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ティナの悩み事

 グローザの実験施設を抜け出した二人はダイヤの友人が営む城下町のレストランへ寄っていた。


 店に入って間もない頃はゴールドメダルの冒険者が居ることに違和感を覚えた者達がティナのことを横目で見ていたが、二人の元へ食事が運ばれてくる頃には二人に視線を向けるのは接客と配膳を担当している店員だけだった。


「ダイヤさん、そちらの方は?」


 食事を運んできた女性店員が料理が盛られた皿をテーブルに置きつつティナに視線を向けて聞いてきたことに対してティナは一瞬だけ目を細めるが、店員の首に下げられているダイヤメダルを見て店員から顔を背けて溜め息を吐く。


「冒険者のティナ様です。リィーロさん、アイザックに葉巻を吸いながら料理をするのをやめるように言ってください。料理に臭いが付いてます」


「言ってもやめないと思いますが、あとで絞めときますよ。ごゆっくりどうぞ」


 軽く頭を下げて厨房へ戻って行く店員の背中を見送ったダイヤはティナに視線を向けるとティナは不思議そうな顔をしながら料理の匂いを嗅いでいた。


「葉巻の匂いなんてするの?」


「普通の人には分からないほど微かなものですから、ティナ様はお気になさらず」


「ふーん……んっ、これ美味しい」


 ティナは少し口にしてみた料理の味に驚き、自然と口角が上がっていることに気付かずに少しずつ料理を口へと運んでいく。


 それを少しの間、眺めていたダイヤは仮面をゆっくりと外してテーブルの上に置いてフォークを手にしたところで視線に気付いて料理からティナに視線を移すとダイヤとティナの目が合った。


「………」


「ティナ様?」


 硬直しているティナに声をかけるダイヤだったが、まるで彫刻になってしまったかのように瞬きすらしないティナにダイヤは首を傾げる。


「ティナ様?私をじっと見つめられているようですが……どうしました?」


「……ハッ!……な、ななな、なんでもない!ヘイキヨ!」


 顔を赤くして首を素早く振りながら答えたティナは皿を手で持ち、フォークで料理を一気に口の中へとかきこんでほとんど噛まずに飲み込んだ。


「顔が赤いですよ?」


「きのヘイよ!(気のせいよ!)」


「呂律も回っていませんね。なにか料理に変なものが入っていたのでしょうか……」


「だっ!ダイジョ……すぅ……はぁぁ……コホン、大丈夫よ、大丈夫。料理は美味しかったし別に貴女の素顔を見て見惚れて取り乱したとかじゃないから。普段から仮面で見えない顔で私も貴女の顔を見れた数少ない人間の人になれたことが嬉しいとかそんなこと全然思ってないから勘違いしないでよね。想像以上に美人なのに左側の頬に一本の痛々しい傷があるのはどうしてなの?それによく見たら首にもいくつか傷があるし明らかに私は歴戦の猛者ですって感じで予想外じゃないけど想像以上だったから少し驚いちゃったわ。それでこそ私が認めた人間の一人よ流石だわ。正直、惚れな…認め直したわ、やっぱり貴女って凄い女性よ本当に…」


「ティナ様、落ち着いてください。早口すぎます」


 次から次へと早口で言葉を並べていくティナにダイヤは落ち着くように言うがティナは冷静に見えて興奮していて歯止めが効かなくなっており、ダイヤが言葉で彼女の落ち着きを取り戻そうと試みたが夕方になるまでティナが落ち着きを取り戻すことはなかった。


 ティナがようやく落ち着きを取り戻し、日が落ち始め暗くなってきた店内を天井から吊り下げられたランタンが照らす。ランタンによって照らされた店内では夕食を食べようと集まってきた客達で賑やかになり始めていた。


 そんな時、賑やかになってきた店内を見渡していたダイヤに頬杖をつきながら彼女のことを見ていたティナが口を開く。


「そういえば、今日は何をさせられていたのよ」


「何を……魔導剣のことですか?」


「魔導剣?なにそれ?」


「魔法使いではない方でも様々な魔法を使い、ドラゴンやゴーレムのような硬い鱗や皮膚を持つ相手に対して有効打を与えることができる剣、それの試験品です。今日はそれの評価を行っていました」


