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第四十三話

 突然現れた異世界人……と思わしき男性、メノウさん。


 こちらも軽く自己紹介したんだけど、メノウさんの興味は僕じゃなくミニグリルに向けられていた。



「しかし、凄いコンロですね。以前に東の国で魔晶石を使った魔道コンロを見たことがありますが、携帯できるような大きさじゃありませんでしたよ。これはアキラさんが作ったのですか?」

「いやいや、まさか。市販されているやつですよ」

「……えええっ!? 量産されているんですかコレ!?」



 素っ頓狂な声をあげるメノウさん。



「じょ、冗談でしょう? こんな凄いものが流通しているなんて……前にルソーに来たときはそんな話は全く出なかったのに。私が町を離れてから腕利きの魔道具師さんがギルドに来たのかな……? いや、でもそんな話は──」



 ぶつぶつ。ぶつぶつぶつ。


 何やら難しい顔で独り言をはじめるメノウさん。


 言葉の節々から察するに、やっぱり異世界の人みたいだな。


 しかし、こんなにミニコンロに興味を示すなんて。


 行商人って言ってたし、商売のニオイを嗅ぎつけたのかもしれない。


 まぁ、現代でしか売ってないから買い付けるのは無理だと思うけど。



「ぐっ、ぐっ」



 ポテポテっとポテがやってきた。


 ヒョイッと僕の足元から顔を覗かせ、眉間にシワを寄せているメノウさんを不思議そうに見る。



「オマエ、ダレガ〜?」

「……っ!?」



 おい、初手で失礼発言やめろ。


 だけどメノウさんは、怒るどころか目を丸くしている。



「ちょ、ちょっと待ってください!? 今、言葉を喋りましたよね? も、もしやそのアヒル……神獣様ですか!?」

「ええ、そうみたいです。見た目はアヒルですがグリフィンという神獣様みたいで」

「ググ、グリフィン!?」



 ヒョイッとポテを抱きかかえ、唖然としているメノウさんに見せる。


 見た目はもっちりした可愛いアヒルちゃんだけど、本来の姿は大鷹の頭に獅子の体を持つ神獣様なんですって。


 全然想像できないよね。



「未知のコンロに神獣様……ハッ!?」



 メノウさんはしばし思案し、僕の顔を見てハッとした。



「も、もしやここは、異世界に通じているという神獣様が集まる神域、ジェラノなのですか!?」

「ジェラノ……?」



 はて?


 どこかで聞いたことがあるような……。


 あ、そうだ。


 リノアちゃんが言ってた、異世界での御科岳の呼び名だ。



「多分あっていると思います」

「な、なんと! ということは、アキラさんは神獣巫女様なので!?」

「それはちょっと違いますね」



 とりあえず、事情を軽く説明した。


 仕事を辞めて山暮らしを始めたこと。


 祖父の家が神獣様の療養の場である神域になっていて、そこの管理を神獣巫女のリノアちゃんから任せられたこと。



「それで、メノウさんはどうしてこの山に?」

「実は商談のためにこの山の麓にあるルソーという町に向かっていたのですが」

「……え? 麓?」



 首をひねってしまった。


 だって、ここって御科岳のど真ん中だし。



「どうして麓に行くのに、こんな山奥に?」

「さぁ、どうしてですかね?」



 にこやかに笑うメノウさん。


 しばし思案。


 ……あ、わかった。


 この人、相当な方向オンチだ。


 よく見ると服装が泥だらけだし、かなり長い間、山の中を彷徨っていたのかもしれない。



「あの、怪我とかしてませんか?」

「お気遣いありがとうございます。大変お恥ずかしい話なのですが、崖から転落して足を痛めてしまいまして……おまけに荷物をなくして2日ほど山をさまよう羽目に」

「そ、それは大変だ」



 てことは、2日間ろくに何も食べてないってことだよね?


 これは迷っているというより遭難しているって表現が正しいかもしれない。



「ウチに来ますか? そこで手当てしますよ。ご飯もありますし」

「……ええっ、良いんですか?」

「はい。異世界の方には色々とお世話になっているので」



 主にリノアちゃんとか。


 神気を使えばここでも応急処置はできるけど、家でしっかり手当てしたほうが良いよね。食べ物もいっぱいあるしさ。


 というわけで、メノウさんと一緒に家へと向かうことになった。


 足を痛めているのか、ひとりで歩くのが辛そうだったので肩を貸してゆっくりと歩く。



「ほ、本当にすみません。何から何まで……」

「いえいえ」



 アヒルちゃんたちも心配だったのか、前を歩きながら時折「ダイジョウブガ〜?」とこちらの様子を窺っているのが可愛かった。


 そうして歩くこと30分ほど。


 来たときより時間がかかっちゃったけど、無事に自宅に到着。


 庭を覗いてみたけれど、神獣様たちは来ていないようだった。



「どうぞお上がりください」

「ありがとうございます。しかし、ジェラノの『神屋』にお邪魔できる日が来るなんて……感激です!」



 玄関で瞳をウルウルさせるメノウさん。


 そう言えばリノアちゃんも同じようなことを言ってたな……。


 異世界の人たちにとって、神様の家にお邪魔するのと同等なのかもしれない。


 だけど、そう考えると少しだけ不安になってしまった。


 怪我をしているみたいだから案内しちゃったけど、部外者を連れてきて平気だったかな?


