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第二十六話

 ひとまずリノアちゃんに、ここに住むに至った経緯を説明するためリビングに案内することに。


 いや、誤解は解けたわけだし終わりにしてもよかったんだけど、異世界のこととかも色々と聞きたかったしさ。



「大したおもてなしはできませんが、どうぞ」

「……」



 玄関まで来たところで、リノアちゃんは唖然とした顔で立ちすくんだ。



「ど、どうしました?」

「まさか神屋(しんおく)にお邪魔できるなんて、リノアは光栄でございます」



 なんだか感激している様子。


 そんなに大したものじゃないと思うんだけどな。


 いや、住まわせてもらってるヤツが偉そうに言うなって話なんだけどさ。



「失礼いたします」



 ペコリとお辞儀をして、いそいそと靴を脱ぐリノアちゃん。


 そして、土間から式台に上がったとき、びっくりしてしまった。


 彼女の背がギュギュッと縮んでしまった!


 ──と言っても、実際に背が縮んじゃったわけじゃなく。


 フリフリのスカートで見えなかったけど、リノアちゃんはかなりの厚底ブーツをはいていたみたい。


 いや、厚底っていうか、天狗がはいている一本歯の下駄みたいな感じ。


 すんご〜く底の部分が長い。



「……リノアの靴に何か?」

「い、いえ、なんでもありませんごめんなさい」



 ヤバいヤバい。


 めっちゃ睨まれた。


 これ、絶対気にしてるヤツだ。


 厚底靴を脱いだリノアちゃんはサイズ的に小学生から幼稚園児になっちゃったけど、雰囲気的には子供って感じはしないんだよね。


 一挙手一投足が大人びているっていうか、気品を感じるっていうか。



「お茶を用意するので、くつろいでいてください」

「ありがとうございます」



 リノアちゃんはお辞儀をしてからしばし思案し、ソファーの端っこにちょこんと座った。


 う~む、やっぱりちゃんとしてるなぁ。


 もしかして見た目以上に大人なのかもしれない。



「……さて、何を出そうかな」



 キッチンで頭を捻ってしまった。


 やっぱり日本茶がいいかな?


 だけどリノアちゃんは異世界人だし。


 剣と鎧を身につけてるところを見る限り、異世界は中世くらいの文明レベルなのかもしれない。


 となると、お茶よりワインのほうがいい?


 だってほら、あの時代の人って水のようにぶどう酒を飲んでたって聞くし。いやでも、未成年だったらまずいか?


 結局、2人分のお茶と、後からやってくるであろうアヒルちゃんたち用にミルクを用意してリビングへと戻る。



「ど、どうぞ」

「……?」



 差し出した湯呑みを見て、リノアちゃんが首をかしげる。



「これはなんでございましょう?」

「ええと、日本茶です」

「ニホンチャ……」



 リノアちゃんは訝しげな表情でくんくんと香りをかぐと、おっかなびっくりで口をつけた。



「に、にがっ……」



 くしゃっと顔をしかめるリノアちゃん。


 だけど、すぐにスンッと澄ました顔をする。



「お、お、おいしゅうございます!」

「良かったです。おかわりもありますので」

「お、おか……っ!? け、結構でございます!」



 あれ? あまり口に合わなかったのかな?


