取り憑きし物
第一話 取り憑きしもの
俺は薫。小野寺薫。大学一年生。といっても二十歳は過ぎてるが。学費は親が払ってくれて家賃も水光熱ケータイ代も面倒みてもらってる。バイトもみっちり入れてる。それなのに金回りが悪い。理由はわかってる。俺が今ここにいる雀荘「新世界」ここでどれだけ負け越しているか。この雀荘ではラス一回で一万は吹っ飛ぶ。所持金ももう二万を切った。次の給料までは2週間もある。絶望だ。南4局親番だ。俺の持ち点は12600・・ラスだ。4巡目。手が入った。
赤伍七122345677799ドラは7。親っパネをツモれば2着になれる。カンチャンだが立直を打つか。俺が手の内のリャンゾーを掴んだ刹那、胸の中から声が聞こえる。
「はあ。またやってるよ。これだからコイツ負けんだよなあ。麻雀向いてないからさっさと辞めて真面目に勉強してまともに就職した方がいいのに。親に申し訳ないと思わないのかねえ。」
誰だ。俺は後ろを振り返った。誰もいない。なんだ今のは。俺の心の声か?試してみるか。手に取ったリャンゾーをしまい赤伍に手をかける。
「何やってんだか。スーマン引けば立直でいいのに。やっぱ麻雀向いてねえコイツ」
ハッキリ聞こえた。しかもオッサンの声だ。気持ち悪い。「石塚さん。悪いけどコレで帰りますね。リーチ!」
同卓してる従業員の石塚はやれやれと言った顔をし、一発でローマンを切ってきた。
「ロン。裏一でバイセンゴ。2着やめでお願いします。」
石塚さんにオーラスやればいいのにと言われるものの、気持ち悪いのでと新世界を後にした。俺は新世界の階段を降り、コンビニで酒を買い公園のベンチに腰掛けた。
「さぁお前何者だ?いるんだろ。出てこいよ」
小声でボソっと語りかける。
「クックッお前俺の声聞こえるのか?嬉しいなあ。クククッ」
マジか。マジで憑いてやがった。
「俺は守一だ。お前のことは生まれた時から知ってる。クククッなあ。ちょっと目を閉じて無心になってくれねえか?」言われた通りにやってみる。すると自分の魂が体から抜けていくのが分かる。目の前に俺がいる、やられた。体が乗っ取られた。目の前で俺が喋ってる。
「よお。気分はどうだい。俺の声聞こえるか?」
当たり前だ。早く体返せ。
「まぁもうちょっと待てよ。どうやら会話はできるようだしよ。それに20年ぶりの酒だ。いただくぜ。」
おい何やってんだ。よせ。
「固えこと言うなよ」プシュッ「あーうめぇゴクッゴクッゴクッ、あれ?お前の体酒弱すぎ・・・」
ガタン 目の前で俺が倒れている・・何て情けない姿だ。酒の飲み方気をつけないとな。いや、まずは体とりかえさないと。どうしたものか。「おい!守一!」声を大にして叫ぶ。返事がない。仕方がない。この霊体で出来ることを考えよう。どうやら視覚と聴覚はハッキリあるようだ。自分の手を触ってみるも感触はない。触覚は無さそうだな。移動もどうやら出来ないらしい。と一通り霊体体験をしていると、守一が目を覚ましたようだ。
「悪いことしたな。まず体を返そう。自分の体に入ってくるイメージをしてくれ。」
スゥーッという感覚で俺は自分の体に帰ってくることができた。
「守一、まず帰ろう。お前とは話さなきゃいけないことが山ほどあるようだ。」
「ああ。これからよろしく頼むぜ」
こうして俺の新生活が始まろうとしていた。