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それでも私たちは幸せな方だった


 推しているバンドが解散した。

 それでも私たちは幸せな方だった。


 解散宣言はライブでだったし、その数ヶ月後に解散ライブ開催。

 ラストアルバムのベストアルバムには新曲収録。


「ほら、私たちは恵まれている方だよ」

「公式サイトで解散を告知するだけのバンドやアイドルグループがどれだけいると思っているの?」

「そうだよね……私ら幸せな方だ」


 他のバンドやアイドルグループと比べたって仕方ないのに。それに、そんなの、そのバンドやアイドルグループの人たちやそのファンに失礼だ。

 それでも、そうでもしなければ、耐えられない気がした。どうか許してほしい。



 ぽっかりと心に穴が空いたようだ──という表現がまさにぴったりだ。


 その穴を埋めるために、私も彼女たちも、色々なことに手を出したり、思い出したかのように婚活を始めたり、仕事に打ち込んだり……

 それぞれの道を歩みつつ、時々会って思い出話に花を咲かせ、再結成を待ち望む日々が続いた。



「もうさ……このまま再結成しなくても良いんじゃないかって思えてきた」


 そんなあるときのお茶会で、ぽつりと呟いた子がいた。


 私も心の何処かで思っていたこと。


「伝説は伝説のまま。思い出はこのまま綺麗なままでいいんじゃないかって」



 解散して何年経っただろう。

 新たな推しを見つけた子、二次元を覗き込む子もいたし、結婚したり、子供を産んだり、音信不通になった子もいる。


「今、再結成しても、昔みたいに追いかけられないし」


 そう言う彼女は五年前に子供を産んだ、いわゆるシングルマザー。


「そうだね……」


 私の他にも同じことを思っている子がいることに安堵する。


「私も」


 そう言う私も結婚が決まっている。しかも結婚後は海外赴任する彼についていくのだ。少なくとも五年は向こうにいることになるだろう。



 自然と窓の外を眺める。

 あの頃、みんなでよく集まっていた店は、どんどん無くなっていった。

 最後に残ったこの店も、いつまであるかわからない。



 形あるものは、すべていつか無くなる。


 永遠とか、絶対とか、そういうものを信じることができなくなるのが大人になることだと、彼らは言っていた。


 推しのその言葉なんて、実感したくなかったよ。




────喪失感


 2024.09.10.

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