第3王女
ギルドでは毎日夕方まで大勢の冒険者達で賑わい、様々な冒険者が訪れるがダイヤが受付を行っている討伐系の依頼は特に列ができるほどの人気のある依頼だった。
理由は危険度が高く、平均報酬が採取や調査などの依頼よりも高いためである。急ぎで資金が必要な者、スリルを味わいたい者、功績が欲しい者と受け付けに来るものは様々だ。
「……申し訳ありませんが実力不足でしょう。お引き取りください」
「えぇ!?」
ダイヤの過去の経験と観察眼、その冒険者の過去の功績を照らし合わせて良いと判断された者が受注を許される。そんなやり方に批判的な者が多いがそのほとんどが外部からやってきた冒険者であり、街に住んでいる者の多くはこの方法で納得している。
「こちらは採取依頼になります。次からは右側の受付嬢のところで受注するようにお願いします」
「あ、すみません。気を付けます……」
「次の方。……こちらの依頼ですね。どうぞ、お気を付けて」
「先輩、そっちだけじゃ回らないんじゃないですか?こっちでも受付やりますよ」
「すみません、お願いできますか?サーニャさん」
「勿論です。後ろの方〜!こちらへどうぞ〜」
ダイヤ一人で討伐依頼の受注が厳しい場合は採取の依頼を受け付けているカウンターでも受付が行われる。その為、どっちが採取か討伐か分からなくなる者も多い。慣れてきた冒険者は受付嬢で覚えるのだが、外から来た者達は慣れていないため案内看板を頼りに受付へ行くことになる。
その案内看板はよく夜に酒に酔った冒険者達を鎮めるためにギルドマスターが鈍器として使い、位置が逆になったり、汚れで文字が読みづらくなったり、壊してしまうことが多く、その役割を果たせていない。
その為、一応どちらでも討伐や採取などの受付ができるようになっている。
「次の方……おや?」
カウンターの前で列んでいた人々が左右へ誰かに道を開けていき、人の壁が段々と無くなっていくごとに分かれた人の列の中心を歩いてくる人物達の姿が見えるようになっていく。
「ダイヤよ、今日も忙しそうだな」
そして、カウンター越しに腕を組んでダイヤの顔を見上げる銀色の鎧に身を包んだ少女が彼女に声をかけるとギルド内が静まり返り、ギルド内の冒険者達が少女へ視線を一斉に向ける。
少女の後ろには二人のメイドがおり、一人は年老いたメイド、もう一人は若いメイドで彼女は少女の後ろでダイヤにお辞儀をした。
「お疲れ様です、サラ様。今日は何の御用でしょうか?」
「フフ、大した用ではない。パーティーの招待状を我が直々に持ってきてやったのだ。お前は束で送り付けても来ないのでな」
「それは……申し訳ございません。私も仕事がありますので……」
「よく働くことは良いことだが休息は必要だろう。そこの者」
「えっ?は、はい!」
「ギルドマスターを呼んでくるのだ。今年こそはダイヤを招待するのだと、あの魔女に言っておかねばならぬのでな」
「はい!すぐにお呼びします!」
隣のカウンターで受付をしていたサーニャが慌てて事務室へ繋がる扉を開けて中へ入っていき、ギルドマスターが来るまでの間に少女は手を叩いて静まり返ったギルド内に音を響かせる。
「貴様ら、何をボーッとしている。いつも通りにしてよい、依頼を受けるなり食事を進めるなり好きにするがいい。こうも静かでは息が詰まりそうだ、我を窒息させる気か」
少女の言葉がギルド中に響き渡り、それを聞いた冒険者達は徐々にいつもの会話を始めて先程と同じ賑わいを取り戻し始める。
「な〜に、お客さんって…げ!」
事務室から出てきたギルドマスターは少女を見た途端、足を止めて体を後ろへ引いて体全体で驚きを表す。それを見た少女は笑顔でギルドマスターを睨み付ける。
「ほう、我を見てその態度とはな。即刻死刑にしてやっても良いのだぞ」
「あいや、え〜とですね。第3王女様、今日はなんの御用で…」
「王城で開催されるパーティーにダイヤを招待しに来たのだ。貴様、次に言うべき言葉は分かっているだろうな?」
目を細めて睨んでくる王女の威圧に顔を青くしつつギルドマスターは引き攣った笑顔で相手の望む返事を返す。
「は…はは……あ、当たり前じゃないですか〜。もちろん、大丈夫ですよ〜」