 リノアちゃんに「アキラ様は守り人としての自覚がなさすぎます!」って怒られちゃうかもしれない。


 だけど、怪我の手当てをしてあげないと可哀想だしなぁ……。


 神埼さんもしょっちゅう遊びに来てるし、良いよね。


 うん、良い良い。


 メノウさんをリビングへと案内して、ソファーに座ってもらう。



「とりあえず怪我の応急処置をしちゃいましょうか」

「ありがとうございます」



 リビングに置いてある救急箱から湿布を取り出し、メノウさんの右足首にペタッと貼った。


 ついでに患部に手のひらを当て、神気を注入。


 移動型神域のパワー全開である。



「……あ、痛みが」

「落ち着きましたか?」

「落ち着くどころか一瞬で消えてしまいました。もしかしてアキラさんって、治療魔法が使えるんですか?」

「これは魔法じゃなくて神……湿布の力ですね」



 あはは、と愛想笑い。


 別にリノアちゃんから口止めされてるわけじゃないけど、神気を出せるようになった件はあまり口外しないほうがいいかもだよな。


 一方のメノウさんは足に貼られたシップに興味津々で、「どこで買えるのですか?」とか「ひとつ何デニーでしょうか?」なんて事細かく聞かれてしまった。


 デニーというのが異世界の通貨らしい。


 この湿布は麓の薬局で売ってるやつなんだけど、異世界に持っていったらバク売れしそうだな。


 異世界の医療技術に多大な影響を及ぼしそうだからやらないけど。


 てなわけで、湿布に興味津々なメノウさんにはモチたちと一緒にリビングで休んでもらい、僕はキッチンへと向かうことに。



「ちょっとご飯を作ってきますね。お前ら、メノウさんをよろしくな」

「ぐわ〜っ」

「マカセロ〜」

「ゴハンタベタイ」



 テケテケさん、しっかりおねだりも忘れない。


 ていうかお前ら、さっきヤマメ食べたばっかりだろ……。


 本当に成長期なのか!?



「しかし、何を作るかな」



 キッチンでう〜んと首をひねる。


 さっき釣ったヤマメが大量にあるから、これを使いたいところだけど……。



「……よし、天ぷらにするか!」



 カリッと揚げたヤマメに甘酢だれをかけたやつ。


 ご飯にのせたらめちゃくちゃ美味いんだよね。


 メニューを決めたところで、料理開始。


 油をフライパンに入れて熱している間、ヤマメの下処理をする。


 包丁で腹を開いて内臓やエラを取り除いてから、さっと水洗い。


 姿揚げにする分はこのまま置いて、他は頭を切ってから三枚におろし、あばら骨を綺麗に取る。


 ここが残ってると食べにくいからね。


 菜箸を油につけて温度を確認。


 大きな泡が勢いよく出てきたら準備OKだ。


 小麦粉と卵、水を混ぜて作った衣にヤマメをさっとくぐらせ、油の中に投入する。


 ジュワッと泡が上がり、パチパチと小さな泡が絶え間なく浮かんでくる。



「……おお、美味そうだな」



 思わずゴクリと唾を飲み込んでしまった。


 つまみ食いしたいけど、我慢。


 そんなことをしていたら、モチたちに怒られるからな。



「……んが〜」



 なんて思ってたら、柱の影からこちらを監視しているモチの姿が。


 ほらみたことか。



「ツマミグイ、シテナイガ〜?」

「し、してないから!」



 いい感じに揚がったヤマメは、キッチンペーパーの上に置いて余計な油を落とす。


 お次は甘酢だれを作るか。


 別のフライパンに酢を入れ、醤油、砂糖を適量投入し、火にかけながら混ぜていく。


 ここでちょいと味見を。



「……ん〜? ちょっと酢が強いか?」



 甘酢だから、甘くないとね。


 醤油と砂糖を少々追加。


 ここらへんは感覚だ。


 最後に薄力粉を入れて軽く混ぜた後、とろみが出てきたらタマネギを投入。


 タマネギにしっかり熱が通ったら、甘酢だれの完成だ。


 どんぶりご飯にヤマメを乗せ、甘酢だれをトロリとかける。


 うわ……めちゃくちゃ美味しそう。


 メノウさんとアヒルちゃんたちの分を作って、リビングに持っていく。



「な、何ですかこれ!?」



 どんぶりを見て、メノウさんが素っ頓狂な声をあげた。



「これは魚……ですか?」

「はい。ヤマメの甘酢だれ天ぷら丼です」

「アマズダレ……?」



 メノウさんが不思議そうに首をひねった。


 甘酢だれは異世界に無いんだろうな。


 あ。もしかすると天ぷらも初めてなのかも?



