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Nigrum Agnus Dei-復讐の神官-  作者: 藤和
エピソード3:神に背くモイラ
16/22

e:運命の輪

「近頃、新たな神を名乗るものを信奉する人々が増えているようです。

 この事態に神殿庁は……」

 夜、バチカ神殿の敷地内にある宿舎の自室でスマートフォンを見る。ネットニュースは、しきりにこの話題を取り上げている。SNSでも頻繁に目にするほどだ。

 あれからというもの、新たな神ドラゴミールの信徒はその名を広め、異名を語り、それもまた広めた。

 ますます危機感を募らせた神殿庁は、新たな神の信徒に対して(げん)(かい)(たい)(せい)を取り、各都市と警察組織と連携して締め付けをはじめた。

 このまま新たな神ドラゴミールの信仰が広がり、神様の信仰が失われることによって、神様が作り出し支えているこの世界が終わりを迎えることを恐れているのだ。

 神殿庁の人間達の多くは、世界の終わりに怯えているが、その恐れを表に出さないように必死だ。もしこれが信徒に知られたら、威信に傷がつくし、混乱を招くからだろう。

 けれども、その動きも恐れも全部我々には筒抜けだ。

 だって、この神殿の中にももう、私以外に新たな神の信徒が増え続けているのだから。


 (けい)(けん)な素振りで神殿に仕え、神様を祀りながら、裏で新たな神の信仰を広げる活動を続けていたある日のこと。神殿での勤めが終わった夜の休憩時間に、弟のデクモからメッセージが来た。相談したいことがあるから連絡が欲しいとのことだった。

 デクモの身を脅かすようななにかが起こったのだろうか。思わず不安になり、すぐさまに音声通話を開始する。

 コールすること数回、デクモが応答した。

「姉さん、忙しいのにごめん。

 でも、姉さんでないと相談できないことがあって」

 ひどく怯えて焦っているのが声だけでわかる。いったいなにがあったのだろう。

「とりあえず落ち着いて。

 なにがあったのか話してくれる?」

 ひどく心配になって私がそう訊ねると、デクモは震えるちいさな声でこう言った。

「母さんが、あの新たな神とかいう錬金術師の動画を夜中に見てて……

 はじめは宣伝でたまたま出ただけなのかと思ったんだけど、心配になってしばらくようすを見てたら、自分で検索して見てるみたいで、それで僕、こわくなっちゃって……」

 これは(こう)()だ。人を諭すギフトを持ったお母さんも新たな神に惹かれているのなら、私の家族もこちら側に引き込めるだろう。

 私の家族はみんな、人を率いるのに有利なギフトを持っている。

 人を活気づける言葉を持ったお父さん。

 人を諭す言葉を持ったお母さん。

 そして、人を落ち着かせる言葉を持ったデクモ。

 そこに、対象を問わずに信仰を抱かせる私が揃えば、より一層新たな神への信仰を広めることができるだろう。

 事を有利に運ぶことができるというのはもちろん、なにより、家族と一緒に神様と戦えるなら、これ以上心強いことはないと思った。

 けれども、今ここでこのことを話したらテクモのことを余計に怖がらせてしまう。それは嫌だ。

 だから、なるべく優しい声で私は訊ねた。

「これはこわかったね。

 それで、近くのゴルド神殿の神官には相談したの?」

 地域ごとに点在する、社とも呼ばれるちいさな神殿には、最低ひとりは神官が在中しているはずだ。今となっては私よりも神様への信心深いデクモのことだから、相談していてもおかしくない。もし相談しれていたら厄介だ。秘密裏に家族を引き込むのが難しくなる。

