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第四十六話

 メノウさんやモチたちと一緒に、広場を見てまわることにした。


 広場の中心には噴水があって、その周囲をぐるっとまわるように、色々な形のテントが張られている。


 現代人にも馴染のあるとんがり屋根のテントにはじまり、屋根が横に広い横長テント、一枚の布をポールで支えているだけの無骨なもの……。


 さらに、丸っこい形の遊牧民が使ってそうなテントもある。


 中には荷馬車の荷台部分を使って商売をしている人も。


 多分、遠くからやってきて、そのまま商品を売っているんだろうな。


 テントの形だけみても色々な種類があって面白いな。



「しかし、いろいろなものが売られてるんですね」



 広場を歩きながら、テントに並んでいる商品を眺めていく。


 青いガラスのような材質で作られた四角いアクセサリーや、古めかしい地図。


 魔物の頭蓋骨に爪。


 金ピカに光っている甲冑や、細長い剣。


 日本の甲冑みたいな鎧もあった。



「これは多分、東方からやってきたキャラバンでしょうね」



 日本の甲冑が売られているテントを見て、メノウさんが言った。


 東方に日本みたいな国があるのかな?


 そんな国があるなら、行ってみたい。


 なんて考えながら鎧を見ていると、キャラバンの商人さんから「旅のお供にどうだ?」と勧められた。


 なんでもドラゴンの炎を防ぐくらい、スゴイ鎧なのだとか。


 それを聞いてメノウさんが胡散臭い顔をしていたけど、本当なんだろうか。


 まぁ、どちらにしろ僕には不要なものなので丁重に断った。


 御科岳で生活する上で、鎧なんていらないからね。


 神埼さんにプレゼントしたら「山の中を歩くときに使えるッスね!」って喜ばれそうだけど。



「しかし、馴れてますね」

「……え?」



 ふと隣を見ると、メノウさんが僕を見てなにかに感心していた。



「何がです?」

「あ、いや、神獣様たちはアキラさんにすごく慣れているなと」

「ああ、こいつらですか」



 僕の両手にすっぽり収まっているポテとテケテケを見る。


 テントを見てまわるにあたり、アヒルちゃんたちが粗相しないよう、しっかり抱えているのだ。


 ポテとテケテケは僕の両手に、モチは僕の頭の上に乗っている。


 アヒルちゃんたちが「コレ、ナニガ〜」とか言って商品を突っつきまくったら大変だからね。


 そんなアヒルちゃんを見て、メノウさんが笑う。



「ふふ、めちゃくちゃ可愛いですね」

「でしょ? 自慢のアヒルたちです」

「ぐわっ!」



 どうだと言わんばかりに、ポテが鳴いた。


 それを見て、キャラバンの商人さんも笑顔を覗かせる。


 流石アヒルちゃん。


 どこでも見た人を幸せにしてくれる。


 そんなふうにアヒルちゃんたちを抱え、メノウさんと次に向かったのは食材が並んでいるテントだった。


 カラフルないちじくみたいな果物や、木の実……さらには巨大な肉が売られている。



「で、でっかい肉ですね……」

「おお、レッドディアの肉だ」



 ほほう、嘆息混じりでメノウさんが言う。


 テントの前にドドンと置かれている巨大な赤身の肉は、ルソー近郊の山に生息している豚の魔物の肉らしい。



「え? 魔物って食べられるんですか?」

「もちろんです。レッドディアの肉は脂身も多くてすごく美味しいですよ」

「へぇ〜……そうなんですね」



 メノウさんに言われ、まじまじとレッドディアの肉を見る。


 脂身が網目状に沈着していて、霜が降りている。


 確かにこれは……すごく美味しそう。



「ウマソウガ〜」

「タベタイガ〜」

「アキラ、カウガ〜」



 アヒルちゃんも興味を示しているみたい。


 だけど買う金はないから。



「食べてみます?」



 そう尋ねてきたのはメノウさんだ。


 僕はしばしキョトンとしてしまった。



「……え? いいんですか?」

「もちろんです。案内してくれたお礼をすると言ったじゃないですか」



 あ、そういえばそんなことを言ってくれてたっけ。


 高価なものは避けたいと思ったけど、値段を聞けば一般的な食材と同等の値段だという。



「ありがとうございます。それではお言葉に甘えて」

「わかりました。では、商人さん、こちらの肉を400グラムほど下さい」

「あいよ! 1000デニーね!」



 メノウさんが商人さんに、10枚の銀貨を渡す。


 通貨の価値がどれくらいあるのかはわからないけど、大体100デニーで100円くらいかな?


