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カムレックスとシルバーメダル

 アルバ達が街へ安全に戻れるように囮となったディーマ。本来であれば、ゴールドメダルが相手にするような強敵を前にディーマは冷静に相手の動きを見ていた。


「……二匹じゃないってことはコイツは一人で食事を探しに来たのか?なら、俺を狙うよりアルバ達を狙うだろうな」


 ディーマはアルバ達を追わせない為にポーチから一時的に嗅覚を麻痺させる液体が入った瓶を取り出して自分の剣に液体をかけた。


「行くぞ!」


 空になった瓶を捨てて飛竜に向かって走り出したディーマにカムレックスは空へと飛び上がる。ディーマは左手を飛竜に向け、左手に展開した魔法陣から光の鎖が放たれると飛竜の足に巻き付いた。


 巻き付けた鎖を魔法陣の中へ戻すことで地面から離れて空を飛ぶ飛竜に近付いていくディーマだったが、振り落とそうと空中で暴れまわる飛竜に鎖が耐えきれずに砕け散る。


「逃さねぇ!」


 すかさずもう一本の鎖を魔法陣から射出し、飛竜の首に巻き付けたディーマは鎖を再び魔法陣へ戻すことで急接近し、首へしがみつくことができたディーマはようやく飛竜の首に短剣を突き刺す一撃を与えた。


 首に短剣を刺された飛竜は更に暴れてディーマを振り落とそうと空中で暴れ回り、刺していたナイフが飛竜の首から抜けるとしがみつくものが無くなったディーマは滑り落ちて地上へと落下する。


 地面へ左手と両足で衝撃をやわらげて着地したディーマが飛竜を見上げると怒りで喉を鳴らすカムレックスがディーマのことを睨んでいた。


「そうだ。お前の相手は俺だ。来てみやがれ!」


 飛竜は更に高度を上げ、空中で円を描くようにして飛び回ると急降下しブレスを放った。


 ディーマはブレスを避け、木の近くへ転がると飛竜は勢いを殺すことなく木を足でへし折り、4メートルほどの木を足で掴んで再び空へと飛び上がっていった。


「あいつ、木をどうするつもりだ……」


 木を空中へと持っていった飛竜は掴んでいた木を空中で手放し、木をブレスで一瞬にして火だるまにした飛竜はそれを掴んで急降下を始めた。


「お、おいおい!何だそりゃ!」


 長く冒険者をやってきたディーマでも見たことのない行動に思わず声を上げた。急降下してきた飛竜は燃える木をディーマめがけて落とし、空から落ちてきた燃える木を避けたディーマに飛竜は空からブレスを吐いた。


「分かりやすい動きだな。なんとかなるかもしれない」


 前転でブレスを回避したことでディーマの背後にある木々が燃え広がっていき、煙と灰が空へと舞い上がる。飛竜は滑空してディーマの近くで翼を羽ばたかせてホバリングを始め、空中で咆哮をする。


「いつまで飛んでやがる!ヘタレが!!下りて戦え!」


 言葉が通じないことを分かっていながらも飛竜に向かって挑発するディーマだったが、喉を鳴らして威嚇するだけで空中から下りてこようとも攻撃してくる気配も無いカムレックスにディーマは違和感を感じていた。


「何かを……待ってる?なるほど、つがいか……」


 カムレックスが何を考えているのかを予想したディーマは潮時と考え、ポーチから煙で一杯の瓶を取り出して左手で鼻と口を覆いながら自身の足元に叩き付ける。ディーマの体はすぐに煙に包まれ、飛竜の視界から逃れたディーマは木々の間へ身を低くしながら入っていった。


「よし……嗅覚を奪って、いくらか時間は稼いだ。俺も逃げるとしよう」


 ディーマは街へ戻るルートを考えながら木々の間を歩き、振り向いてまだ燃えている木々を見るとそこに人影のようなものが見えることに気が付いた。


「人?……おいおい、勘弁してくれよ」


 ディーマは来た道を戻り、近くの草むらに隠れて人影を見ると人影は首からゴールドメダルを下げ、自身の身長と同じほどの大太刀を両手で持ち、空を飛ぶ飛竜のことを睨んでいた。


「ゴールドメダル?どうしてここに?」


 ディーマは草むらから様子を窺い、助けが必要そうになったら手助けしようと考えながらゴールドメダルを首から下げている少女のことを見守る。


「カムレックス、空を飛ぶことしか脳がない飛竜。と思っていたけど木を道具にする頭はあったみたいね。あんまり強そうな技には思えなかったけど」


 大太刀を握りしめ、歩いて飛竜との距離を縮めていくティナ。それを空中から見下ろすカムレックス。


「まあ片目であんなことをやれるんだから、普通の奴より強いのは分かるけど。でも、普通のとそれほど変わってるようには思えないわ」


 ティナは姿勢を低くして身を屈め、地面を強く蹴って飛び上がると空中で赤い魔法陣による足場を作り、それを使って跳躍しながら飛竜の眼前に出る。


 素早い動きで目の前まで来たティナに反応が遅れた飛竜は顔を大太刀で切られ、慌ててティナから離れようと翼を羽ばたかせて後退するもティナの刺突で右の翼を貫かれ、そのまま飛膜を斬り裂かれるとバランスを崩して地面へと落ちた。