 そう思っていたら、デクモは思い詰めたような声を出す。

「こんなこわいこと、神官さんになんて言えないよ。

 姉さんでないとだめなんだ」

 それから、泣きながらお母さんを説得してくれと言う。

「わかった。今度またそっちに行って、説得するから。

 そんなに泣かないで」

「うん……」

 それから、デクモは明日の朝の仕事のためにこれから出勤すると言って通話を切った。

 仕事があるからというのは事実なのだろうけれど、それを口実にしないと私に頼り続けてしまうというのがわかっていたのだろう。

 デクモは、新しい神に対して恐怖を覚えている。

 これでこちら側に引き込めるだろうかという懸念はあるけれども、大丈夫。デクモはすでに、私に信仰を傾けはじめている。通話をしている時の言葉の端々にそれが見て取れた。

 だから大丈夫。


 翌日、日が昇る前、蝋燭の光で照らされた朝の礼拝を済ませ、朝食のあとの仕事がはじまる前の時間に、神官長の所へ行き昨夜のいきさつを話すことにした。

 固い足音を立てて冷たい空気が漂う廊下を歩いて行き、神官長の部屋の前に立つ。立派な木製の扉をノックし、返事が返ってきてから部屋の中に入る。壁際には重々しい本棚が置かれ、聖典や祈祷書といった本が並んでいる。本棚の横にはちいさな花瓶がかけられていて、金属製の菜の花の造花が生けられている。柔らかいカーペットの上に立ち正面を見ると、部屋の奥にある机の上に、仕事の前に心を落ち着かせるために飲んでいるのか、甘い香りのお茶がはいったティーカップが置かれている。

「どうしました。緊急の用事ですか?」

 そう訊ねてくる神官長に、私はいかにも悲壮な口調でこう告げる。

「実は、私の家族が新たな神とやらに(おびや)かされていると連絡が来たのです。

 神様の信仰を伝えるべき神官の家族が、間違った道に進むことは許されません。

 先日様子を見に行ったばかりですが、どうか、家族を説得するために今一度、ノマキの家族の元に行くことをお許しください」

 上手く演技できていただろうか。祈るように指を組んだ手で口元を隠しながら神官長の様子をうかがっていると、焦ったように立ち上がって私の側までやってきた。

「それはたいへんです。

 今、神様の信仰を人々に最も広めているあなたの家族が脅かされるようなことがあってはなりません。

 信仰篤きモイラ。準備が整い次第、明日でも今日でも、家族の元へと急ぎなさい」

「はい、ありがとうございます」

 目の前で指を組んで祈るようにしている神官長を見て確信する。神官長は私が神様を信奉し続けていると信じて疑っていない。これなら、まだしばらくはだまし続けられるだろう。

 私も指を組んだまま神官長に返す。

「今日これから準備をして行くのでは、家族のところまでたどり着けません。

 ですので、明日朝一番に、礼拝のあとに出立します」

「はい、そうしてください。

 絶対に家族を守り抜くのですよ」

 神官長に一礼をしてから部屋を出る。

 思わず口元がゆがんだ。


 翌日、礼拝のあとに朝食も取らず、私は荷物を持ってバチカ神殿を出た。

 まだ日は出ていない。冷え込むようになったこの時期は、日の出も遅いのだ。

 この時間でも、駅に向かって歩いて行く人はいる。元々私たち神官は、奉仕活動のためにこれくらいの時間にトラムに乗ることがあるので、道行く人は祭祀用のローブを着た私が駅に向かっていても疑問に思わないようだ。

 駅についてトラムが来るのを待つ。おなかはすいているけれども、とりあえず途中の乗換駅、タイラに着く頃には、駅の売店も開いているだろう。そこで軽く食べるものを買えばいい。

 とにかく、今は少しでも早く家族の元へ向かわなくてはいけないのだ。トラムのに乗り込み乗換駅に行き、トランジットに乗り換える。

 人の少ないトランジットにゆられて、ぼんやりと景色を見る。星間をわたり、朝を迎えつつある星々が輝きはじめている。

 今頃デクモはどうしているだろうか。一昨日(おととい)連絡した時に出勤のタイミングを聞いた限りだと、今日の朝で仕事が終わって家に帰るはずだ。だから、私が家に着く頃にはデクモも家にいるだろう。もしかしたら寝ているかもしれないけれど。なんにせよひどく不安がっているはずだから、早く安心させてあげたい。