「ふーん、私にはあまり関係なさそうだけど。使ってみてどんな感じだった?」


「まだ重いです。刀身は使っている鉱石が軽く丈夫なものなのですが、カートリッジ式のため装置の重量が影響して普通の剣ほど軽くありません。刀身を細くする案が出ていたようでしたが耐久性に難があり、剣内部の装置も限界まで小さくしているため開発が難航しているそうです」


 ダイヤの説明を聞いたティナは「ふーん」と鼻を鳴らし、不満そうな顔で彼女の顔を見続ける。


「ダイヤは優しいわよね。受付嬢なのに色んな人に手を差し伸べて」


「何か悩み事でもあるのですか?ティナ様」


「あるわよ。私だって人間なんだから」


「私で良ければお聞きします」


 ティナは彼女の言葉を聞いて置いてあるベルを軽く叩いて音を鳴らす。ベルの音を聞いたリィーロがお盆を脇に抱えたままティナ達の席へやってくるとティナは顔を上げて店員と目を合わせる。


「野菜ミックスジュースとディメルのステーキを一つずつ、私は以上」


「では、私はいつもの物を」


「あっす、しょしょお待ちをー」


 昼間とは全く違う接客態度で厨房へと早歩きで戻って行ったリィーロにティナは首を傾げ、厨房の方向に指を指して「なにあれ」と言いたげな表情をダイヤに向ける。


「夕方からは忙しくなりますから。態度はよくありませんが実際、愛想良くしていると面倒な絡みを受けることもあるので態度よりも他のお客様への提供を優先しているんですよ」


「は、はぁ……よくそれで客が来るわね」


「料理の味は高級料理店と変わらない物を提供していますし、ここでは無駄な気を使うこともないので疲れにくいんです」


「変な気?城下町って何処か気を使うところがあるの?」


「城下町には貴族の方が大勢いらっしゃいますから、身だしなみや態度など気を使うところが多く、ダイヤクラス冒険者からすると中々気を楽にして料理を食べられる場所がないのです」


「なるほど、だからここみたいな場所を好むのね。貴女も?」


「元々、貧相な暮らしをしていた者ですから……貴族の方と御一緒に食事をするのは気疲れしてしまいます」


「ふふ〜ん?そうなんだ?」


 なぜか嬉しそうなティナにダイヤは不思議に思っていると、厨房から出てきたリィーロが注文されたステーキを素早く音を立てずに置いて軽く頭を下げて厨房へと早歩きで戻って行った。


 木製の皿の上に載せられた鉄板の上で油が弾ける音を鳴らしながらランタンの光によって輝きを放っているように見えるステーキにティナは思わず喉を鳴らし、一瞬だけダイヤのことを見てからフォークとナイフを手にステーキに手を付け始める。


「う、旨い……ドラゴンの肉とか初めて食べたけど柔らかくて噛んだところから出てきた油が口の中に広がっていく感じ……美味しすぎる」


 料理を楽しんでいるティナを見て微笑みを浮かべるダイヤのことに気付かず、分厚いステーキを食べ進めていたティナは手を止めずに話を始めた。


「さっきの悩み事のことなんだけど……もぐもぐ………私、むかし魔王を倒したソードマスターに助けられたことがあるの」


「……無銘の白狼ですか?」


 ダイヤの表情から先程までの微笑みは消え失せ、いつもの無表情になったことを知らずにティナは話を続ける。


「そう、あの人に今私が食べてる肉。ディメルっていうドラゴンに喰われそうになった時、あの人がアイツの首を斬り落として助けてくれた。私は…その時の御礼を彼に伝えたいの。でも、何処にも彼は居なくて……もう5年以上この街で探してるのに全然会えないの」


 ティナはステーキを食べる手を止め、顔をゆっくりと上げる。


「彼に……会わせてほしいの。貴女なら彼がどこに居るか知っていると思う…から」


「………」


 ティナの相談にダイヤは口を閉ざし、ただ彼女の目をじっと見つめ続けた。それに対してティナは黙って彼女からの返答を待ち、賑やかな店内に緊張感に包まれた空間が出来上がった。

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