第九話
「……お、いい感じに育ってるな」
ポカポカ陽気に包まれた朝。
僕は庭の外にある畑にいた。
四方10メートルほどの区画を木の柵で囲っているこの畑は、以前からおじいちゃんが野菜を育てていた場所だ。
日当たりも抜群だし、まさに絶好の畑スポット。
ちょっと前にコンポストで作った堆肥を土に混ぜて野菜を育ててるんだけど、かなりいい感じに野菜が育ってるんだよね。
植えた野菜は、キュウリにゴーヤ、ナス。
それにトウモロコシ。
キュウリとゴーヤは同じ畝にした。
支柱を両サイドに立ててネットを張り、そこにツルを紐で結んで実の重さで折れないようにしている。
ネットの表側はキュウリ、裏はゴーヤという感じだ。
トウモロコシは畝の周りにぐるっと支柱を立てて、紐で囲っている。
こうすることで風で倒れにくくなるんだとか。
ナスも支柱を立てて、同じように紐でくくっている。
ちなみにナスは育ってきたら株の根本に肥料を撒くんじゃなくて、畝と畝の間の通路に撒くのがいいんだって。
葉っぱの広さまで根が広がるみたいで、通路に撒かないと栄養が足りなくなってしまうらしい。
全部勘吉さんに教えてもらったんだけど、やっぱりプロって凄い。
言われた通りにやってるだけで、こんなに立派な実ができるんだもん。
「にしてはちょっと育ちすぎな気もするけど……」
キュウリとか、凄まじく大きい実がついてるし。
勘吉さんの話だと、収穫できるのって来月くらいだったよね?
混ぜたコンポスト堆肥のおかげ……なのかな?
というか、おじいちゃんの家って、野菜だけじゃなく他にも不思議な事が多いんだよね。
例えば、天気。
ここで暮らしはじめてもうすぐひと月が経つんだけど、毎日快晴。
一日たりとも天気が崩れたことがない。
まぁ、土砂降りの雨だったら家の中でじっとしてないといけないから、ありがたいと言えばありがたいんだけどね。
納屋に置いてある段ボール型コンポストの発酵速度もすごく速かった気がする。
箱が一杯になって2、3ヶ月で堆肥ができるっておじいちゃんのスローライフマニュアルに書かれてたけど、数週間でできちゃってるし。
あとは、庭にやってくる白狼さんだよね。
あれから一度も姿を見せてくれないけど、餌を出してたらいつの間にかなくなって、代わりに木の実と薬草が山盛り──ってことが続いてる。
ほんと不思議すぎる。
アヒルちゃんたちは友達って言ってた(ような気がする)けど、もしかして本当に山の神様だったりするのかな?
「ぐっ、ぐっ、ぐっ」
なんて考えてたら、山のほうからテケテケたちがヨチヨチ歩いてきた。
最近は行動範囲が広がって、山の中を散歩するようになっている。
前より少し体が大きくなってるし、ペレットの野菜くずミックスの餌だけじゃ足りなくて虫とか捕まえに行ってるのかもしれない。
「おかえり。キッチンにお昼ご飯置いてるから」
「がー」
「ぐっ、ぐっ」
「くわっ」
1羽ずつバタバタッと羽をはばたかせ、壁の向こうに消えていく。
あれは「ありがとう」の反応だな。
嬉しいこととか楽しいことがあると、ああやってボディーランゲージをするんだよね。
逆に、興味がなかったりどうでも良い話題を振ると、そっけない態度を取る。
実にわかりやすい奴らなのだ。
「……さて、と」
僕は畑作業をしないとね。
今日はキュウリの摘芯という作業やる予定。
摘芯っていうのはわき芽(茎の付け根から出る芽のこと)の成長を促進させるための重要な作業で、これ如何でキュウリの収穫量が変わるらしい。
美味しいキュウリをたくさん食べるために頑張らねば。
と言ってもやり方は簡単。剪定バサミで茎の先端近くをチョッキンと切るだけ。そうするとわき芽がすくすく伸びていくらしい。
「ぐっ、ぐっ」
「……ん?」
モチが庭のほうから戻ってきた。
「どした? お昼ご飯、足りなかった?」
「ぐっ、テツダウが〜」
「……えっ?」
しばし唖然としてしまった。
普通に言葉喋ってるってのもだけど、まさか作業も手伝ってくれるなんて……。
おじさん、感動しちゃった!
「サンキューな、モチ。じゃあ、雑草処理を頼むよ」
「ぐわっ」
プリプリとお尻を振りながら雑草をくちばしでつまんでいく賢優しいモチさん。実に癒やされる後ろ姿である。
ていうか、庭には雑草が生えないけど、ここにはしっかり出てくるんだよね。本当に不思議。
それから30分くらいで一通り摘芯作業が終わり、モチのおかげで畑の周囲から雑草が綺麗になくなった。
これでキュウリもしっかり育つだろう。
「……よし、今日はこれくらいにしておこっか」
「ぐわっ!」
午後からホームセンターに買い物に行く予定だしね。
そこで何を買うかと言えば……レンガだ。
庭に石窯を作ろうと考えている。
ほら、石窯でピザとか焼いたら、すごく美味しそうじゃない?
本格ピザっていうかさ。
ちなみに、石窯の作り方はスローライフマニュアルに書いてあった。
なんでそんなものが書いてあるんだって突っ込みたくなるけど、これも山暮らしにおける自給自足の手段のひとつなのかもしれない。
……てことにしておこう。
レンガの数は相当数必要になりそうだけど、手順にそってレンガを重ねていけば良いみたいだし、結構簡単に作れるっぽい。
というわけで、軽くお昼ご飯を食べて出発することに。
一緒に行くかとモチたちに声をかけようとしたんだけど、いつの間にかいなくなっていた。
また山の中に遊びに行ったのかな?
ほんと散歩が好きだな~。
なんて思いながら、駐車場に向かったんだけど──。
「くわっ!」
軽トラの荷台にモチの姿が。
「ぐわわっ! くわ、くわっ!」
「……あ、一緒に行く?」
「イクぐわっ!」
大喜びのモチさん。
ちなみに、買い物に行くときは6割くらいの確率でモチが付いてくる。
残りはポテとテケテケが一緒に来たり来なかったり。
好奇心が一番強いのはテケテケなんだけど、あいつは買い物とかにはあんまり興味がないみたいなんだよね。
遊びに行くわけじゃないって理解しているのかもしれない。
実に賢いアヒルちゃんだ。
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