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第四十五話

 僕たちがルソーの町を見た場所から少し歩くと、綺麗に整備された道が通っていた。


 道幅は大体車が一台通れるくらい。


 平たい石を敷きつめて作られた道で、多少デコボコしているけど山の中を歩くよりだいぶ歩きやすい。


 そんな石畳の道は、ずっと山の上──僕たちが目的地にしている異世界の町ルソーまで続いているようだった。


 しかし、とそんな山の頂上に広がるルソーの町を望みながら思う。


 なんであんなところに町を作ろうと思ったんだろう?



「メノウさん、ルソーってなんで山の頂上に?」

「ルソーは元々、鉱山の町だったんです。ほとんど廃鉱になってしまいたけどね。今は観光地として有名なんですよ」

「へぇ、そうなんですね!」



 メノウさんが言うには、その観光客を相手にした商売も盛んなのだとか。


 そうか、観光地か。


 最初に訪れる異世界の町としては、おあつらえ向きじゃない?


 危険もなさそうだし、色々なお店があるなら買い物もできそうだし。


 まぁ、この世界の通貨は持ってないけど。



「ぐわっ、ぐわっ」



 と、僕の隣から楽しそうな声が。



「わっわっわっ?」

「ぐ〜っ、ぐ〜っ」



 モチたち3匹がなにやら会話をしながら、楽しそうに歩いている。


 いや、普段の散歩のときも楽しそうなんだけど、今日はいつも以上っていうか。


 もしかして、故郷の世界に帰ってきて嬉しいのかな?


 「やっぱり故郷の空気は違うが〜」なんて言ってるのかもしれない。可愛いやつらめ。


 そして、石畳の道を歩くこと10分ほど。


 ようやく異世界の町ルソーに到着した。


 ──と言っても、「ここからがルソーの町です」というどデカい門や看板があるわけじゃなく、住居っぽい建物が立ち並ぶ区画に来ただけだけど。


 地面は石畳ではなく、板で作られた足場になっている。


 なんでここから板貼りなんだろうと不思議に思って手すりから顔を覗かせてみると、理由がわかった。


 下は断崖絶壁だった。ちょっと怖い。


 なるほど。道がないからこうやって足場を作っているんだな。


 足場の下にも町が広がっていて、かなりの人が住んでいることが窺い知れる。



「ルソーは下層、中層、上層の3つの層に分かれている町なんですよ」



 そう説明してくれたのは、リノアちゃんだ。



「ここは中層で、大きな荷馬車などは上層を通って町に入るんです。お店や牧場もありますよ」

「牧場!?」



 ちょっとびっくりしてしまった。


 スペースがないからこうやって足場を作るくらいなのに、家畜を放し飼いできる場所があるんだな。


 上層は開けた場所なんだろうか。


 リノアちゃんがメノウさんに尋ねる。



「メノウさんが行くのも上層ですよね?」

「そうですね。町の商会に用事がありまして」

「私も上層にある教会に行くので、みんなでそこまで行きましょうか」



 板張りの道を歩いていく。


 中層は住居区画らしい。


 木製の建物がずらりと並んでいるんだけど、よく見ると崖の張り出した部分に基礎を作っていた。


 中には住宅の屋根を道として利用している場所も。


 なるほど。こうやってスペースを確保しているんだな。狭い場所に住む知恵みたいなものか。


 しばらく歩いていると、石で作られた階段があった。


 階段の蹴上(段の高さ)が異様に高く、踏み板の部分が狭い。


 かなり急勾配な階段だ。



「ここを登れば上層ですよ」



 涼しい顔でそう言ったのはリノアちゃん。


 ひょいひょいと身軽に階段を登っていく。


 さ、流石は神獣巫女様だな。凄まじく身が軽い。


 そういや、初めてウチに来たとき、庭の壁を余裕で飛び越えて来てたっけ……。


 超人的な身体能力を持ってるリノアちゃんには楽勝かもしれないけど、一般人にこの階段は辛いよ。


 ねぇ、メノウさん?


 と、彼を見たんだけど──



「あと少しです! 頑張りましょう、アキラさん!」



 と、メノウさんもにこやかな表情で階段を軽快に登っていく。


 それを見て、唖然としてしまう僕。


 ちょっと待って? メノウさんってば、相当運動オンチじゃなかったの?


 御科岳で滑り落ちて怪我してたじゃない……。


 もしかして異世界の人たちって、基礎体力がすごいのかな?


 だってほら、通りすがる人たちも余裕で上り下りしてるし。



「ぐわっ」  



 げんなりしてる僕をよそに、テケテケがぴょんぴょんと小さくジャンプを繰り返しながら階段を登っていく。



「ぐっぐっ」

「くわっ」



 そして、モチとポテもその後に付いていく。


 彼女らは3、4段ほど登ってくるりと僕のほうを振り返った。



「アキラ、チョットオソイガー」

「アキラ、ガンバルガー」

「アキラ、オンブシテホシイガ〜?」

「……ほ、ほしくない」



 なんて返したものの、めちゃくちゃおんぶして欲しい。


 だけど、人間としてのプライドが許さないんだよっ……!