「次は首を斬り落としてやる」


 落ちた飛竜に追撃するため、魔法陣を蹴って加速しながら土埃の中で首を振っているカムレックスへ刃先を向けたティナにカムレックスはブレスを放った。


 しかし、放たれたブレスは魔法陣の壁に阻まれて無効化され、攻撃を避けようと飛び上がったカムレックスの体へ魔法陣による方向転換を行ったティナによって深い切り傷が付けられる。


 大きな鳴き声と共に再び地上へと落とされたカムレックスへトドメを刺そうとティナが大太刀を振り落とした瞬間、突風と共にそこにいたはずのカムレックスの姿が突然消えた。


「チッ!あと少しだったのに……!」


 ティナが空を見上げると片目のカムレックスのつがいが、弱ったカムレックスの首と体を足で掴んで遠くへと飛び去る姿がそこにはあった。何処かへと飛んでいこうとする飛竜を追跡しようと一瞬考えるティナだったが、大きくため息を吐いて大太刀を背中の鞘へと戻した後、近くの草むらに隠れている人物に目を向けた。


「いつまで隠れてるのかしら?」


「ハッハッハ、いやー流石に気付かれてるか」


 ティナの一言で気付かれていることが分かったディーマが草むらから出ていくとティナは腕を組んでディーマの体を舐めるように見た。


「おいおい、おじさんを食おうってのか?」


「はぁ?私は人間を食べたりしないわよ。どこにも傷が無いことを確認しただけ」


「食おうってのはそういう意味じゃないんだが……まあ知らなくてもいいことだしな。とにかく助かったよ、ゴールドメダルのお嬢さん」


「たまたま私が近くにいて良かったわね。と言っても、私が着いた頃には逃げる前だったみたいだけど」


「もしかしたら追われていたかもしれない。そう考えれば助けてもらったことになるだろ?」


「あっそ、東の森は最近危ないんだから近寄らないほうが身のためよ。それより、貴方もしかして外から来た人なのかしら?」


「あぁ、そうだが?」


「なるほどね。それならここが危ないってことも知らなくて当然か」


 ディーマが外から人間だと知ったティナは軽く頷いて納得し、腰に手を当てて周りを見渡しているとディーマが咳払いをしてティナの隣に歩み寄った。


「何よ?」


「実はな、俺はソードマスターに会いたくてあの街に来たんだ。君は大太刀を使っているようだが、ソードマスターのことを知らないかな?」


 ソードマスターに会いに来たと言うディーマにティナは平静を装いつつ腕を組んでディーマと顔を合わせた。


「彼があの街に住んでるって話?十年前にあの街に帰ってきたことは知ってるけど、それだけで誰も知らないわ。ソードマスターの偽物はわんさか居たけど」


「じゃあ本物には会えないのか?」


「残念ながらね。私だって会いたかったから情報収集したけど、いくら情報を集めても変な情報ばっかりだった。実は女だったとか、亜人種だったとか。信じ難い情報と嘘で有耶無耶よ」


「ふむ、女か……。それならあり得るかもな」


「無銘の白狼が女性とか男どもの妄想でしょ」


「ハハハ……そうかもな」


「でしょ……っ!!誰!?」


 妄想と言われてディーマが苦笑しているところへ誰かの気配を感じたティナが大太刀の柄を握って振り返るとそこには血塗れになった黒色の上着と水色のズボンという私服姿の受付嬢が小さな袋を片手に立っていた。


「あっ…あ、あああ、アンタ一体…どうしたのよ!!その血は!?どこか大怪我したの!!?」


 血だらけの受付嬢を見て顔面を蒼白させたティナは太刀の柄から手を離して駆け寄り、手に血が付くことを気にせず受付嬢の体を直接触って確認し始める。


「いえ、返り血です。邪魔が入ってしまったので遅れてしまいました」


 そう言って受付嬢がディーマに近付くと持っていた袋を彼に差し出した。


「これは?」


「道中で捨てられていたので拾いました。ゴブリンとオークの指です。数も合っているので、しっかり持ち帰って報告してください」


「お、おう……ありがとう」


 ディーマに袋を渡した受付嬢は背を向けて街へと歩き出した。その後ろ姿にどこか懐かしさを感じたディーマは、袋を持ったままその場で固まった。


「あの隙がない後ろ姿……まさか、あの受付嬢が……?」


 受付嬢の後ろ姿がディーマの若い頃の記憶にあるソードマスターの後ろ姿と重なり、彼女がソードマスターではないかと思ったディーマは彼女が斜掛に背負っている武器が太めの刀身の直剣であることを見て、彼女がソードマスターではないかという思いを強めていった。

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