 やっぱりワインのほうがいいのかも。


 なんて思ってると、トテトテッとアヒルちゃんたちがやってきた。



「んが~」

「くわっくわっ」

「ぐわ~っ」

「はいはい、ちょっと待って」



 ミルクをあげると、嬉しそうについばみ始めた。


 ミルクなんて普通のアヒルは飲まないだろうけど、この子たちは好物みたいなんだよね。ホント変な奴らだ。



「改めて、先程のご無礼、申し訳ありませんでした」



 リノアちゃんが小さく頭を垂れる。


 つられて僕も頭を下げる。



「いえ、こちらこそしっかり説明するべきでした。ここって神獣様たちが療養する大切な場所みたいですし」

「お心遣い、痛み入ります」



 ニコリと微笑むリノアちゃん。



「ここ最近、原三郎様がいらっしゃらないという話を耳にしまして、神獣様たちに状況を詳しく聞いたところ、見知らぬ若い男性が頻繁に出入りしていると」



 見知らぬ若い男。


 間違いなく僕のことだな。



「それで、直感で賊の手に落ちてしまったと考えたリノアは、神域を聖潔な神の手に戻すべく、こうして馳せ参じたというわけです」

「な、なるほど……」



 リノアちゃんが言う「神獣巫女」とは神獣様に仕えてる国家公務員のようなもので、療養中の彼らを外敵から守るという大切な役割があるという。


 一方で神域を守り、そこを訪れる神獣様たちをもてなす「守り人」というのがおじいちゃんの仕事だったらしい。


 なるほど〜。ここに来て、凄い事実が発覚しちゃったな。


 ウチのおじいちゃんってば、異世界の人たちと交流してたんだね。


 スローライフマニュアルに書いててほしかったなぁ……。



「アキラ様は原三郎様のお孫様なのですよね?」

「そうですね。ええと……ちょっと説明しますね」



 僕がここに住むことになった経緯を一通り説明した。


 ふた月前に、おじいちゃんが亡くなったこと。


 そして、体を壊して仕事を辞めて、療養するためにアヒルちゃんたちと山暮らしを始めたこと。



「そういうことでしたか」



 ふむ、と唸るリノアちゃん。


 だけど、その表情は不満が払拭されていない……というか、全然納得していない感じがする。



「アキラ様は原三郎様のお孫様。とはいえまだお若く、神域を守る『守り人』としての自覚があるとは到底思えません」

「そうですね」



 だって、その守り人ってのになるつもりなんてないし。


 半リタイアしてアヒルちゃんたちとのんびり山暮らしをしてるだけだもん。



「ちなみに、おじいちゃんが守り人をやっていたんですよね?」

「そうです」

「どんなことをやってたんです?」

「原三郎様は神域の効力を保つために血の滲むような努力をなさっていました。庭掃除に害虫駆除……表の畑では沢山の命を育み、生命の息吹を循環させる。また、時折ジェラノに足を踏み入れ、危険分子が紛れ込んでいないかお散歩されていて──」

「僕がやってることじゃん!」



 思わず突っ込んでしまった。


 それって、ただのスローライフ!



「ち、違いますよっ!」



 ババッと立ち上がったリノアちゃんが、プクッと頬をふくらませる。


 何だ、何だ? すごく可愛いぞ?