 お父さんは仕事に行っていても、晩ごはん時には家にいるはず。お母さんもどこかに出かけたとしても、泊まりがけでないかぎり夕方以降は家にいる。うまくやれば今夜中に事は済むだろう。

 お母さんはともかくとして、お父さんとデクモをどうやって説得するかを考える。

 星の圏内に入り日の差す大地にトランジットが降りる。タイラ駅に着く。長い乗り換え時間の間に、売店でおにぎりと野菜ジュースを買ってベンチで食事をする。味は感じない。

 考えている間に、乗り換えのトランジットがやってきてまた乗り込む。それを繰り返して、遠い自宅までの時間が過ぎていった。


 今回はデクモに乗り継ぎを聞けていなかったので効率の良い乗り継ぎができず、実家に着いたのは夕飯時だった。

 家のインターホンを押すと、お母さんが返事をする。

「お母さん、ちょっと急だけど帰ってきたんだ」

 インターホン越しに私がそう言うと、お母さんは明らかに(どう)(よう)した声で、玄関を開けると言う。それから、玄関を開けて私を招き入れた。

「お帰り。

 急に来たからびっくりしたじゃない」

「ごめんね。

 実は、デクモに呼ばれてきたんだ」

 少しよそよそしい態度を取るお母さんにそう言うと、お母さんは他に誰もいない居間に私を通す。

 私もお母さんもいつもの席に座ったので、お母さんに訊ねる。

「あれ? お父さんとデクモはどうしたの?」

「あっ、お父さんは、その、残業で少し遅くなるって。

 デクモは今部屋で寝てる」

「そっか」

 それならしばらくお母さんと話をできそうだ。どうやって話を切り出そうか。そう考えていると、お母さんが落ち着かないようすでこう訊ねてきた。

「それにしても、急にどうしたの?

 デクモに呼ばれたって、デクモがなにか相談でもあるって言ってたの?」

 お母さんの方から話のきっかけをくれて助かった。私は頷いて、神妙な素振りでお母さんに話しかける。

「そう。なんか、デクモから訊いたんだけど、お母さん最近、新たな神とか言う錬金術師の動画見てるんだって?」

 私の言葉に、お母さんは身を固めて気まずそうに笑う。

「それは……いやね、あの子ったら。

 勝手に人の部屋を覗いたりして」

 明らかに誤魔化そうとしている。つまりは、新たな神に惹かれているということだろう。

 私は真面目な声でお母さんに言う。

「お母さん、あんなあやしげなものを見ちゃダメだって、神官に言われてない?」

 すると、お母さんはうつむいてしまう。

「……そういう注意喚起は出てるし、私もわかってるの。

 でも、私は神様に連れて行かれたあの子のことをまだ忘れられないの。

 もしかしたら、モイラはもう覚えてないかもしれないけれど」

 お母さんはまだ戸惑っている。神様と新たな神の間で揺れている。私はお母さんのようすを注意深く見る。

「新しい神なら、あの子を取り返してくれるかもしれない。そう思うと、もうどうしようもなくなっちゃうの。

 いけないことなのはわかってるのよ。

 でももう、神様のことを信じていられない。

 でもそれがこわい。

 ねえモイラ、あなたなら私のことをあらためさせてくれるわよね」

 縋るようにそういうお母さんに、私は優しい声でこう返す。

「私も弟を取り返したい」

 お母さんがぱっと顔を上げて私の方を向く。口元が震えている。

 私はさらに言葉を続ける。

「私だって覚えてるよ。まだ少ししか名前を呼んでなかった弟が、神様に連れて行かれた時のことを。

 私がどれだけ泣いて止めても、神様は聞いてくれなかったの、覚えてる」

 それを聞いたお母さんが、おずおずと口を開く。

「モイラ、あなた……」

 動揺している。まさか私がこんなことを言うとは思っていなかったのだろう。

 たたみかけるようにさらにお母さんに語りかける。

「私が勤めてる神殿の中にも、私たちと同じ思いを抱えてる人がたくさんいる。

 ねぇ、お母さん。私たちと一緒に神様を倒そう」

 お母さんが指を組んで、泣き出す。

「それは(ゆる)されることなの?

