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第七話

 散歩がてら山に入って遭難しかけた次の日。


 僕はアヒルちゃんたちと一緒に勘吉さんの家にいた。


 畑のお手伝いをするのはまだ先だけど、昨日調子に乗って採りまくってしまった山菜をおすそわけしにきたんだよね。


 勘吉さんの家は、ウチと似た日本家屋で広さも同じくらい。


 大きな庭があって、立派な松の木がそびえ立っているところもなんだか似てる。もしかして同じ大工さんとか庭師さんにお願いしたのかな?



「しかし、沢山採ったねぇ」



 キッチンに置かれた山菜を見て、勘吉さんが嬉しそうに笑った。



「フキノトウに、ウド……ワラビもある。というか、良くわかったね? 山菜採りの経験があったの?」

「初めてだったんですけど、ポテに教えてもらったんです」

「ポテ?」

「アヒルちゃんの名前です」

「……ええっ!? あのアヒルちゃん、山菜採りもできるの!?」



 そりゃあ驚くよなぁ。


 目利きできるアヒルちゃんなんて、聞いたことないし。


 ちなみに、一緒に勘吉さんの家に来たポテたちは、庭でのんびり虫を捕まえたりしている。



「時々ウチも山菜採りに行くんだけど、ぜひ手伝って欲しいな」

「全然オッケーだと思いますよ。僕も一緒に行きますし」

「ホント? 助かるなぁ」



 リビングでは勘吉さんの娘さん、はるかちゃんがテレビに食らいついている。


 今年で3歳って言ってたっけ。


 流れているのは子供向け番組。


 これ、僕が子供の頃にもやってたヤツじゃん。懐かしいなぁ。


 いつの時代も夢中になるものは変わらないらしい。


 キッチンから油の弾ける音がしはじめた。


 持ってきた山菜は、勘吉さんの奥さん──静流さん(初めて会ったんだけど、若くて超美人だった!)が天ぷらにしてくれてる。


 本当は山菜を渡してお暇する予定だったんだけど、静流さんから「食べていってよ」と言われてお邪魔することになったんだよね。


 本当にありがとうございます。


 テーブルで勘吉さんに竹炭やコンポストを作りはじめたことを話していたら、静流さんが山盛りの山菜の天ぷらを持ってやってきた。



「お待たせ。こんな感じで揚げてみたんだけど、どう?」

「おお、サクサクでいい感じじゃない。こりゃあビールが欲しくなるな~。確か冷蔵庫にあったよね?」

「自重しろバカ。アキラくんは車で飲めないんだから」

「イテッ」



 菜箸でペシッと頭を叩かれる勘吉さん。


 ふふふ、完全に尻に敷かれてる感じがして良きだな。



「僕のことは気にせず飲んでくださいよ、勘吉さん」

「え? ホント? 悪いねぇ」

「顔が悪びれてないから。ごめんね、アキラくん」

「いえいえ。僕はお邪魔してる身なので」

「いやぁ、アキラくんって本当に大人だなぁ」



 勘吉さんがウキウキで席を立つ。


 しかし、と皿の上に大盛りになった山菜の天ぷらを見て思う。


 すんごく美味しそうな色をしてる。


 勘吉さんじゃないけど、本当にお酒と良く合いそうだ。


 勘吉さんがビール片手に、テレビを見ていたはるかちゃんと一緒にやってくる。


 全員着席したところで静流さんが手を合わせた。



「それじゃあ、頂きましょうか」

「おう」

「頂きます」

「まーしゅ」



 勘吉さん、僕、はるかちゃんの順番で手を合わせる。


 ちゃんといただきますできるはるかちゃん偉い。



「……おお、こりゃ美味いな!」



 大口を開けて、がぶりと食らいついた勘吉さんが感嘆の声を漏らした。


 どれどれ、僕も。


 小さめの天ぷらをパクッと。



「あ、美味しい」



 サクッとした歯ごたえの後に、ほのかな苦みと独特の歯ごたえがあってすごく美味しい。


 この苦み、絶対お酒と合うやつだ。



「しかし、すごく食べやすいな」

「そりゃあ、あたしがしっかりとアク抜きしたからね」



 勘吉さんを見て、フンスと鼻を鳴らす静流さん。


 そんな彼女に尋ねる。



「山菜ってアク抜きが必要なんですか?」

「うん。ワラビとかアクが強いから、苦みが強すぎてそのままじゃ食べられないんだよね。食用の重曹を使って熱湯をかけて、しばらく置いてたら大丈夫だよ」

「へぇ、そうなんですね。家でもやってみます」



 危うくそのまま食べるところだった。


 良い水を使ってても、アクが強かったら流石に美味しくないよね。



「……あら、アヒルちゃん?」



 静流さんの声。



