総量が増えたことに驚く。
「それだけのポテンシャルをお持ちだということですわ。」
セフィエルが得意げに微笑む。
「でも、それだけあってもまだ僕が使いこなせないんじゃ意味無いんだよな。」
と空は呟く。
「そこはこれからの努力次第ですわ! わたくしも全力でサポートいたしますわ!」
セフィエルは目を輝かせて言う。
「ありがとう助かるよ。」
「ところで、空様。マナ技術は何がお使いになられて?」
「今僕が使えるのは〈霊豪〉だけ。他のは名前も使い方も知らない。」
「〈霊豪〉が使えるだけでもすごいことですわ。他のマナ技術も今からお教えしますわ。」
セフィエルによるマナ技術教室が始まった。
「マナ技術は大きく
霊【豪・仙・静・乱・影・霹・重】に分けられますわ。他にも応用技がありますけれどここでは割愛させていただきますわ。
〈霊豪〉(れいごう)
マナを強化したい部分に流し込んで身体強化する技ですわ。
纏うように流し込むんで使用する方法。
マナを体の中から流し込む方法がありますわ。後者の方が威力は高くなりますけれどその分、身体への負担も大きいですわ。
〈霊仙〉(れいせん)
マナを使った身体回復技ですわ。浅い傷を治すことに長けていますわ。
他者に使用するとマナを回復することもできますわ。
〈霊静〉(れいせい)
マナの残滓を作る技ですわ。わかりやすく言うと影分身みたいなものですわ。
〈霊乱〉(れいらん)
発するマナの波を乱す技ですわ。習得難易度は高いですわ。
〈霊影〉(れいえい)
マナで位置を感知する技ですわ。マナがあるものにしか通用しないから注意ですわ。これも習得難易度が高いですわ。
〈霊霹〉(れいへき)
マナを発散させる技ですわ。ビームやエネルギー弾に近いものだと思ってくれていいですわ。習得難易度は低いですけれど応用技が多いですわ。
〈霊重〉(れいじゅう)
マナで防御する技ですわ。最も習得難易度が高いですわ。扱えるとかなり強力ですわ。」
「なるほどね。」
空は理解したように頷いた。
「基本はこのくらいでしょうか? ご質問はございますか?」
「マナ総量はどうやって増やせばいいの?」
「そうですわね……明確な条件はないですわ。ですが相当な努力が必要ですわ。空様の場合はお話した通り《天使契約》の副効果で増えますが、これだけに頼るのは得策ではないですわ。」
「そっか……」
空は考え込む。
「何かありましたらいつでもお尋ねくださいまし。」
「うん、ありがとう。」
空は感謝した。
「では空様、本日は何をなさいますか?」
とセフィエルは尋ねる。
「とりあえず僕を現世に帰して。イリア達が待ってるんだ。」
「承知いたしましたわ。」
セフィエルは頷くと、指をパチンとならす。
すると扉が出現する。
「この扉を通れば現世に帰れますわ。わたくしは単独ではそちらへ行くことができませんので空様が現世にお戻りになさった後、召喚してください。」
「わかった。行ってくるよ。」
空がドアノブに手をかけると、セフィエルは不安そうにする。
「お気をつけくださいまし。」
「ありがとう。」
空はドアノブを回し、扉を開けると中へ入っていった。
―1―
扉は部屋に繋がっていて見覚えのある顔が並んでいた。
「空!」
まっ先に空に飛びつくように抱き着いたのはイリアだった。
「ただいまイリア心配かけたね。」
空はイリアの頭を撫でる。
「ううん……私こそごめんなさい……」
イリアは涙を流し謝る。
「大丈夫。僕は無事だから。」
空は優しく諭すように話す。
「無事でよかったわ。」
「空、おかえり。」
「蒼さん、猛隊長。ご心配おかけしました。律那もただいま。」
空は蒼、猛に頭を下げる。律那は「気にするな」と返す。
「空が連れ去られたイリアを追いかけていったと聞いたときは急いで蒼の所に行ったよ。」
律那が軽く笑いながら言う。
「気持ちはわかるがな。」
猛も微笑む。
「ご心配おかけしてすみません……」
「それで、何があったんだ?」
律那は空に問いかける。
「はい……実は……」
空は事の顛末を話す。
「そんなことが……大変だったんだな。」
律那は労うように言う。
「あ、呼ばなきゃ。【天使召喚】セフィエル。」
まばゆい光とともに、羽音のような風が巻き起こる。次の瞬間、セフィエルが姿を現した。
「空様、遅いですわ。」
頬を膨らませたセフィエルが出てくる。
「ごめんよ。」
「あんたがセフィエルか?」
律那が聞く。
「そうだよ。セフィエルこちらが異変治安局第三部隊の天紋路猛隊長、玉超蒼さん、渾亡刹那。」
空はセフィエルに紹介する。
「わたくしは裏界第2区界 天庭 座天使階級 セフィエルにございますわ。以後お見知りおきを。」
セフィエルはスカートをつまんで礼をする。
「空を助けてくれたこと感謝する。」
「気になさらないでくださいまし、空様はわたくしの主ですから当然ですわ。」
セフィエルは胸を張る。
「話を変えよう。空、イリア。今回の異変解決の報酬だが空とイリア合わせて2740万円支払われる。空には必要書類を書いてもらう必要があるからあとで来てくれ。」
と猛は告げる。
「2740万⁉」
と空は驚きの声を上げる。
「これに関しては後で連絡しよう。書類も後日でいい。そして2人は仮入隊状態なわけだが今回の異変解決に伴って正式に入隊許可が出た。どうするかは任せる。」
「どうする?イリア。」
と空が聞く。
「私は……私の記憶を知るためにも入りたい。」
とイリアが言う。
「わかった。僕も同じ気持ちだよ。」
空は微笑んで答えるのだった。
「これで正式に仲間だな!よろしくな空、イリア。」
「よろしく律那。」
「私も嬉しいです。」
「蒼さんもこれからよろしく。」
「では、手続きはこちらでやっておくから2人は帰っていいぞ。セフィエルさんもご苦労だった。」
猛はそう締めくくる。
「わかりましたわ。では空様、帰りましょうか。」
セフィエルは空に提案する。
「そうだね。じゃあまたね蒼さん律那。」
空は別れの挨拶をする。
「ああ、いつでも来いよ!」
律那が手を振りながら答える。
「気を付けて帰れよ。」
と猛は返事をする。そして空達はその場を後にした。
「空様、この後はどういたしますか。」
セフィエルは尋ねる。
「裏界に戻るかな。マナ技術を習得したいし。イリアはどうする?」
「私も空について行く。」
イリアは即答する。
「では裏界に戻りましょう。」
2人はセフィエルの呼び出した扉で裏界に戻るのだった。
―2―
同日の深夜。
ひどい吐き気だ。頭痛もして気持ち悪い。
『大丈夫かよ刹那。』
「いつものことでしょ。」
『また酷くなったように見えるよ。』
「心配してくれてありがとう。越那。」
血まみれの部屋、鉄のようなにおい、死体、毎日寝るたびにこの風景を夢に見る。
「お姉、お兄、ママ。なんで」
刹那は涙を流す。
「律那と越那は私の前からいなくならないよね。」
『当たり前だ。』
『いつでも一緒だよ。』
その言葉に安心して刹那はまた眠りにつくことができた。
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