 ねぇ、教えて」

 きっと混乱しているのだろう。マスクの下から流れる涙も拭わずに、ずっと私の方を向いている。

 そんなお母さんに、私は堂々と答える。

「赦す」

 その言葉は、私ではない誰かの声のようにも感じた。けれども、赦すという言葉を聞いて安心したのか、お母さんは涙を拭っている。

「モイラと一緒ならきっと安心だわ。

 でも、私になにができるのかな……」

 お母さんは完全にこちら側になった。そう確信を持てたところで、私はお母さんに言う。

「お母さんには、人を説得するギフトがあるでしょ。

 それを使えば、たくさんの人を目覚めさせられるよ」

「でも、ギフトを使うのは……」

 私の言葉にためらうお母さんの気持ちはわかる。神様を倒すために、神様からもらったギフトを使うことに抵抗があるのは筋が通っている。

 それでもあえてこう返す。

「使えるものはなんでも使わないと神様は倒せない。

 だからお母さん、私たちのためにギフトを使って」

 少しの間お母さんはためらうようすを見せていたけれども、私が微笑むと、指を組み直して私に頭を垂れた。


「ただいまー」

 しばらくして、お父さんが家に帰ってきた。知らぬ間に薄暗い雰囲気になっていた空気が一気に明るくなる。

「お父さんお帰り」

 まだ少し落ち着かないお母さんにかわって私が返事をすると、お父さんは居間に来ておどろいたような声を出す。

「どうしたんだモイラ、来てたのか」

「うん、なんかデクモが不安がってたから」

「デクモが?

 あいつがそんな不安がるなんてなにがあったんだろうな。

 でもまあ、お姉ちゃんが来てくれれば安心だろう。

 昔から、なにがあってもお姉ちゃんがいれば大丈夫な子だから」

 それから、夕飯の準備ができていないことに気がついて、お父さんは心配そうにお母さんに声をかける。

「もしかして、今日も調子が悪かったのか?

 今から俺がごはんを作るんじゃ遅くなるから、モイラもいるし外食にしようか」

 お父さんはなにも気づいていない。今日も調子が悪かったのかと訊いているということは、ここしばらくお母さんの調子が悪く見えていたのか、お母さんがそう言って誤魔化していたかのどちらかだ。

 お父さんに話しかけられたお母さんは、口元で笑ってお父さんに返す。

「今日は調子悪くないの。心配かけてごめんね。

 急にモイラが帰ってきたから、つい話し込んじゃって晩ごはん作ってなかっただけなの。

 でも、そうね。モイラもいるし外食も良いかもね」

 お母さんの言葉に、お父さんは早速といったようすで二階に向かっている。二階には私の部屋とデクモの部屋があるので、デクモを起こしに行っているのだろう。

 少しして、ばたばたと慌ただしい足音が聞こえてきて、居間にお父さんとパジャマ姿のデクモが顔を出す。

「姉さん、ほんとに来てくれたんだ!」

 余程不安だったのだろう。デクモは私を見るなり抱きついてきた。私よりもずっと大きくなったのに、甘えん坊なのは相変わらずだ。

 膝をついて、着けているマスクがずれるのもかまわずに私の胸に顔を埋めるデクモの頭をやさしく撫でながら私は口を開く。

「さっき、お母さんと話をしてたんだけど」

「うん、うん」

 これでお母さんは神様への信仰を取り戻したと思っているのか、デクモはすこしだけ安心したようすだ。

 けれども、私はこう続けた。

「弟が神様に連れて行かれたのは、私も悲しいんだ」

 私の言葉を聞いて、デクモが身を固める。お父さんも戸惑ったような口元をしている。

「私もお母さんも、神様に連れて行かれた弟のことが、今でも忘れられないんだよ。

 ねぇ、恵みをくれるはずの神様がなんでこんなことをするんだろう」

「それは……」

 お父さんが戸惑ったような声を出す。デクモが怯えて私にしがみつく。私はさらに言葉を続ける。

「そもそも、神様は私たちに恵みをくれているの?

