表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
300/350

好きになってしまうじゃないか


「今日はもう帰りなさい」


 普段、口煩い先輩の声が、やたらと大きく聞こえた。


「いえ、まだ途中ですから」

「あとは私がやっておくから、家に帰りなさい」


 どうやら俺の要領が悪く邪魔だから帰れというわけではないようだ。


「いいから帰りなさい」


 先輩の口調はいつもと同じで鋭いが、眉は下がっている。

 これは、残念な子、要らない子ってことか?


「わかりました……」


 追い出されるように会社の外に出ると、ひんやりとした風が気持ち良かった。






「……ざんじゅうななどはちぶ」


 昨晩、布団に入ってからの倦怠感と寒気、体の節々の痛みに嫌な予感はしていたのだ。


 誰がどう見ても発熱しているという数値を表示している体温計をスマホで撮影し、送信。


 俺の意識はそこで途切れ────




 汗をかいた不快感に襲われ、瞼を開ける。

 カーテンから漏れる光がない。

 時間を確認しようとスマホに手を伸ばすと、一通のメッセージが届いていた。


 玄関のドアノブに引っ掛けてあるビニール袋を回収。

 スポーツドリンク、ゼリー飲料、常温保存できるタイプのゼリー、のど飴、額に貼る冷却シートと汗拭きシート……

 そして、その一番下にメモが入っていることに気がついた。


「あーもう……こんなこと書かれたら……」



 一昔前のトレンディードラマに出てきそうな、いかにもキャリアウーマンという風貌をしている先輩。

 彼女は見た目通り、他人にも厳しい。

 その先輩が、昨日やたらと早く帰れと言っていたのは、俺の不調に本人よりも早く気づいたからだろう。


 たとえそれが、後輩に対する先輩の『当たり前』の行動だったとしても、こんなの……


 ぶるぶると首を振る。


 いやいや、風邪で思考がおかしくなってるだけだ。

 俺はすべてを熱のせいにした。



 それが間違いであると気づくのは、まだまだ先の話──





────風邪


 2024.12.16.

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