「フン、それでよい。下がってよいぞ、もう貴様に用はない」
「あ、はい……失礼させていただきます……」
ギルドマスターは腰を低くしたまま事務室へ入っていき、それを見ていたダイヤはため息を吐いてサラ王女に顔を向け直す。
「サラ様、できれば私の仕事に影響のないように誘ってもらえると嬉しいのですが」
「すまぬな。だがお前も人が悪いぞ、ダイヤ。何度も誘っているというのに来たのはたった一度限りではないか。10年前の一度だけであとは無視するとは……フフ、本来ならば不敬罪で牢へ送られても文句は言えぬのだぞ?」
「参加するかどうかは自由のはずです。それに毎回辞退に印を…」
「ダイヤよ!良いか?我はお前が好きだ、お前を気に入っているからこそ貴族共の反対を押し切って招待状を送っているのだ。お前と話す場が欲しいがお前も私も忙しい身だ、であれば話す機会など城のくだらん顔合わせのパーティーしかない。あんなものは時間の無駄だ、そのような時間を取ること自体無駄で苦痛だ」
「姫様は毎年貴女が来るのを楽しみにしておられます。流石に今回ばかりはどうしても誘いたいと言う事を聞かないのです。なにせ、10年も待ち続けていますので」
「お姉様、姫様のために考えては頂けないでしょうか?」
「しかし……私のような身分の低いものがあのような…」
「大丈夫ですよ!お姉様!私が相応しい衣装をご用意しますから!」
「……ううむ」
「義妹の頼みでも聞けぬか?ダイヤよ」
腕を組んで悩むダイヤに追い打ちをするサラ王女に彼女は腕を解いて羽根ペンと紙を手に取ると何かを書き始める。
「サラ様のことです。当日だけということはないのでしょう?」
ダイヤは早退理由に「城のパーティーに参加する為」とだけ書き、紙を手に事務室へと入って行った。
「うむうむ、ようやくその気になったか。フェレリ、先に帰って良い。ダイヤの為に部屋を用意せよ」
「承知しました、姫様」
年老いたメイドが一礼をしてからギルドの外へ出て行った後、私服へ着替えたダイヤが事務室から出てくるとギルドに疲れた様子の盾と片手剣を腰に下げた女性冒険者が入ってくる。
目の下にクマがあり、足取りもおぼつかない女性はカウンターへ向かって歩くも足を絡めてバランスを崩して王女の肩に寄りかかった。
それを見ていた周りの冒険者達の顔が一瞬で青ざめ、またギルド内が静かになるどころか時間が止まったかのように配膳係まで動きを止めていた。なぜ彼らが動きを止めたのか、それは何度か王女に話しかけただけの冒険者を殴り飛ばし罵声を浴びせるという光景を見たことがあったからだった。
「はぁ……はぁ……す、すみません……」
女性が謝罪して離れようとすると肩に置かれた手の上に王女は手を置き、女性の手が離れないよう力を入れる。
「お前、我が誰だか分かるか?」
「……はい?……えぇっと……」
女性は目を細め、王女の横顔をよく見て肩に手を置いた人物が誰なのか理解すると女性は青くなっていた顔を更に青くして驚きのあまり口を開ける。
「あ……あぁ………王女…様………」
「うむ、まだ分かるようで安心したぞ。相当疲弊しているようだが大丈夫か?」
「お、お許しくださいっ!わ、わわわっ!私は……うぷ……オエェェェ……」
即座に跪いて謝罪しようとした女性だったが限界を迎えた体の口から出たのは謝罪の言葉ではなく吐瀉物で、心配した王女が手を置いて離れないようにしていたこともあって王女の鎧へ女性の口から吐き出された吐物が浴びせられ、草摺から鉄靴へと伝って王女の足元に広がっていった。
「大丈夫か?そのまま吐き出して楽になれ」
「オエェェェ……ず、ずみまぜん…グスッ…い、命だけはぁぁ……」
「命など取らん、泣かなくて良い。歩けるか?」
涙を流しながら吐く女性の背中を撫で、歩けるかどうか聞くと女性は泣いて震えながら頭を上下に振る。
「サラ様、こちらへ」
「うむ」
王女は女性に肩を貸してカウンター横にある個室の扉を開けて待機しているダイヤの横を通って部屋へと入って行き、続いて突然の出来事で王女の後ろで固まっていた若いメイドも個室の中へと入って行った。
個室の中へ4人の姿が消えた後も少しの間ギルド内は凍り付いたままだった。