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 公爵家にて。

 

「公爵、今日はどちらに……。」

 プリマヴェーラ公爵は冷静で残酷。つい3年ほど前まではそうではなかったのだが、妻であるリーナが事故で亡くなってからというもの、人が変わったように冷たくなった。

 和気あいあいとしていた屋敷の雰囲気も一変し、今では冬のような静けさと寒さが広がっている。

「今日は孤児院を視察に行く。」

「え、孤児院をですか!?今日は視察が向かう日ですが、なにか用事でも?」

 公爵が唯一信用する秘書がずかずかと質問する。

 それに対して公爵は視線もくれずにただ「準備しろ。」とだけ言い、去っていった。


(今、確かに春の風が吹いた。)


 蜜を運ぶ蝶を求める独りの蜂は、ただいやなくらいにに爽快な青空を見上げた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「熱っ!?」

 魔力を込めた手から発せられる炎が「先生」の目を眩ませる。腕をつかむ力が弱くなったのを見計らい、腕を振り払う。

(宝石を媒体としてないから私が魔力を使った痕跡が残っちゃう。そうすれば孤児院のことも公にならないまま保護されちゃう。)

 魔力を持つ者は全員アカデミーに通い、正しい使い方を学ぶのだ。だがそれは国の支配下に置かれることを意味する。


「逃げなきゃ!!」


 魔力を使ったのだから、公爵にここを示す目的は果たした。

 保護なんてされてしまえば、私の人生をかけての目的は果たされない。


(誓ったんだ。今度こそあの「家族」に復讐するって。できる限り残酷で、苦しんでもらいながら死なせるんだ。)


 スピカは走った。止めるミュゼにいを無視し、孤児院を飛び出る。目指す場所は一つ。

(魔力を使うことが多くて、私の魔力をまぎれさせられる場所!)

 大通りを道行く人が小さな体でぼてぼてと走る私を物珍しそうに見る。だが声をかけようとする人はだれ一人としていない。皆自分の暮らしでいっぱいいっぱいなのだろう。

「ここを右に曲がれば――」

 そこに見えるのは騎士たちの訓練場。それも特殊騎士団のである。

 特殊騎士団とは一般市民内での魔法の普及につれ増えてきた魔法関連の問題に対して出動する騎士団で、強力な魔法使いや魔法剣士が集められている。


 人間が魔力を利用するのには大きく二つの方法がある。

 一つは自身の体内に取り込んだ魔力のもととなる魔素を放出することで魔力として顕現させる方法。

 二つは何らかの媒体を通して魔素を集め、放出し魔力として相応の効果を得る方法だ。

 人が魔素を取り込める量は生まれた時から決まっているので一つ目の方法を使える人間というのは限られている。また、4人の原初の魔法使いの春、夏、秋、冬をつかさどる血を継いだ四大公爵は他とは比べ物にならない魔力を持ち、原初の母といわれる太陽の魔法使いの末裔たる皇家は更なる力を隠しているといわれている。


(はあ、はあ――)


 今まで後ろも振り返らず走り続けたからか、なんだか体がだるい。うまく息ができない。

 足を止めると一気に今までの分の疲労がたかり訓練場の大門を目前にして進めない。

 大通りを曲がったところにあるからか人の目もない。

 大きな太陽がじりじりと肌を刺し汗が噴き出す。

(もう、立てない……。)

 地面に膝をついた、その時。


 キィィと大門が開くような音が聞こえた。

 ぐるぐると回るように揺れる視界が最後に捉えたのは、心配そうに駆け寄る青年の姿――


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「あの馬車ってたしか公爵家のものよね。」

「そうそう、いつも公爵の使いが孤児院の視察にきてるけど、実際は虐待が多いって聞くわ。公爵はそれを知ってて放置してるのかしら。」

「ほんと、この前なんて子供たちが道に出て物乞いをしてたわよ。」

 孤児院にとまった公爵家の文様が刻まれた馬車を見て人々が口を立てる。

 その視線は決していいものではない。領民の間でも3年前から業務をこなさなくなり、触れ合いも減った領主に対しての評判が下がっているのは言うまでもないだろう。


 そんな視線を気にすることもなく、領主たる公爵はもくもくと孤児院の廊下を進んでいた。

 案内するのは侯爵が孤児院を任せていた子爵の娘で「先生」。やけどを負った「先生」は現在医務室で手厚く治療している。

(春の残骸が薄い。もうここにはいないか。)

 だが、それよりもここには問題があるようだ。

「おい秘書。ここを徹底的に調べろ。おれはここを立てるときに『みんな笑顔でウルトラ楽しい孤児院』をモットーにしろと直々に伝えたはずだ。なのに全くと言っていいほどに子供たちの笑い声が聞こえない。これはつまり俺の命令に背いたということ。」

(((そんなモットーがあっただなんて……)))

 そこにいた皆が驚愕したが、決して顔には出さない。すでに公爵がそういう人だと知っている秘書のゼージュは笑いをこらえるのに必死だ。

 

「も、申し訳ありません。情報が正しく伝わっておらず。」

「ほう。ならば、報・連・相もできないような者に子供を任せることなどできないな。ゼージェ、ここで働いている大人を全員クビにしろ。新たな教育者は新しく募集しよう。」

「そ、それだけはどうかお許しを……!!」

 頭を下げる「先生」を無視し、公爵は中庭を挟んだ先に見える子供たちの姿を見つめる。

 子供たちは瘦せていて、パンを分け合いながら笑いあっている。子供たちはこの厳しい環境の中で些細な幸せを分け合っているのだ。

(ん……、なにか様子がおかしいな。)

 一人の少年が子供たちになにか必死に呼びかけている。それを聞いたほかの子供たちは急いでパンを食べドタバタと何かを探すようにして散ってゆく。

 なにかがおかしい。

 公爵は今は感じられない魔力の発動者との関連を疑った。

「――行くぞ。」

「え、こ、公爵様ぁ!?」

 先生らへの対応をしていたゼージュは突然進みだした公爵を放っておくわけにもいかず、先生に「ではまた」と告げ、速足でついていった。

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