「一緒ではありませんよ! 例え同じことをやっていたとしても、決意と使命感を持つことに意義があるのですっ!」

「そ、そうですか」



 良くわからないけど、感情論理的だな。


 ていうか、同じことをやってるって認識はあるのね……。



「と、とにかくですね! アキラ様が原三郎様から守り人の役目を継ぐのであれば、もっとも~っと努力が必要ということでございますっ!」

「わ、わかりました。努力します」



 だって、今やってることを続ければいいだけっぽいし。


 まぁ、継ぐつもりはないけど。


 僕が即答したのが意外だったのか、目をパチパチと瞬かせるリノアちゃん。



「……わ、解っていただけるなら、良しですが」



 ストンと腰を下ろす。


 それからリノアちゃんは、自身のことを色々と教えてくれた。


 さっきも言ってたけど、彼女は異世界リュミナスにある大きな国の王都出身で、神獣に仕える聖道教会所属の神獣巫女であり巫女騎士だという。


 リノアちゃんは神獣様たちの世話をしたり一緒に戦ったりする、誉れ高き仕事をしているんだとか。


 小さいのに大変だなぁ──と思ったけど、ちゃんと成人しているらしい。


 リノアちゃんはコロモックル人という種族で、見た目は子供だけど立派な大人なんだって。


 合法ロリ……いや、なんでもないです。



「が~」



 モチがミルクのおかわりを要求してきた。


 反射的にミルクをお皿に注ぐ。


 そうなることを予想して、牛乳パックを持ってきてたんですよね。



「あ、そういえばリノアちゃん」

「わたくしのことは『リノアさん』とお呼びください」



 ムッとした顔をされた。


 子供扱いされるのが嫌いなのかもしれない。


 威厳を大事にしてる感じっぽいし、そういうところ大事だよね、リノアちゃん。



「えと、リノアさん」

「はい、なんでございましょう?」



 一瞬で怒った顔から、天使スマイルへと変化する。



「さっき、ウチのアヒルちゃんたちと話をしてたみたいですけど、知り合いなんですか?」

「アヒル……? ああ、そちらのグリフィン様たちですか?」

「グリフィン?」



 首をかしげてしまった。



「はい。今はアヒルの姿をしていらっしゃいますが、本来の姿は猛々しい大鷹の翼と上半身に、強靭かつしなやかな獅子の下半身を持つ神獣様でございます」

「……マジですか」



 そこはかとなく、ビビってしまった。


 いや、前からもしかして神獣様なんじゃないかなとは思ってたけど、そんな凄いお方だったんですね。


 幸せそうな顔からは全然想像できないよ。



「だけど、どうしてアヒルの姿に?」

「3年前から続いている神魔戦争で魔力を失ってしまったからでございます」



 リノアちゃん曰く、異世界で魔物との大きな争いが起きていて、そこで力を失ったグリフィン様はアヒルちゃんの姿になってしまったらしい。


 神魔戦争……そう言えばそんなこと、白狼さんも言ってたっけ。


 アヒルちゃんたちの本来の姿はゆうに数メートルを超える巨体で、それを維持するのは大量の魔力が必要なんだとか。



「しかし、グリフィン様たちがこうも懐いているなんて驚きでございます。本来なら、わたくしたち神獣巫女にすら、こうも心をお開きにはならないのに」



 え? そうなの?


 初対面のときからすんごく横柄……じゃなくて懐いてた感じだったけど。


 リノアちゃんが、ジトッとした目で僕を見る。



「……もしかしてアキラ様、何かよからぬことをしていらっしゃいませんか?」

「えっ? よからぬこと?」



 ちょっとドキッとしてしまった。


 いやいや、寝てるときに羽毛の中に顔を突っ込んで、こっそりモフモフしたりしてませんよ? 決して。



「あっ! 今、ドキッとしましたね!?」

「……っ!? し、してません!」

「いいえ、しました! グリフィン様たちの思考を操るために、『操心の霊薬』を食事に混入させてるんじゃありませんか!?」

「してませんよそんなこと!」



 というか、何ですかそれ!?


 異世界にはそんな危険な薬があるの!?



「薬なんて使って無いし、アヒルちゃんたちにはウチで採れた野菜とか、ホームセンターで買ってきたペレットしかあげてませんから」

「信じられません! 今すぐグリフィン様たちのご飯を出してください! この聖道教会の神獣巫女リノア・リンデミッテが、曇りなき眼でその食事を改めさせていただきます!」

「いや、今すぐって……」

「さぁ! 今すぐ食事をお出ししてください! さもないと──」



 グリュリュリュリュリュ。


 まるで地響きのような音が鳴った。


 リノアちゃんのお腹である。



「……」



 静寂。


 沈黙。


 モチが「が~?」と可愛く鳴いた。



「えと、お腹、空いてます?」

「……す、少しだけ」



 恥ずかしそうに頬を赤らめるリノアちゃん。


 今のお腹の音は、少しってレベルじゃないと思うけど。


 でもまぁ、実際に料理を見てもらったらわかると思うし、とりあえずご飯にしますかね。

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[気になる点] この女明確にウザいだけだった
[一言] 面白いけど、リノアは不快だな。 日本の土地の所有者の資格を何で異世界人に問われなけりゃいけないのか。
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