706話 サンチェス
サンチェス
サンチェスの居るはずの訓練場に近づくにつれ、違和感が増します。
何の音もしません。静まり返って居ます。
「ここですよね。」と言ってドームの中に入って行きますと、
何やら薬品の匂いが鼻を突き、上から、蜘蛛の贄の様な、
糸でくるまれた白い塊が下がっています。
その下には椅子に座ったトート神がじっと繭を見ています。
〚もう少しだな。〛
不審に思ったララが声を掛けます。
「トート様、あれ、サンチェスですか」
繭を指さし、聞いてみますと、
『うむ、もう少しで出せると思う。』
目を凝らして繭を見ると糸では無く、白い包帯に巻かれています。
「ミイラですか、しかし、何故?」
〚不審に思うか、そうだな、こちらの神々はこの様な事はしない、
出来ないからな。〛
「何か鼻で笑う様な言い方ですね。」
〚他でもない、お前の眷属だ、少し説明してやろう〛
「宜しくお願いします」
〚うむ、こいつの体は生まれた時から、大事な所が捻れていて、
大きな魔力を流そうとするとすぐに詰まっちまう。
こんな大人に成ってから直そうとしても駄目だな。〛
〚少しは試してみたが、全く希望が見えない。
やはり分解して、付け替えないと完全には治らない。
そこでだ、我々だけが出来る方法で
分解して部品を交換、修理して再組立を行ったわけだ。
もう直ぐ各器官の接合調節が完了して蘇生するが、見て行くか?〛
おっさんの裸、でろでろは見たくないです。
「少し落ち着いたらまた来ます。」
〚そうだな、あそこから出すのに後二日くらい、
接合確認、動作確認に更に二日かかる、その後で良いぞ。
成功すれば、外観は同じでも中身は全く違う者に成っているはずだ。〛
「えっ?性格が変わります?」
〚あの性格は変わらんだろう。〛
何か少し諦めた様な雰囲気が有りますが、
ま、いいでしょう。それより気に成る事が
「先ほど成功すればとの言葉が有りましたが、
失敗の可能性も有るのですか?」
〚物事に絶対はない。まぁ、私が行った施術で失敗した事は無いがな。〛
「有難うございます。それではおまかせ致します。」
そう言うと一礼して、食堂に戻ります。
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