バンクシー展からの… ~2~
正体不明のアーティスト、バンクシー。
そのバンクシー展へ、彼が誘ってくれた。
バンクシー、好きだからとっても嬉しい。
趣味が一緒ってことかな。それだけでウキウキする。
デニムにちょっとロックなTシャツを合わせてジレを羽織る。
革のチョーカーもしてみた。いつもより、ちょいラフな格好になったかな。
別に打ち合わせた訳じゃないけど、彼の服装も似た感じだった。
少し髪も切ったみたい。スーツ姿も誠実な感じで好きだけど、
ワイルド感が増したファッションも似合ってる。思ってたより筋肉質だった。
「今日は、いつもと違いますね。」
さらっと言ってみる。
「え、どうかな?ヘン?」
本当は、道の向こうから来るときにじっくり見ちゃってたけど
今、初めてちゃんと見るようなフリをして全身を見る。
「いいと思いますよ。似合ってると思います。」
ぱっと彼の顔が明るくなって。私は心密かに嬉しくなる。
でも、私そう言う感情あまり外に出ないタイプで、彼をまた不安にさせてるかも?
煩くならない程度にちょいちょい解説を入れてくる彼。
「ふぅん。」
かなり感心してるのだけど、そっけない受け答えしか出来ない私。
茉莉恵は、それくらいで丁度いい。振り回すくらいの気持ちでいないとダメ
ってアドバイスをくれるのだけど、出来れば彼にも「嬉しい」をあげたい。
どういう風にしたら、彼も嬉しいのかな。
一通り見て回って、会場をあとにしたのは、午後7時。
彼お勧めのお店があるとのことで、そこへ向かう。
が、しかし、そういうときに限って臨時休業だったりするのね。
彼の焦燥感が全身から溢れていて、悪いけど、可愛くて笑っちゃう。
「えっと…。こんな筈じゃなかったんだけど、ごめんね。
嫌じゃなければ、うち来る?」
デリカで、軽く買い物を済ませて、彼の部屋へ向かった。
チーズやら、リエットやら、デニッシュまで買い込む。
ついでに、美味しそうな赤ワインも。
想像していたより片付いた部屋に通されて、早速買ってきたものを広げる。
お店で食べるのもいいけど、こんな風にざっくばらんにお喋りしながらも
楽しくて好き。若干緊張してるんだけど、それは見せないように頑張る。
フィンガーフードとワインで、時間が飛ぶように過ぎて
いつの間にか日付が変わりそうな時刻。
彼が、モゾモゾし始めた。何か言いたげ?
「大好き…。」
ドキン。私の体温が上がる。
「え?」
聞き返す。
「ワ、ワインて美味しいよね。特に、チーズと合うよね。大好きだわ。」
なぁんだ、そっちか。
「そうですね。私も好き。」
がっかりがにじまないように、クールを装う。
「あのさ、チューし… 中止しなくてよかったね、今日。」
「中止?チケットもあったし、天気も良かったし、中止する理由なかったと思いますけど。」
何言ってるんだろう?さっきから、何となくヘン?
ワイングラスに口を付けながら、思わず上目遣いで彼を見てしまう。
「そろそろ日付が変わるね…。」
彼の言葉に、チラリと彼を見る。
「お、送っていくよ。」
名残惜しさをそぶりにも見せないようにして私はさっと立ち上がる。
まるで、その言葉を待ちかねていたように。
少しでもいいから、寂しそうな顔してくれないかな…。
でも、思うだけ。言葉には出来ない。