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迎え火


 ずっと捨てることが出来なくて、上京するときの荷物にそれを入れてしまったのがいけなかった。

 東京のジメジメとした梅雨と夏で、カビが生えてしまったのだ。

 頑張ってカビを取り除こうとしたけど、結局全部取りきることは出来なかった。

 しかし、あちらで捨てるのは抵抗がある。

 だから帰省する際に荷物に入れたのだ。



 かんばを焚く。

 この辺りでの、お盆の風習だ。


 じーさん ばーさん

 このあかりで おいで おいで


 迎え火と独特の香りに、歌う。


 日中、それなりに暑くなるものの、日が傾き始めると気温が下がり、吹く風もひんやりとしている。



 東京の大学に進学したのは、この町では見ることが出来ない違うものを見たいからだとか、視野を広げるためだとか、言っているけれど、本当はあの子との思い出しかない町に住み続けるのが辛かったから。



 同い年で気が合ったから、ずっと一緒だった幼馴染の女の子。

 ある年の夏、お揃いで買ってもらった麦わら帽子をこっそりと交換した。

 なぜそんなことをしたのかは覚えていない。

 でも、交換したことがお互いの家族にバレていないことが楽しかったのは覚えている。


 いつの間にかサイズが合わなくなったけど、麦わら帽子を捨てることはできなかった。

 それはきっと、あの子も同じだったのだと思う。



「ねぇ、今年は帰ってくるの?」



 こんな時、どんなに仲が良かったとしても所詮は他人なのだと思い知らされる。


 本当の姉妹だったらよかったのに。

 家族だったらよかったのに。





 じーさん ばーさん

 このあかりで おいで おいで



「このあかりで……」


 あの子の名前をこっそりと呟く。



「おいで、おいで……」



 視界の端に何か白いものを捉えたけれど、視線を向けたら消えてしまうような気がした。





────麦わら帽子


 2024.08.11.

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