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第二十四話

 てなわけで、さっき冷凍庫に突っ込んだ魚を出して、キッチンと庭の石窯を何度も往復することに。


 気分は人気レストランの料理人だ。



「くわっ」

「ぐっ」

「ぐわ、ぐわっ」



 アセアセと動いていると、アヒルちゃんたちがやってきた。


 おやつをもらいに来たのかな?


 と思ったんだけど、石窯をツンツン突き始める。



「……え? もしかして手伝ってくれるの?」

「テツダウが~」

「が~」

「マカセロが~」

「お、お前ら……っ」



 まさか料理まで手伝ってくれる日がくるなんて……。


 パパ感動した! パパじゃないけど!


 モチたちに協力してもらい、バケツリレーの要領でキッチンから石窯まで次々とホイルにくるまれたニジマスが運ばれていく。


 結局、全員分のホイル焼きが完成したのは夕方6時くらい。


 いい感じの夕食タイムだ。


 だけど、どこで食べよう?


 リビングに上がって貰うには神獣様の数が多すぎるし。



「……やっぱり縁側と庭か」



 ホント、このパターンが増えてるよね。


 そろそろ納屋とかにテーブルと椅子を用意したほうがいいかもしれないな。



「お待たせしました神獣様。料理が完成しました」

「おおっ、実に美味しそうな香りがします!」



 スンスンと鼻を鳴らすシカさん。


 一列に並んでいる神獣様たちに、一つずつホイル焼きを配っていく。


 配り終えたところで縁側の周囲に集まって、みんなで手を合わせる。



「それでは、いただきます!」

「いただきます」

「キュッ!」

「フゴゴッ!」

「ガウッ!」



 一斉にニジマスに食らいつく神獣様たち。


 何だか凄い光景だな。


 一心不乱に食べる様子は可愛くもあるけど……って、眺めてても腹は膨れないな。僕も食べようっと。


 ホイルを開いた瞬間、バターの香りが鼻腔をくすぐった。


 これは美味そう。


 早速、パクリ。


 ニジマスの甘みとバターの濃厚な味がよくマッチして、食べた後にレモンの爽やかさが口の中に広がっていく。


 ホクホクで食感も最高だし……うん、これはめちゃくちゃ美味しい。



「……いやぁ、これは美味ですな!」



 シカさんの声。


 なんだかハイテンションになっている。


 表情はわからないけど、すんごく喜んでるみたいだ。



「白狼がアキラ様の料理を気に入っている理由がよくわかりましたよ」

「え? 気に入ってくれてるんですか?」

「はい。『我が人生であれほど美味しい料理は食べたことがない』と。原三郎様の料理も大変美味でしたが、アキラ様の料理はなんというか……神域の力を感じます」

「そ、そんな、大げさですよ」



 神域の力を感じるとか。


 確かに僕ってば影響されやすい体質だけど、流石に神域に影響されるわけがないし。


 料理の腕なんて素人レベルだし、素材が良いだけだと思いますよ?



「えへ、えへへ」



 だけど、つい頬が緩んでしまう。


 神様に褒められるなんて、この先二度となさそうだもん。


 よし、今度白狼さんが来たら、いつもの倍くらいのご飯をごちそうしちゃおうっと。


 しかし、と美味しそうにニジマスを食べているシカさんを見て思う。


 改めて……というか、近くでまじまじと見て気付いたんだけど、シカさんってば、すんごい肌触りが良さそうな毛並みをお持ちでいらっしゃるな。


 普通シカって、ゴワゴワとしたタワシみたいな毛並みだよね?


 フワフワしてて羽毛みたいに風に揺れてるし。


 なんて思っていると、ばっちりシカさんと目が合う。



「……撫でますか?」



 もくもくとニジマスを食べながら、シカさんが尋ねてきた。


 即座にこくりと頷いてしまった。



「自慢ではないですけど、私の毛並みはリュミナス1だと自負しております。本来なら神獣巫女様だけしか触れてはいけないのですが、原三郎様のお孫様ならかまいません。どうぞご堪能ください」

「そ、そうですか……では」



 お言葉に甘えて、そっとシカさんの毛に触れる。


 瞬間、手のひらがフワフワの毛の中に埋もれてしまった。


 こ、これは……っ!