 現代だと豚モモ肉400グラムで1000円くらいだし。


 モンスター肉も一般的な食材と変わらない値段って言ってたから、それくらいだろう。



「どうぞ、アキラさん」

「ありがとうございます……と、お前らおとなしくしててな?」

「くわっ」



 ポテとテケテケを地面におろし、メノウさんからミートペーパーのようなもの(多分薄く木を切って作られた日本の経木みたいなやつ)で包まれた肉をいただく。


 ズシッとした重みが。


 400グラムって意外と大きいよな。


 このまま家に持って帰ってもいいけど、生肉だから早めに食べたほうがいいよね?


 荷物もかさばるし。


 ううむ、となるとどこかで調理したいところだけど……。



「メノウさん、この街で料理ができる場所とかあります?」

「え? 料理ですか?」

「はい。キッチンを貸してくれるところがあると嬉しいのですが」

「宿屋の店主にお願いすれば貸してもらえると思いますが……え? 今から料理を作るんです?」

「はい、このレッドディアの肉を使って料理をしてみようかと。メノウさんも一緒にどうです?」

「……すごく興味がありますね」



 レッドディアの肉を見て、じゅるっとよだれをすするメノウさん。


 家でヤマメの甘酢だれ天ぷらを食べて、僕の料理を気に入ってくれたのかもしれない。


 400グラムって言ったら大体2、3人分だし、丁度いいよね。


 モチたちの分は……僕の分から分ける感じで。


 てなわけで、メノウさんに宿屋まで案内してもらうことになった。


 広場を抜けて、家屋が立ち並ぶ中を歩いていく。


 ルソーの町って意外と広そうだし、結構遠いのかな……と思ったけど、2、3分ほどで宿屋に到着した。


 めちゃ近かった。


 良く考えると宿屋って利用する人が一番多い店だろうし、町の入口から近い場所に建てられるか。


 宿屋も他の建物と同じハーフティンバー様式で、入口にベッドのイラストが入った看板が掲げられていた。


 扉を開けて店内に。



「おお」



 宿屋の内装を見て、思わず声が出てしまった。


 この建物は二階建てみたいだけど、天井が高く吹き抜けになっていて2階の窓から明かりが差し込んでいる。


 開放感があってすごくオシャレ。


 ヒノキで作られているのか、森の中にいるような清涼感のあるヒノキの香りが漂っている。


 そんな宿屋の店主さんにメノウさんがお願いしたところ、ふたつ返事で宿屋のキッチンを貸してもらうことになった。


 そんな気軽に貸してもらえるなんてありがたすぎる。


 もしかしてキッチンをレンタルしている商売をしているのかと思ったけど、どうやらメノウさんの知り合いらしい。


 以前から懇意にしていて、食材を卸しているのだとか。


 なるほど。お得意先だったのか。



「料理を作るなら、他にも食材がいるだろ? ウチのを使っていいぜ」



 店主さんが目尻に深いシワを作りながら、そう言ってくれた。


 おお、マジですか。


 これは店主さんにもご馳走しないといけないですな。


 というわけで、メノウさんと店主さんにはちょいと待ってもらい、キッチンへと向かう。


 宿屋のキッチンは意外と広く、調理器具も一式揃っているようだった。


 一番スペースを取っているのはかまどで、薪を使って火を起こすみたい。


 ここに鍋をかけて料理をするんだろう。


 初めて見るけど……うん、問題なく使えそうだ。



「ナニツクルガ〜?」



 頭の上からモチが尋ねてきた。


 ちなみにポテとテケテケはメノウさんと一緒にテーブルで待っている。



「そうだね……見たところ、お米とか魚もあるみたいだし……」



 キッチンに置かれている食材をざっと眺める。


 肉にお米、魚。


 美味しそうな野菜もある。


 この食材を使えば何でも作れそうだけど、あまり難しいものは作りたくないよね。初めて使うキッチンだし。


 となれば──。



「よし、シンプルにしゃぶしゃぶにしよう!」

「シャブシャブ?」

「あれ? モチは食べたことなかったっけ? 薄切りの肉を湯にくぐらせて食べる鍋料理だよ」

「ナベ!?」



 バタバタっと翼を羽ばたかせるモチ。



「ニクナベ、サイコウガ〜!」

「驚くのはまだ早いよ? やるのは普通のしゃぶしゃぶじゃなくて……ちょっと特殊な『おかゆしゃぶしゃぶ』だ!」

「ぐわっ!? オカユ!?」



 モチが、気持ちいいくらいにびっくりしてくれた。


 ふふふ、どんな料理なのか想像できまい!


 だけど最高に美味いから、期待しといて!


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― 新着の感想 ―
おもしろくて一気読みでした!更新楽しみにしています
どんな料理が出てくるのか…楽しみだ
おかゆでしゃぶしゃぶ・・・?!
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