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ギルドマスターは偉大なる魔女様

 ティナ達が夕食を食べている頃、ギルドでは客室に招かれたディーマが机の上に広げられたソードマスターについての資料を読み漁っていた。


「はぁ……まだ戻ってこないのか?もうほとんど読み終えたんだが……」


 ギルドマスターが戻ってくるまで資料を見るのに半日を費やしていたディーマはソファの背もたれに両腕を預けて天井を見上げる。綺麗な魔石で部屋を明るくしているシャンデリアを少し見つめたあとに目を閉じたディーマは再び溜息をついて白狼についての資料を思い出す。


 無銘の白狼、とある隠れ里から12歳という若さで魔王討伐の旅へ出る。それから三年後に魔王城へ単身で辿り着き、魔王を瀕死まで追い詰め、魔王が負けを認めた事で魔王討伐を止めて里へと戻り、自らの手で里の大人達を一人残らず斬り殺した。


 その後はミッドリンガル王国で受付嬢として生活を送っている。


「今の年齢は25、剣の腕前は剣聖級ときた。とんでもねぇ人だとは思っていたが、まさか15歳の少女に助けられたとはな。んで」


 ディーマは一枚の紙を手にし、そこに書かれたギルドマスターが流した白狼のことについての嘘の噂話一覧を流し見る。


「まったく……男だとか、老人だとか、大太刀を使っていたとか大嘘ばかり流しやがって。おまけに彼女と会ったことがある人間には記憶操作して記憶を曖昧にさせるときた。だから、白狼の言った言葉は覚えていても声や性別は曖昧になってたんだ」


「だって自分の記憶を消してくれって言われてたからさ〜」


「うぉっ!?」


 突然、横から聞こえてきた声に驚いてソファに右手を付いて倒れそうになった体を支えたディーマの反応を見たギルドマスターは悪戯を成功させた子供のように笑った。


「おっ待たせ〜、100点の驚きをありがと」


「心臓に悪いぜ……」


 ソファの後ろで両膝を付き右手を顔に当ててソファの背もたれに頬杖を付いていたギルドマスターは、両脇を上げて膝歩きでソファを幽霊のようにすり抜けてからディーマの隣に座った。


「なんだその魔法は……」


「いいでしょ〜?私みたいな偉大な魔法使いになると幽霊にもなれちゃうんだ〜」


「確かその魔法、失敗すると体が千切れるから禁止されてるはずだろ。まさか、壁を貫通してきたとか言わないよな?」


「よく知ってるね、壁とか硬い物の中で実体化しちゃうと挽き肉になる魔法だから上級者でも使わない禁術だよ〜。マネしないでね」


「使わねぇよ、そんな危ない魔法。そんなことより、アンタが魔法界の女王だろ。300年ぐらい生きてるっていう…」


「ちょい!ちょい!女の子に年齢の話は駄目だよ。マナーが無いなぁ」


「二つ名は否定しないんだな……参ったぜ」


 ディーマは額に右手を当て天井を見上げて再びソファの背もたれへ背中を預ける。


「おやおや、大丈夫かな?ディーマ君。偉大なる魔女に会えて感激のあまり倒れちゃった?」


「いや、アンタのことなんて知らなかったし興味もないが“死ぬまで知りたくなかった”」


「そんなに強調しなくたっていいじゃん。な~に、ちょっと国を両手足の指の数だけ滅ぼしただけの魔女様なんだからさ~、そんな怖がらないでよ〜」


「無理だ、資料によれば両手足の指じゃ足りないくらいの国を滅ぼしてるだろ。人の繁栄を妨げる「破滅の魔女」だとも言われてるそうじゃないか」


「今でも現在進行系で国際指名手配犯で~す。テヘ☆」


 ダブルピースでウィンクするギルドマスターにディーマは顔を天井に向けたまま引きつらせて横目でギルドマスターを見る。


「でも、この国は引き渡しも何も協力はしないが好きにしていいって各国に言っているらしいじゃないか。刺客とか来ないのか?」


「え?来るよ?それで〜全員まとめてギルドの従業員にしてるから従業員を探す手間が省けてちょーお得」


「おいおい……」


「ここに住むようになって10年の間に120人くらい来たね。みんなダイヤメダル持ちだから引き抜かれた国は相当悔しがってるよ、きっと」


「……それ、ここの国民は知ってるのか?」


「もちろん、だから私が襲われても皆助けてくれないんだよ〜、酷いと思わない?シクシク。それどころか第3王女様が見物に来て賭けをし始めたりするしぃ…」


「分かった分かった、もういい。それより白狼のことを聞かせてくれ、それ以外に興味はないからな」


 これ以上は聞きたくないとディーマがギルドマスターの話を遮ると彼女は泣くような演技をやめて笑いながら立ち上がるとディーマに右手の人差し指を向ける。


「君はもう、白狼について知ったでしょ?彼女はここで受付嬢をしていて、平穏な暮らしを送ってる。私と君はそれを口外しないという約束で客室を1つ貸し切って資料を見せたの。もう君が知ることは無いんじゃないかな〜?」


 ギルドマスターの人差し指がディーマの眼前で円を描き、それを見ていたディーマの目に怪しげな光が宿るとディーマは先程まで見せていた化け物を見るような目を止めてソファから立ち上がる。


「ああ、確かにそうだな。もう知りたいことは知った事だし、そろそろ夕食を取って宿で寝るか」


 ディーマはそう言って客室の扉へ向かって歩き出し、扉の取っ手に手を置いたところで振り返る。


「色々とありがとよ、じゃあな」


「バイバ~イ」


 別れの挨拶を交わしてディーマは手を振るギルドマスターに見送られて部屋から出ていき、部屋に残されたギルドマスターは振っていた手を止めて背もたれへ置くと乱雑に置かれた資料の紙を魔法で宙に浮かせて次々に紙袋へしまっていく。


「さ~て、面倒事が一つ片付いたし焼肉でも食べよっかな〜。ふぅ……それにしても私とは違う意味で人気者だね、ダイヤちゃん。これで何人目だったかな、もう数えるのも疲れちゃったよ」


 部屋の片付けを行いながら窓の外を見たギルドマスターは微笑みを浮かべる。彼女を仕留めようと街へやってきた刺客よりもダイヤに会うためにやってきた者の方が多い事を知るのはギルドマスターただ一人だけである。

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