第十一話
ホームセンターに行った翌日、朝から石窯づくりをはじめた。
庭の納屋の近くにスペースを確保し、おじいちゃんのスローライフマニュアルに沿って、一つずつレンガを組み立てていく。
「よし、まずはこんな感じかな?」
コンクリートブロックを六角形に積んで3段ほどの壁を作った。
「次はこの上に鉄板をかぶせるんだけど……ん?」
「くわっ」
「ぐわっ」
「くわわっ」
モチたちの声が聞こえたなと思ってそっちを見ると、3羽一緒に鉄板を咥えて持ってきてくれた。
びっくりした。
だってほら、大人でも運ぶの大変な重さなんだけどな、それ。
うちのアヒルちゃんてば、怪力すぎない?
「あ、ありがとう、みんな」
「わっ!」
モチたちは「こんなの朝飯前だから」と言いたげにドヤ顔で鳴くと、続けてレンガを咥えて持ってきてくれた。
「お、おお……」
感動である。
可愛いアヒルちゃんたちと一緒に石窯制作ができるなんて、予想外の幸せタイムじゃないか!
「よし、みんなで石窯を完成させよう!」
「わっ!」
てなわけで、モチたちが持ってきてくれた鉄板をかぶせて、その上にびっしりとレンガを並べていく。
このレンガが釜になる部分だね。
床部分を作って、その次は壁部分。
入口になる部分は少し開けておく。
壁が出来たら天井を支えるための鉄筋を並べて、その上に屋根を作っていく。
そして、最後に屋根の隙間をセメント粘土で埋めたら完成だ。
「……おお、結構良い感じじゃない?」
めちゃくちゃ立派な石窯ができた。
初めてにしては上出来ではないだろうか。
この石窯は薪を燃やすところと調理するところが一緒になっていて、輻射熱を利用した構造らしい。
マニュアルに「コンクリートブロックをデコレーションしたらおしゃれになるぞい☆」と書かれていたので、納屋に置いてあったペンキでアヒルちゃんを描いてみた。
「うむ、これはこれで……良いかもしれない」
ほら、味があるっていうか。
「どうみんな? このアヒル窯、可愛くない?」
「……」
じっと石窯を見つめるアヒルちゃんズ。
「がー……」
「ぐー……」
「ダサイがー」
「……なっ!?」
軽くディスられた!?
べ、別にいいもんね。
見た目はダサくても、しっかり料理できれば!
というわけで、早速ピザを焼いてみることに。
まずはピザ生地──を作る前に、窯を温めなきゃね。
窯の中で薪を燃やして温める。
1時間くらいかかるので、その間に生地作り。
薄力粉などの生地になる具材を混ぜ合わせ、まとまってきたら塩をササッとふりかける。
生地を3つにわけて、薄く伸ばす。
麺棒がないのでビール瓶で代用した。
それからお好みの具をのせて、生地は完成。
窯が十分温まったら、薪を隅に寄せる。
注意しないといけないのは、火を消さないこと。少しずつ薪を継いでいき、燃やし続ける必要があるらしい。
同時に濡らしたモップで、中央の炭を掃除する。
そして、いよいよピザを焼く工程だ。
火の距離に気をつけながら、生地を窯の中に入れていく。
マニュアルによると、2、3分で焼けるんだとか。
意外と早いんだな。
ただし、生地の厚さで時間がかかる場合もあるから、そこは調整する必要があるみたい。
3分くらい経って一旦ピザを出してみたら、食欲をくすぐる良い匂いがブワッと溢れ出してきた。
こ、これは美味しそう……!
生地を触ってみたけど、いい感じに焼けている。
これは完成と言って良さそうだね。
「よし! アヒル窯のピザが完成だ!」
「「「ぐわっ!」」」
モチたちが嬉しそうに声を上げる。
「お前らも食べる?」
「くわっ!」
「がー!」
「ぐっ!」
アヒルちゃんたち、興奮気味にバタバタと翼をばたつかせる。
そうかそうか。
石窯作りを手伝ってくれたわけだし、アヒルの絵をディスってきたのは水に流して、ごちそうしてあげようじゃないか!
てなわけで、みんなで縁側に並んで食べることに。
ピザは包丁を使って、しっかり4等分。
お供にオレンジジュースをつける。
「いただきます!」
「くわっ!」
みんなでいただきますをして、早速頬張る。
「はふはふ……うまあああっ!」
こ、これは凄い。
生地はもっちりしてて、アツアツですごく美味い。
味はキツくなく、素朴な感じかな?
これなら何枚でも食べられそう。
「どう? 美味しい?」
「くわっ! ウマイ!」
チャムチャムと、ピザをついばむテケテケさん。
どうやら気に入ってくれたみたい。
ポテとモチも一心不乱に食べている。
「あはは、そんな慌てなくても、まだピザは沢山あるから──」
「……ぐっ」
テケテケが咥えたお皿を僕の前に差し出す。
彼に続いて、ポテとモチも。
可愛い。
「はいはい、今、焼きますよ」
わたくしめは、あなた達の給仕ですからね。
結局、15分くらいで焼いた3つのピザを全部たいらげてしまった。
食べたのはほぼアヒルちゃんたち。
お気に召したようで何よりですよ、アヒル様。
追加でピザを焼いて、白狼さんにもおすそわけすることに。
すると翌日、お皿の上にいつもとは違うお礼が置かれていることに気づく。
「……何だこれ?」
手のひらサイズの小さな石。
だけど普通の石じゃなく、太陽の光を反射しているのか七色にキラキラと輝いている。
水晶……じゃないと思うけど、宝石みたいに綺麗だ。
もしかして、値打ちがあるものなのかな?
だとしたら凄いんだけど──。
「ていうか、お手製ピザが宝石になるなんて、リアルわらしべ長者かよ」
思わず突っ込む。
なんとも夢がある話だなぁ。
「ありがとうございます、白狼さん……」
山に向かって一礼し、今日の畑作業をはじめることにした。
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