「とりあえず食べてみてください。すごく美味しいですから」

「……で、ではお言葉に甘えて」



 恐る恐るフォークでヤマメの天ぷらを頬張るメノウさん。


 サクッといい音がして──。



「うわっ!? ナニコレ!?」



 またしても驚嘆の声が響く。



「とろっとした甘酸っぱいタレにサクサクの食感……なのに、中はフワフワジューシーで、めちゃくちゃ美味しいんですけど!?」

「白ご飯と一緒に食べるともっと美味しいですよ」

「……白ご飯? あっ、なるほど! 下にお米があったんですね!」 



 ようやくどんぶりの構造を把握したらしく、ヤマメの天ぷらと一緒にご飯をパクっと食べる。


 瞬間、目がまんまるに。



「……あっ」

「どうです?」

「あっ……ああああああっ」



 ガツガツとどんぶりを掻っ込みはじめるメノウさん。



「うわぁあああっ! 手が……ご飯を食べる手が止まらないっ!」

「あはは、お気に召したようで良かった」



 こんなに美味しそうに食べてくれるなんて、作った甲斐があったよ。


 ひとまずメノウさんとアヒルちゃんたちの分を用意したけど、晩ごはんのときに僕も食べよっと。



「ぐ〜! ちゃむちゃむ!」

「ぐわっぐわっ!」

「テンプラ、ウマイ!」



 ヤマメの姿揚げをあげたアヒルちゃんたちも、一心不乱に食べていた。


 頭から食らいつき、あっという間に胃袋に。


 流石の食欲である。


 ものの数分でメノウさんとアヒルちゃんのどんぶりが空っぽになってしまった。



「……いやぁ、ご馳走さまでした」



 メノウさんが、満足げな顔で手を合わせる。



「本当に美味しかったです。これが異世界の料理なのですね」

「お粗末様でした」



 お口直しに日本茶を出したけど、それもすごく驚かれた。


 こんな味がしっかりとした飲み物は初めてだったみたい。


 普段どんな飲み物を飲んでるんだろ……。



「しかし、何から何まで本当にありがとうございます、アキラさん」

「ここで会ったのもなにかの縁ですからね」



 だけど、これで無事に山を降りられるだろう。


 ──と、思ったんだけど、一抹の不安が頭をよぎる。


 メノウさん、本当に無事に山を降りられるんだろうか……。


 だってほら、結構方向音痴みたいだし。


 勘吉さんの家がある側の山の麓に降りちゃって警察に保護されて全国ニュースになっちゃいました……みたいな未来が容易に想像できる。



「あ、あの……良ければルソーの町までご一緒しましょうか?」



 なので、そう申し出た。


 キョトンとした顔をするメノウさん。



「案内、ですか?」

「ここに神獣巫女の方が良くいらっしゃるので、彼女も一緒なら迷うことなく山を降りられると思いますし」

「ええっ!? ほ、本当ですか!?」



 メノウさんが、ここ一番の驚いた顔を見せる。



「実はお恥ずかしながら、山を降りられるか心配で……」

「やはりそうでしたか」



 申し出て良かった。



「土地勘がある方に案内していただけるのはとても心強いです。でも、アキラさんは大丈夫なんですか?」

「構いませんよ。特に予定はありませんし」



 この先、決まっている予定があるとすれば勘吉さんの畑を手伝うくらいだからな。


 それに、異世界の町ってすごい興味があるし。


 リノアちゃんひとりに任せてもいいんだけど、せっかくなら異世界の町とか行ってみたいじゃない?



「……ん?」



 何やら下から視線を感じた。


 モチたちである。



「……あ、モチたちも行く?」

「モチロンガ〜!」

「イクガ~!」

「ヒガエリリョコウガ〜!」



 バタバタと翼を羽ばたかせながら、メノウさん以上に喜ぶアヒルちゃんズ。


 日帰り旅行なんて言葉、どこで覚えたのやら。


 でもまぁ、はしゃぐ気持はわからんでもないけど。


 初めての異世界なんて、ちょっとワクワクしちゃうよね!!


 ……あ、モチたちは初めてじゃないのか。


 そうして僕は、ひょんなことから初めての異世界に足を踏み入れることになったのだった。

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