 ていうか、巨大なグリフィンの姿ならまだしも、アヒルの姿で人間をおんぶしたら潰れちゃうだろ……。


 ちなみに、頑張れと応援してくれたのがモチで、けなしてきたのが他のやつら。


 くっ、か弱い僕の味方はモチちゃんだけなのかっ……。



「……僕、頑張るよ、モチ」

「くわ〜っ」



 バタバタと翼を羽ばたかせるモチちゃんの応援を受けながら、階段を登り始める僕。


 リノアちゃんたちの倍以上の時間をかけ、這々の体でなんとか階段を登りきった。



「お疲れ様です、アキラ様」

「あ、ありがとう、リノアちゃん……ひぃ、ひぃ」



 思わず膝に両手をついて、うなだれてしまった。


 もう太ももがパンパンになっちゃったよ……。


 そんな僕にメノウさんが声をかける。



「見て下さいアキラさん。上層ですよ」

「……おおっ!? すごい!」


 その場に崩れ落ちそうになってしまった僕だけれど、目の前に広がっていた光景を見て、疲れが一瞬で吹っ飛んでしまった。


 上層は中層と違って、まさに「町」という雰囲気だった。


 先程までは建築物は崖の張り出した部分に建てられていたのに、広大なスペースに多種多様な建物が建っていた。


 屋根を通路として使う必要がないため、屋根は普通の形をしていてオレンジ色の洋瓦で覆われている。


 全体的な見た目も、梁や柱といった軸組が露出しているハーフティンバー様式で、実にオシャレだ。


 この町は観光地として知られているって言ってたし、上層はお金をかけているんだろうな。


 もしくはお金持ちが住んでいる区画とか?



「それでは中心地まで行きましょうか」



 リノアちゃんを先頭に、そんなルソーの町の上層を歩いていく。


 ここの道は石畳になっていて、多くの人や荷馬車が行き交っている。


 山の頂上ともあって、至る所に雪の姿も。


 立ち並ぶ建物はほとんどがお店みたい。


 金物屋に皮革屋。木工屋に八百屋。


 中には剣や斧、鎧が並んでいる鍛冶屋に、かすかに発光している液体が入った小瓶が売られている錬金屋なんてお店もあった。


 あれってポーションとかそういう薬なのかな?


 ひとつひとつ見て回りたかったけど、ちょっと我慢。


 まずはメノウさんの案内を優先しないとね。


 そうして、たどり着いたのは小さな広場だった。


 大小様々なテントが張られていて、かなりの賑わいを見せている。


 市が開かれているのかもしれない。


 どんなモノが売られているのか興味があったけど、僕の視線を釘付にしたのは、広場をのんびりと歩いている「とある生き物」だった。


 端的に言えば、羊と牛をかけ合わせたような見た目。


 体には黒いもこもこの毛が生えていて、すこし垂れ下がっている大きな耳や、鋭い角などの頭の特徴は牛そのものだ。



「……ねぇ、リノアちゃん。あれってもしかして、神獣様?」



 不思議な生き物だったので、つい尋ねてしまった。


 リノアちゃんはしばしぽかんとして、ああと気づく。



「違いますよ。あれはバンゴーニャというただの家畜です。アキラ様の世界にはいないんですか?」

「バンゴーニャ……初めて聞く名前だ」



 あの生き物は異世界では良く見る家畜で、見た目どおり羊毛と牛のミルクが取れるらしい。


 あ、そう言えば上層には牧場もあるっていってたっけ。


 どこにあるんだろうと周囲を見渡し、建物の奥にそれらしきものを発見した。


 遠くてよくわからないけど、黒いもこもこしたものがたくさんいる。


 多分、バンゴーニャの群れだな。



「……さて、とりあえずここで案内は終わりですね」



 そう切り出したのは、リノアちゃんだ。


 メノウさんが深々と頭をさげる。



「本当にありがとうございました。神獣巫女様」

「いえいえ、こちらこそ。色々とご迷惑をおかけしました」



 ペコリとリノアちゃんもお辞儀をする。


 ご迷惑というのは、偶然ゲートをくぐってしまったことだろう。


 悪いのは教会であってリノアちゃんではないのだけれど、責任感が強いんだろうな。



「アキラ様」



 と、そんなリノアちゃんが僕に続ける。



「私は教会にいますので、ジェラノにお戻りになりたい場合はお声がけください。また道案内させていただきます。場所はこの広場から北に少し歩いた場所です」

「ありがとう。助かるよ」

「それでは失礼します」



 リノアちゃんはスカートの裾を掴んで恭しくお辞儀をすると、雑踏の中に消えていった。


 本当に助かったな。今度、リノアちゃんがウチに遊びに来たときは山盛りのイチゴ豆大福で歓迎してあげよう。



「さて、メノウさんはどうします?」



 リノアちゃんを見送り、メノウさんに尋ねた。


 彼は「う〜ん」と首を捻った。



「商会に行く前に、ちょっと市場の市場調査をしておきたいですね……」

「市場?」

「あれですよ」



 メノウさんが指さしたのは、広場に並ぶテントだった。



「今日は定例市の日だったみたいです。ほんと、ラッキーですね」



 メノウさんが言うには、この市は月に一回開催されているらしい。


 ルソーの特産品や、周辺の山で取れる食材が安価で買えるのだとか。


 そんな日に来られるなんて、本当にラッキーだな。



「アキラさんも一緒に見てまわります?」

「ぜひ。どんなものが売っているのか気になります」

「ではそうしましょうか。何か欲しいものがあったらお声かけください。お世話になったお礼にプレゼントしますので」

「ええっ!? 本当ですか!? ありがとうございます!」



 これは嬉しい。


 この世界のお金は持ってないから、欲しいものがあっても買えないなって思ってたんだよね。


 そんな心優しいメノウさんを見て、モチたちが「オマエ、イイヤツダッタガー!?」と驚いたような声をあげた。


 いやお前ら、メノウさんのことを何だと思ってたの?


 てなわけで、メノウさんやモチたちと一緒に、異世界の市場をまわることにした。


 さてさて、どんなものが売ってるのかな?

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