台湾フェスタで ~1~
「もしもし?あ、私。」
「分かってるわよ。スマホなんだから。」
「あ、そうだよね。やってみたよ。今日の私はどこが違うでしょう?って。」
「で、どうだった?分かった?」
「だめ、すんごく困った顔して、髪型変えたかって聞かれた。
そりゃ、仕事モードのきっちりまとめ髪とは違うけど…。」
「だーめーじゃーーーん。もうっ。リップの色変わって分かんないかな。見てないよねー。」
台湾フェスタの会場は、飲茶系の食べ物が豊富で、どの屋台にも行列が出来て結構な賑わい。
そのざわめきに紛れるようにして、デート(と言っていいのかよく分からないけれど)中
彼が台湾ビールを買いに行ってる隙に親友の茉莉恵に電話した。
茉莉恵は恋多き女で、恋愛についてよく相談している。
「くるみも、なんであんな冴えない感じの男がいいかな。くるみなら、選び放題だと思うけど?
所謂、才色兼備の高嶺の花じゃん。強気でいいんだって!美人の特権だってば。」
「そ、そんなこと言われたって…。」
「見た目とのギャップがくるみのいいとこだけどね。」
そう言って、茉莉恵は笑う。私としては、全然笑い事じゃないんだけどな。
自分で言うのもなんだけど目鼻立ちがくっきりした美人顔で、
総務部での仕事の評価も高く、性格もきっぱりした強気な女の子に見られがち。
でも、実際は結構弱気なうじうじタイプなんだよね。
「あ、戻って来ちゃった。切るね!」
「あ、待って。すぐに切っちゃダメ。はい、まず、その不安そうな顔止めて、口角上げて。」
「なんで、どんな顔してるかまで分かるの?」
「分かるから。はい、顔上げて。笑う。」
茉莉恵の言うとおりにぐっと顔を上げて、チラリと戻ってくる様子を目の端に入れながら
ニッコリ笑う。
「飲み物置くタイミングで『じゃあね、またね』で、ゆっくり笑顔で切って。ゆっくりね。
相手が誰か聞かれても、濁すの忘れないでね。」
「うん…。うん…。じゃあね、またね…。」
不安で、つい名残惜しそうな切り方になった。
戻ってきた彼を見ると、彼は彼で不安そうな顔をしている。
「今、電話してた人って、誰?男の人だったりして…。」
ドキッとする。ええと、なんて言ったらいい?咄嗟に出たのは
「え、どうでしょう。忘れました。」
え、合ってる?合ってる?目が泳ぎそうになるのを必死にこらえる。
「あ…。だよね。ごめん。」
あれ?謝られちゃった。しゅんとしちゃった。私、間違えた?
フルーティーな台湾ビールを楽しみながらも、なんとなく気まずい雰囲気。
「そろそろ帰ろうか。送っていくよ。」
ちょっとだけ、元気を目減りさせながら、紳士的に彼が言う。
「大丈夫、ここから近いから、タクシー拾います。」
あ、と思ったけど遅かった。拒絶したように聞こえちゃったかな。
そんなつもりはなかったんだけど。