静かに動き出す陰謀
王女達が森に入った頃、ディーマとティナは隙を見て移動する事を繰り返して森の中にある川の近くまで来ていた。
「川に出たわね」
「ああ、川に近付きすぎるなよ」
「なんでよ?」
「ん?あぁ…。さっき見かけたバケモンが居てな。…ちょっと見てろ」
ディーマが足元にあった拳よりも少し小さな石を拾い上げて川へ向かって投げると、川に落ちた石が水しぶきの音を周辺に響かせる。
川の流れる音にすぐにかき消されてしまうが、間を置かずに反対側にある木々が軋む音を響かせ始め、ティナとディーマはすぐに草むらに身を隠した。
音がする方向へ意識を向けていたニ人だったが、背後から聞こえた枝の折れる音に反応して同時に振り返る。
しかし、背後には何も居らずディーマがすぐに川の方へ目を向けようとした時だった。
ディーマの首が何者かの手で掴まれ、持ち上げられるとティナがそれに気付いて剣を抜いて数歩下がる。
「ぐっ!な、なんだっ…?!」
「一瞬でこんな近くまで…。アンタ、何者!?」
ティナに問い掛けられても反応せず、血の気のない肌をしている男はディーマの首を絞めている手に力を入れ、右手に持つ刀で串刺しにしようとしていた。
「やめなさい!!」
ティナはそれを止めようと跳躍魔法で素早く男の背後を取り、首を狙って大太刀を振るうが男は刀でティナの大太刀を振り返ることなくいなす。
一瞬の隙を見せたティナにディーマを投げ、至近距離からディーマを投げ付けられたティナは彼を受け止めようと大太刀を手放してしまい、ディーマがティナに覆い被さるようにして二人は倒れてしまう。
近付いてきた男が刀を振り下ろそうとしているのを見たティナはディーマを投げ飛ばし、転がるようにして男の刃から逃れる。転がった勢いを利用して素早く立ち上がり、両手で構えを取る。
「どわぁぁぁーー!!」
投げ飛ばされたディーマは悲鳴をあげながら草むらの中へと消えた。
構えを取ったティナに男は刀を構え直し、刃先を向けられたティナは冷や汗を流す。
(どうする?構えは取ったけど、人間と素手で戦ったことなんてないわ…)
刃先を向けたまま、少しずつ近付いてくる男にティナは後退りをする。
男が僅かに動いた次の瞬間、一瞬にして男はティナの視界から男は消え、彼女は背中が凍りつくように感じた。
「っ!!」
その場から横へ飛び退くことでティナは攻撃を回避しようとしたが、背中から熱と痛みが広がっているのを感じたティナは歯を食いしばる。
(コイツ…私より速い。どうすればいいのよ…)
いつ男が再び飛び込んでくるか分からない恐怖に心臓が高鳴り、額に汗を浮かべるティナは男の背後で動くディーマに反応して視線を彼に向けてしまう。
ティナの目の動きを見て男は振り返ると刀でディーマのナイフを弾き飛ばし、彼に斬りかかろうと刀が振り下ろされる…。
が、いつの間にか男の眼前に投げられた閃光ビンが炸裂し、眩い閃光によって男の視界が奪われる。
閃光によって目を奪われた男は刀を振り抜くが、刀から何かを斬ったような感覚がしないことに男は息を吐く。
男が隙を見せた一瞬の隙にティナと共に森の中を走っていたディーマは、周りを見て敵が追ってこないことを確認してから息を整える。
「アイツなんなの?あれがアンタの言ってたバケモノ?」
「ちげぇよ…はぁ…はぁ……アイツじゃねぇよ、ゴリラみてぇな奴だ…。ちくしょう…はぁ…はぁ……少し休ませてくれ…」
「全力で走ったけど、そこまで離れてないわ。急いで息を整えて」
「おっさんに無茶言うなよ…。あとな、俺に気付いても気付かないフリをしてくれ…」
「……悪かったわね。自然と目を向けちゃったのよ」
「まっ、明らかに対人戦はしたことが無さそうだったもんな。仕方ねぇか……。ふぅ…もう大丈夫だ。背中の傷を見せろよ、治療してやるから」
「……自分でやる」
「何もやましいことは考えちゃいねぇよ。そんな顔すんな。俺にやらせた方が早い、早く地面に座れって」