 凄まじく柔らかくて、暖かくて……この世のモフモフじゃない!


 さ、流石は異世界一の毛並み……。


 顔を突っ込んでみたくなる。



「くわわっ!」

「……あ痛っ!?」



 ズドドドッと飛んできた(実際には走ってきたんだけど)モチに、お尻をマシンガンみたいに突っつかれてしまった。


 烈火のごとく怒ってるっぽい。


 な、なんで?



「もしかしてお前、妬いてるのか?」

「くわっ!」



 ビシッ!


 痛いっ!


 よくわからんけど、めちゃくちゃ痛いからやめて!


 なんてやっていると、今度は僕の前に神獣様の列ができていた。



「な、何でしょうか?」

「美味しい料理をごちそうしてくださったアキラ様にお礼が言いたいと」



 通訳してくれたのは、シカさん。


 なるほど。白狼さんといい、やっぱり律儀な方たちだ。


 言葉が喋れない神獣様がほとんどだけど、ありがとうと言いたげに一人……じゃなくて一柱ずつ挨拶をしに来てくれた。


 神様にお礼を言われるって、恐れ多いです……。


 そんな不思議体験をしていると、ふと空が暗くなっていることに気づく。


 時計を見ると、夜の8時を回っていた。


 うわ、もう寝る時間じゃん。



「よし、片付けをして今日はお開きにしましょうか──って、あれっ?」



 いつの間にか、縁側には僕とモチたちだけになっていた。


 庭にも神獣様たちの姿はない。


 いつの間にか帰ってしまったみたい。


 そういえば神獣様っていつのまにか現れて、いつの間にかいなくなっちゃうことがたまにあるんだよね。


 なんとも神秘的というか、不思議というか。


 まさに神様って感じだ。



「……お前たちはいつの間にかいなくならないでくれよ?」

「くわ?」

「が?」

「ぐっ?」



 同時に首をかしげるモチたち。


 う~ん、本当に可愛い奴らだなぁ。


 そして、翌日。


 朝起きてから縁側のカーテンを開けたんだけど、まだ誰も来ていなかった。


 昨日は遅くまでいたし、集まるのはお昼くらいなのかもしれない。


 なんて考えながら朝の体操をしようとモチたちと庭に出ると、納屋に変なものが置かれていることに気づいた。



「……あれって、木の実?」



 木で作られたお皿に、いろんなものが載せられていた。


 山ほどの山菜に、木の実。


 ニジマスにイワナ。


 仕留めたばかりだと思わしきウサギやシカ。


 もしかしてこれって、神獣様たちが置いていってくれたのかな?



「……うわ、金貨まであるよ」



 キラキラと輝く、見たこともない貨幣だ。


 何やら読めない文字が刻まれていて、誰かの横顔が掘られている。


 異世界の王様なのかもしれない。


 間違いなく昨日のお礼なんだろうけど、本当に律儀な方たちだなぁ。


 だけど、どうしよう?


 ウサギとかシカの解体なんて、できないし。


 勘吉さんに頼んでジビエを扱ってる人に来てもらう必要があるよね?



「……でも、この量はすごいなぁ」



 木の実ひとつ取っても、とても一人で食べられる量じゃない。


 勘吉さんとか神埼さんにおすそ分けしても、まだまだ余りそう。


 良い保存の仕方があれば、ひと月は余裕で食べていけそうだ。



「もしかして、ここで神獣様たちをおもてなししてるだけで食いっぱぐれない?」



 まさに神域リゾート地。


 お疲れの神獣様、おもてなし致します──。


 うん。なかなかに良い謳い文句じゃなかろうか。

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