 ギフトはほんとうに恵みなの?

 ギフトよりも、家族の方が大切じゃない?」

「モイラ、おまえ……」

 お父さんが明らかに動揺している。ここで下手をすれば反発されるだろう。

 慎重に言葉を選んでお父さんに言う。

「ねえ、お父さん。神様に連れて行かれた弟がここにいたら、どうなっていたと思う?」

 私の言葉に、お父さんは戸惑いながらこう返す。

「でも、あの子は神様が選んだから……」

「神様に連れて行かれなかったら、どうなっていたと思う?」

 私の言葉にお父さんは少し黙り込んでから、震える声でこう答えた。

「わからない。

 わからないけど、大きくなったところを見たかった」

 お父さんの心を揺さぶることはできたようだ。

 デクモの頭を撫でながら、私はお母さんの方を向く。お母さんはすぐにお父さんに手をかけて声をかけた。

「あの子を神様から取り返す方法はあるのかしら」

「あの子を取り返す……」

 お父さんが鼻をすする。きっと、連れ去られた時のことを思い出しているのだろう。

 私は怯えてしがみついてくるデクモをあやしながら、ゆっくりと話す。

「新たな神なら、弟を取り返せるかもしれない。

 取り返せなくても、神様に一矢報いることはできる。

 お父さんはどうしたい?」

 お父さんがお母さんの手を取って、じっと私の方を向いている。

 そんな中、ずっと黙っていたデクモが怯えた声でこう言った。

「姉さん、なんで、なんでそんなこと言うの?」

 怯えているのに、それでも私に(すが)るデクモに、私が話しかける。

「デクモも、弟がいたらどうだったと思う?」

 デクモはまた私の胸に顔を埋めて答える。

「……わからない」

 戸惑いながらも私に縋ることをやめられないデクモの頭を撫でながら、話を続ける。

「神殿にいてもわかるの。神様に家族を奪われて心を痛めてる人がたくさんいるって。

 神様って、ほんとうに正しいものなのかな」

 少しの間みんな黙り込んで、お父さんの戸惑うような息づかいと、デクモが鼻をすする音だけが耳に入った。

「ねえ、お父さんとデクモも、神様に一矢報いるために協力して」

 私のその言葉に、お父さんは顔を手で覆ってこう返す。

「俺はもう、前みたいに神様を信じられないよ。

 だって、やっぱりあの子のことが忘れられないのに気づいちゃったからなぁ……」

 どうやらお父さんの協力は得られそうだ。

 では、デクモはどうだろう。やさしく頭を撫でながら返事を待っていると、デクモが鼻声で言う。

「僕は、神様に逆らうのはこわいよ」

「……そう」

 デクモの協力は得られないか。そう思っていると、デクモはこう続けた。

「でも、姉さんの言うことは正しいんだ。

 姉さんは間違ってなんてないんだ」

 その言葉に、思わず笑みが浮かぶ。

 私は優しい声でみんなに訊く。

「それじゃあ、みんな新しい神を広めるのに協力してくれる?」

 その問いに、家族全員が協力すると答えた。

 けれども、お父さんが戸惑ったようにこう訊ねてくる。

「でも、広めると言っても、なにをすればいいんだ?

 モイラはなにか、広めるための手だではあるのかい?」

 それは当然の疑問だろう。

 だから私は神官らしい、威厳のある声でこう答える。

「もちろん。

 だって、新たな神を信奉している教祖は、私なのだから」

 すると、お父さんもお母さんもデクモも、おどろいたように私の方を向いてから、指を組んで私に頭を垂れた。

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