息を整えたディーマはしかめっ面で背中を見せたティナの傷を持っていた回復薬で治療し、治療を終えて羽織っていたマントを彼女に羽織らせ、周りを見渡した。
何かに気付いたディーマはティナに頭を低くするように手で指示を出すと、ティナはそれを疑問に思いつつも姿勢を低くする。
草をかき分けるような音にティナは草の中でうつ伏せになって隠れるが、ディーマは草をかき分ける音がする方をじっと見続けていた。
「さっきの奴とは足音が違うな。それに三人か」
「捜索隊?」
「それにしては早いな」
小声で話す二人の近くへ三人の影が段々と近付いてくる。近付いてくる影達を目を細めて見ていたディーマは何かに気が付くと隣に居たティナを叩く。
「おい、受付の姉ちゃん達だ」
「えっ?」
ティナはゆっくりと顔を上げて三人の影を確認すると見知った顔の二人が既にこちらに顔を向けていた。
「ダイヤとエカテリーニ!」
二人の顔を見て思わず手を上げようとしたティナの手をディーマは掴んで止めた。
「待て、警戒心を解くには早すぎる」
「え、えぇ…。ごめんなさい」
二人はゆっくりと立ち上がり、周りを警戒しつつ三人のところへ向かって歩き出す。
既に二人に気付いていた三人も周辺を警戒しつつ近付いていき、二人と合流した三人は二人から報告を受ける。
「ふむ、不気味な血の気のない肌の男…。今の異変に関係しているかもしれん」
「…私が調査しましょうか?」
「いや、ここは一度街へ帰還するべきだ。もう既に何人も犠牲になっている。遺体を持ち帰り、兄上に報告する」
「…分かりました。では帰還しましょう」
エカテリーニが転移魔法のゲートを開き、先にティナとディーマの二人を行かせ、王女がゲートへ入った後を追いかけようとしたダイヤの足が止まる。
「エカテリーニ、誰かに見られています」
「…ええ、ですが出てくる様子はありません」
「……帰りましょう」
ダイヤはゲートへ入り、最後にエカテリーニがゲートに入るとゲートは閉じられ、ゲートのあった場所に一人の男が現れる。
「白狼…」
ただ一言だけ発した男はその場で立ち尽くし、目を閉じて握っていた刀を鞘へ戻した。
ギルドへ戻った王女達は一度解散し、ダイヤはギルドマスターに報告しようと、カウンターに立っていた受付嬢達に挨拶しながら事務所の扉を開ける。
「アトラルカ、ただいま戻りました…。ふむ…居ませんか」
事務所には誰も居らず、ギルマスの机には一枚の手紙が置かれていた。
ダイヤはギルマスの机に置かれた手紙を見ると、その内容が自分に宛てたものだと気付く。
「時が来た。一週間後に破滅を届けに参ります…。破滅の魔女より…」
「まーたふざけた事、言ってんじゃん。センパイ、ヤるんなら手伝うけど?」
「…リズさん、相変わらず音も立てずに隣に立つのが得意ですね」
いつの間にか隣に居たリズにダイヤは顔を見合わせると、リズの服装が受付嬢の制服ではなく黒色の戦闘服だということに驚いた。
「リズさん、その格好は…」
「バッチし決まってしょ?アイツの洗脳魔法が解けたから着替えて来たんだけど…。居ないんじゃ探すしかないか~」
「洗脳?」
「あ、そうだ。ウチらでも軽い洗脳状態だったみたいだし、白狼様でも軽く洗脳されてると思うんだ。だから…」
リズが指を鳴らして人差し指をダイヤに向けると、ダイヤは徐々に意識が朦朧とし始める。
首の違和感に気付いたダイヤは首に手を当てると、いつの間にか小さな針が首に刺さっていた。
「リズ…さん……」
「まぁ、ウチの本業は暗殺者だし。白狼様でも気付くのは無理だよ。今の弱くなってる白狼様じゃあ特に…ね。安心していいよ、少しの間だけ意識が飛ぶだけだから」
机を支えにして耐えているダイヤにリズは近付き、その体を支えた。
「ほら、安心して眠って…」
リズが優しくダイヤの耳元で囁く。子を眠りに誘う母親のように。