 そっちを見ると、モチたちが庭の方からヨチヨチとやってきていた。



「お前ら、ちゃんと足は拭いたか?」

「くわ」

「わっ、わっ」

「ぐえっ」



 片方の羽を掲げるアヒルちゃんたち。


 よしよし、偉いぞ。


 家から足拭き用のタオルを持ってきたんだけど正解だった。


 それを見た静流さんが目を丸くする。



「すごっ……アキラくんのとこのアヒルちゃんって、人間の言葉がわかるの?」

「そうなんですよ。めちゃくちゃ賢くって」



 なんて褒めてたら、3羽そろって静流さんの足元にひょこひょこと集まる。



「あら、あなたたちも食べたいの?」

「がー」

「か、可愛いっ! はいどうぞ」



 取り皿に載せられた天ぷらを差し出す静流さん。


 瞬間、モチたちが我先にとガガッとがっつきはじめる。



「あはは、良い食べっぷり。それに人懐っこいし、ちょっと可愛すぎない? よしよし……いい子、いい子」

「ぐっ、ぐっ」



 静流さんに撫でられまくり、ご満悦の様子。


 特にオスのテケテケはデレまくってる。


 僕には決して撫でさせてくれない脇の下まで許しちゃってるし。


 く、くそう。


 何だ、この敗北感……。


 僕のほうがたくさん世話してるのに!


 それから、思う存分山菜の天ぷらを堪能した後、はるかちゃんがモチたちと遊びはじめた。


 モチたちが逃げて、はるかちゃんが追いかける。


 捕まったら撫でられまくるっていう変な遊びだけど、実にほっこりする。


 ていうか、すっかり仲良くなったみたいだな。



「山に入ったのって、昨日だっけ?」



 ほろ酔いの勘吉さんが尋ねてきた。



「そうですね。いきなりキッチンの水が出なくなって。おじいちゃんが山から水を引いてたらしいんですけど、集水桝にゴミが溜まってたんです」

「あ~、そういや、そんなこと言ってたな。あそこの沢には魚もいるし、今度釣りでもやってみたらどう?」

「あ、それ良いですね」



 モチたちと一緒にやるのもいいかもしれないな。


 木漏れ日の中でのんびりと沢で糸を垂らす……。


 なんて贅沢な時間の使い方だろう。


 想像しただけで癒やされる。



「あ、そうだ。そういえば昨日、山菜採りをしてるときに気になるものを見たんですけど」

「気になるもの? クマとか?」

「いえ、変な景色なんですけど」

「変な景色? なんだいそりゃ?」



 僕はかいつまんで昨日見たものを勘吉さんに話す。


 だだっ広い平原とお城のような建物。


 そして、空を飛ぶ大きなトカゲ。


 勘吉さんは首を捻ったまま、しばし黙り込む。


 やがて、ぽつりと口を開いた。



「……そりゃあ、黄泉かもしれないな」

「ヨミ?」

「簡潔に言えば、『あの世』みたいなもんだよ」

「あっ、あの世っ!?」



 ええっ!?


 もしかして僕、死んじゃうところだった!?



「で、でも、どうして御科岳に黄泉の世界が?」

「いやいや、黄泉ってのは僕のただの想像だよ? 昔、父から『奇妙な鳴き声を聞いたら絶対に山に入るな。黄泉に連れていかれる』って言われてたからさ」

「奇妙な鳴き声?」



 ってなんだろう。


 動物の鳴き声とか?


 ていうか──。



「そんな怖い話があったんですね……」

「いわゆる俗信みたいなもんだから重く考える必要はないと思うけどね」

「御科岳って大昔は『オバケ山』って名前だったんでしょ?」



 キッチンから声が聞こえた。


 お皿を洗っている静流さんだ。



「その『オバケ山』が『御化山』になって、次第に『御科山』に変化して、今の『御科岳』になったってお義父さんから聞いたことがあるわ」

「……オ、オバケ山」



 そ、それってマジなやつじゃないですか?


 そんな名前で呼ばれてたってことは、オバケの目撃情報があったってことだろうし。


 う、ううむ……。


 可愛いオバケなら大歓迎なんだけどな。


 ほら、ウチのアヒルちゃんみたいな感じで──。



「……あれ?」



 と、ついさっきまで走り回っていたモチたちが、はるかちゃんと一緒にリビングのど真ん中で寝ているのに気づく。



「モチたち寝ちゃいましたか?」

「みたいね。ふふ、可愛い」



 口元をほころばせる静流さん。


 しかしまぁ、気持ちよさそうに寝ちゃって。


 仲が良いを通り越して、姉妹みたいになっちゃってるじゃん。


 ……可愛いから写真撮っとこ。

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